インタビュー

「日本が宇宙輸送のハブになる」–スペースポートジャパン山崎直子代表が語る「宇宙港」への期待と課題

2024.02.15 09:00

藤井 涼(編集部)藤川理絵

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 SpaceXなどが手がける民間ロケットによる人工衛星および宇宙飛行士の打ち上げや、ヴァージン・ギャラクティックが2023年から提供を開始したサブオービタル宇宙旅行など、近年ロケットや宇宙船の打ち上げ頻度は世界的に増加している。

 そこで今後ますます重要になってくるのが、地上と宇宙をつなぐ“空港の宇宙版”とも言える「宇宙港(スペースポート)」。日本での宇宙港の開港を推進しているのが、元JAXA宇宙飛行士で、一般社団法人Space Port Japan代表理事の山崎直子氏だ。日本ならではの宇宙港の強みや世界におけるビジネス事例など幅広く話を聞いた。

一般社団法人Space Port Japan代表理事の山崎直子氏

日本の強みは「地域特性」と「航空宇宙産業の集積」

――まず、Space Port Japanが目指すことを教えてください。

 宇宙輸送や人工衛星の活動が世界的に増えている中で、より多くの人も宇宙に行き来するという時代を見据えて、われわれは「日本が宇宙輸送のハブになる」ことを目指しています。

 世界の空港にも「ハブ空港」と言われているところがありますが、宇宙領域において日本がその位置づけを取ることが、宇宙産業にとってはもちろんのこと、これからの日本の国力自体を考えた時にも、とても大切になると思っています。

――山崎さんは代表理事として、どういった活動をしているのでしょうか。

 Space Port Japanは、約50社の正会員さん、14の自治体さん、そして多くの賛助会員の方々と一緒に取り組んでいます。創業メンバーは7名いまして、JAXAや弁護士、マーケティング領域、投資家など各分野の専門家です。私もそのうちの1人です。

 それぞれの知見を持ち寄りながら、日本にある民間・自治体の宇宙港と連携を取りつつ、制度面での共通の課題を洗い出して政府と調整する、海外の宇宙港との窓口になるなど、一言でいうと「プラットフォームの役割」を担っています。

――世界と比較して、日本の宇宙港にはどのような強みがありますか。

 米国では、FAA(Federal Aviation Administration:アメリカ連邦航空局)が認可済みの宇宙港は14カ所あります。日本でも、JAXAのロケット射場(「鹿児島県南種子町」および「鹿児島県肝付町」)の他に、4カ所(「北海道の大樹町」「大分県の大分空港」「沖縄県の下地島空港」「和歌山県の串本町」)が動いていますが、それぞれの宇宙港が地域に根ざした特色を持っていく必要があります。

 そうした意味で日本は、地理的には海に囲まれて、特に東側は海に開けている。それから南北にも長く、地域ごとの特性があります。たとえば北海道の大樹町は晴天率が高く、沖縄であれば赤道に近いなど、それぞれの特色を生かしたところが強みになります。

 日本全体としての強みは、航空宇宙産業の集積です。いまアジアでも宇宙港を誘致しようという動きが活発で、すでに宇宙港がある韓国はさらに増設しようとしていたり、インドネシア、シンガポール、マレーシア、オーストラリアも、非常に積極的に動いています。

 日本も早めに動くことが大切ですが、やはり航空宇宙産業が根ざしているというのは、アジアの国々の中で日本が本当に優れているところです。人工衛星やロケット開発も、一連の部品レベルからインテグレーションレベルまで、ベンチャー企業も含めて非常に集積していると思います。

――2023年度は、10年で1兆円規模の「宇宙戦略基金」をJAXA内に設置することが発表されるなど、政府による民間宇宙ビジネスへの後押しもありました。宇宙港にとっても追い風になるでしょうか。

 はい、追い風になってきます。これまでにも衛星などではいろいろな産業政策はありましたが、2023年度からは規模が非常に大きくなり、その範囲も広がりました。特に宇宙輸送へのSBIR制度や、宇宙戦略基金などがこれから期待されます。

 いままで日本は、JAXAの基幹ロケット以外の民間宇宙輸送に対する政策があまり強くはなかったので、小型衛星を開発する日本の衛星メーカーさんはほとんど海外で打ち上げていました。結果として小型衛星に対する国の補助金の少なくない部分が海外に流れてしまっていた、非常にもったいない構造でした。今後はきちんと日本の宇宙輸送産業を育てることで、国内でも(数多くのロケットが)打ち上がるようになり、衛星の開発、打ち上げ、運用もするというシームレスな流れができることに期待しています。

