インタビュー

JAXA職員が民間企業で働く「越境プログラム」がもたらす意外な効果(前編)

2022.09.05 08:30

林公代

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岡本氏:彼らが何をどこまで詰めて社内の稟議にかけて(投資の「ゴー」を)通すのか、ものすごくよくわかりました。なんとなく有望な技術があるだけではまったくだめで、それを使って目先の収益性はもちろん、社会が将来どういう風に変革されるのかも含め、事業プランにしっかり落とし込んでないと投融資の説明がつかない。

 JAXAで今後、共創のための活動をどんどんやっていくと思いますが、その視点をもっとシビアにもってないといけないということが、肌感を持って学べた機会でした。

――DBJに行って初めて気付いたことはありますか?

岡本氏:DBJは政府系の金融機関で大きな組織だから、投融資の判断を機械的にシステマティックにやっているんだろうと思っていました。ところが、投融資を実行するかしないかは本当に担当者の情熱が大きいというところがすごい気付きでした。

――担当とはDBJのですか?

岡本氏:はい。DBJの担当者が「これは将来有望な技術、お金をつけてあげたい」と思って、投資先と一緒になって事業プランを改善していく。それをDBJ社内の稟議に載せる。

 彼らは「日本の産業のここを強くしたい」とか「この企業は将来的に世界に伍して戦えるから今の段階から支援したい」と個人の情熱で仕事をしているところがある。果たしてJAXAにいる自分って、そこまで個人の情熱を燃やして何かやれているかと思ったら、胸を張って言えないと改めて思ったんです。

スピーディに研究サイクルを回して新しい価値を創出

――島さん、資生堂での活動内容と気付きを教えて下さい

島氏:私は資生堂がスタートアップとの共創などから新しいイノベーションを回していこうというプログラム「fibona(ふぃぼな)」の事務局に参加させて頂きました。fibonaでは研究者と消費者が研究シーズについて対話したり外部と連携しながら、新しいモノづくりをやっています。

 私はベータ版の商品を作るディスカッションや海外や国内のスタートアップの共同研究を立ち上げるためのディスカッションなどに参加させてもらいました。私の研究内容にも興味をもって頂き、地上におけるサステナビリティに対する提言についてお話させてもらいました。

――fibonaとは初めて知りましたが、面白そうですね。

島氏:資生堂さんは大企業で、商品を作るために基礎研究から応用研究、開発と時間がかかるところに問題意識を抱えていました。彼らは例えば何十代の女性でこういうアクティビティをもってなど、具体的な相手を対象としています。

 しかし、今は対象の方のニーズが変わりやすくなっている。つまり、従前の製品開発にリズムが合わなくなっているんです。

 そこで小さなマーケットでいいから、自分たちの研究シーズを早めに市場に投入し、クイックに商品やサービスを提供し、新しい市場を開拓していこうという理念がある。女性全員に受けなくてもいいから、新しい技術を入れてマーケットの反応をみて、うまくいけば事業として転換していきたいと。

――島さんにとっての気付きは?

島氏:fibonaでは化粧品でなくても食品はどうかなど分野を変えながら、研究者自身が消費者と話しながら価値を創出している。その取り組み自体が非常に新しい。

 私たちも外部の研究資金を取りに行くことはできます。でも、成果が出て、スタートアップと共創したらいいかもと思っても、そのスタートアップを自分で探しにいかないといけない。

 fibonaでは研究成果の発表の場で「これは商品になりそうだ」となると事務局が外部との連携を探しに行ってくれる。研究シーズから商品を作るまで半年から1年ぐらい。研究者としては非常に羨ましい活動だと思いました。スピーディに研究サイクルを回して新しい価値を生み出すところに情熱を注いでいたことが、かなり大きな気付きです。

「fibonaでは海外との技術的なやり取りにハードルが非常に低いのも目から鱗だった」(島氏)。例えば、共創相手として韓国企業のスタートアップのピッチコンテストを開催。韓国貿易協会(KITA)が保有するオープンイノベーションプラットフォーム「Innobranch」がコンテストの取りまとめを担った

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