インタビュー
JAXA職員が民間企業で働く「越境プログラム」がもたらす意外な効果(前編)
2022.09.05 08:30
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の職員が民間企業に短期留学!? そんなユニークなプログラムが2019年度から始まっている。正式名称は、新事業促進部と人事部で主導する「宇宙ビジネス共創・越境プログラム」(原則、週1回・半年間)。
官民一体で宇宙産業の市場規模を倍増させようという時代。「全てを JAXA内で完結するのではなく、外部と連携して事業を実現するために必要な、提案力の強化に取り組む」「民間事業者等との相互の人材交流等、人材流動性を高める取り組みを推進」と第4期人材育成実施方針(PDF)に明記されている。
この方針を実践すべく、2021年には3人の職員が政策金融機関、化粧品メーカー、デザインコンサルティング企業に“越境”。彼らはどんな体験をし、気付きを得たのか。
新しいことをやってみたかった、異なる価値観に出会いたい
――越境プログラム参加は職員の応募から始まります。なぜ外に出たいと思ったのか。日本政策投資銀行(DBJ)に越境した岡本さんはどうですか?
岡本太陽氏:僕は入構17~18年目の職員です。JAXA内の常識は身に付けているけれど、新しいアプローチや全く違う視点での発想に飢えていました。
――なぜDBJを希望されたんですか?
岡本氏:以前、航空技術部門で働いていた時、業務担当としてDBJとの連携推進に取り組んでいました。その時、技術と金融をかけ合わせたら面白いことになると思ったんです。
でも、当時はDBJとJAXAの連携について具体的な“玉”を生み出すのが難しくて、しっかりできなかった。もっと金融の世界のことを知っていれば、“玉”を作れたんじゃないかという思いがありました。
――“玉”を作るとは?
岡本氏:JAXAが民間企業と共同研究をやっている技術テーマに対して、DBJに投資または融資をしてもらう段階まで持っていきたかった。でも、お互いが考えている常識や活動を熟知できていなかったところもあって、その段階に至りませんでした。
――なるほど。では、資生堂に越境された島さん、お願いします。
島明日香氏:私は2009年に入構して以来、ずっと基礎研究に従事しています。研究内容は変わるものの大きなテーマは変わらず、ひたすら自分の専門性と研究の成果を追ってきました。今後、私や私のチームが出した研究成果を社会実装も含め実用化を考えた時、多分JAXAだけではできなくて、企業との連携や共創が重要になってくる。
でも、私は、そもそも企業が研究開発に対してどのような姿勢で取り組んでいるのかを知りません。企業の理念や考え方をちゃんと知ってみたい。
ざっくばらんに言うと、新しいことをやってみたくなったんです。研究内容は少しずつ変わっても約13年間、メンバーは固定。やりやすいけど、ちょっとあかんかなと(笑)。