これからの宇宙港は「多種多様」

――日本にはすでに「種子島宇宙センター」や「内之浦宇宙空間観測所」などのロケット発射場があります。そういった施設に比べると、北海道スペースポートの射場などはかなり簡易的な施設です。

 そうですね。JAXAが持っている施設は本当に立派なものですが、これからは小型衛星の打ち上げなど、機動性を持たせた宇宙港もとても大切です。いかに初期投資を少なくして、段階を追って発展させていくか、皆さん工夫しているところだと思います。

――日本で開発が進んでいる4つの宇宙港は、1社専用の射場もあれば、オープンな射場もあります。また、当初は打ち上げのみ、着陸のみなど、そのアプローチも多種多様な印象です。

 やはりいまの段階では、多種多様な解を求めていくことが大切だと思っています。日本でも小型衛星の打ち上げ需要が増えて、打ち上げが追いついていない状態なので、垂直での打ち上げや、滑走路を活用した水平発射も含めて、いろいろな手段を持っているのは、非常に強いことだと思います。

 特に、衛星のコンステレーションが組み上がっていく過渡期には、打ち上げ機数が継続的に増えていきます。そして、一通りコンステレーションが組まれた後も、定期的にどんどんリプレイスをしたり、海外の需要が増えたり、有人無人含めて輸送の種類が増えてくることを考えると、現在よりも打ち上げ需要が高い状態が続いていくと考えられ、その需要を満たしていくことが大切だと思います。

スペースポートジャパンのウェブサイト

――日本は米国などと比べて国土が限られていますが、宇宙港の最適な数はどれくらいだと考えていますか。

 ロケットを打ち上げるための宇宙港と、宇宙旅行用の宇宙港、それぞれ役割分担していくという意味では、もう少し(数が)あってもいいかもしれません。これから増えていく可能性も十分にあると思っています。

――米国にある14の宇宙港の中で、山崎さんが面白いと思った事例はありますか。

 宇宙港というと、ニューメキシコ州の広い砂漠の真ん中や、海に面しているといったイメージが強いですが、ヒューストンには滑走路を活用した空港 兼 宇宙港があって、「都市型の宇宙港」としては非常に興味深いなと私もフォローしています。

 このヒューストンの宇宙港は、民軍両用のエリントン空港と兼用になっています。NASAもここを拠点に飛行訓練を実施していて、私たちも過去に訓練したところですが、宇宙港の設備に市と民間が投資しているという意味でも参考になります。

 実は、このヒューストンの宇宙港とは連携の話もしています。P2P輸送といわれる、宇宙空間を経由して地球上の2地点を結ぶ「宇宙輸送」が始まった時に、日本がそのハブを取ることが大事です。そうすると地方の宇宙港とともに、都市圏の宇宙港も必要になってくるはずで、そうした意味でもヒューストンの宇宙港はベンチマークの1つです。

「宇宙港と周辺産業の連携」が地方創生の鍵

――宇宙港をきっかけとした地方創生も期待されています。

 これからのところもあるので正確には難しい面もあるのですが、世界では英国の南西部にあるコーンウォール、米国のニューメキシコ州にあるスペースポートアメリカなどが、経済効果を算出しています。年間あたり数百億円規模の地域への貢献があるのではないかということで、やはり宇宙港単体ではなく、「周辺産業との連携」が鍵だと思っています。

 たとえば、衛星の打ち上げでは、技術者が何十人という単位でその地域に住みますので、宿泊施設や飲食業などに直接効果があることに加えて、宇宙港がある地域ごとにいろいろな宇宙企業を誘致することで、産業としての集積が起こります。さらに、研究所などの二次的な連携の波及効果まで含めると、経済効果は非常に大きなものになると期待しています。

――世界各国の宇宙港で、すでにビジネス成功事例はあるのでしょうか。

 まだ皆さんそれぞれ工夫をされているところで、実際に民間宇宙港として稼働し定常運航しているのは、ニュージーランドにある米国ロケットラボ社の射場、スペースポートアメリカなどでしょうか。あとは、NASAが持っている施設を借りていることなどが多いです。

 そのなかでも成功事例としては、カリフォルニア州の砂漠にあるモハベ空港 兼 宇宙港でしょうか。もともと空軍が保有している施設を民間に貸し出しているところで、そこは開発をメインにしている空港 兼 宇宙港になります。 基地が広く、初期段階から飛行機や宇宙機もいろいろ開発しているところで、空港 兼 宇宙港としての運営的にも赤字ではなくしっかりと潤っている。その点は非常に大切だなと思って見ています。

 日本には開発ができる宇宙港は実はあまりなくて、北海道の大樹町や下地島空港がそれを目指しているので、ぜひインターステラテクノロジズさんやPDエアロスペースさんなどには、打ち上げと開発を両立させながら宇宙港整備に取り組まれることも期待しています。開発となると長期的なプロジェクトになりますし、需要も多いと思います。

――まだまだ世界の宇宙港も始まったばかりという状況なのですね。

 そうですね。ただ、P2P輸送のハブはまだまだ先なのですが、徐々にロケットも再使用で着陸してくる時代、ヴァージン・ギャラクティックのような宇宙旅行も始まっている時代なので、スペースポート同士の連携は海外ではどんどん進んでいるんですね。

 米国では毎年「スペースポートサミット」も開催されていて、他国からも宇宙港の関係者が集まっています。日本も、きちんと制度整備をしたり、存在感を示したりして、海外との連携を早めにしておくことはとても大切だと思います。

宇宙港は「みんなで進める街づくり」

――宇宙港をより推進していくうえで、日本がいま乗り越えるべき課題は何でしょうか。

 いまの日本の「宇宙活動法」は、人工衛星など無人での輸送しかカバーしていないので、人を乗せて離発着させるという内容を追加しないといけません。また、ヴァージン・ギャラクティックの宇宙商用旅行のようなサブオービタルも含まれていないので、どう扱ったらいいのかというところから整理しないといけません。

 余談ですが米国では、いろいろな議論があった上で、FAAにASTという商業宇宙輸送室ができて、ロケットの垂直型と水平型の打ち上げ許認可が一本化されました。日本でも、空港から離発着するものは航空法なのか、宇宙活動法なのかという切り分けを整理し、各省庁にまたがる部分の整理と、場合によっては宇宙活動法などの関連する法律のアップデートの必要性も議論が必要になります。

――サブオービタルが発展した先に高速2地点間輸送があると考えると、切実な課題といえそうですね。

 そうですね。「日本には降りられない」となると、ハブどころか日本はスルーされてしまうということで、非常にもったいないので、いまから取り組めればと…と思っています。

 サブオービタルに関しては、数年前に「サブオービタル飛行に関する官民協議会」が立ち上がりまして、内閣府と国交省が共同議長という形で進められています。官側はほかにも、文科省、経産省、外務省、総務省が参加されています。Space Port Japanも民間側の一員で、PD エアロスペース、Space Waker、北海道スペースポートのSPACE COTANや、兼松も加わったところです。

――最後に、山崎さんは先日、映画「僕が宇宙に行った理由」に出演し、トークショーにも登壇されていました。民間人も宇宙へ行くようになった時代の変化をどのように感じていますか?

 いまは本当に過渡期でワクワクしています。前澤さん、平野監督、チームの皆さんたちが日本でも民間宇宙旅行の道を開いてくれて、これからどんどん宇宙が身近になっていく、民主化されていくなかで、「願わくば、日本からも宇宙に行く人たちが増えてほしいな」と私も思っています。そうなると離発着場の宇宙港も必要になってきます。

2024年1月17日のトークショーの様子(C)2023「僕が宇宙に⾏った理由」製作委員会

 日本ではまだ人が宇宙に行ったり戻ってきたりするための制度設計や法律整備がないので、その辺りをきちんとしたいと考えて、Space Port Japanも関係者の皆さんと一緒に頑張ってきていますが、時間がかかることでもあります。

 先ほど、周辺産業との連携が大事だとお伝えしましたが、「宇宙港を作る」ということは「みんなで一緒に進める街づくり」と捉えているんですね。人が絡むということは、法律もそうですが、衣食住や保険も含めて、いろいろな産業が関わってくると思います。

 Space Port Japanは、宇宙開発をしているところだけでなく、たとえば宇宙旅行保険を提供している会社や、商社、マーケティング、電気の会社など、さまざまな企業の会員さんや自治体さんがいらっしゃるので、一緒にとにかく準備を進めておきたいと思っています。

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