インタビュー

衛星開発に強いNECが「データビジネス」に注力する理由–SARを生かして空き地検知や地震の被害把握

2023.08.14 11:00

藤井 涼(編集部)日沼諭史

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 国内の宇宙関連事業に最前線で60年以上にわたり携わってきたNEC。同社はGPSなどに利用される「測位衛星」、インターネット接続にも使われる「通信衛星」、地表を監視する「地球観測衛星」などを開発してきた。そのなかでも、今回注目したいのがSAR(合成開口レーダー)を搭載する「SAR衛星」だ。

 NECは「ASNARO-2」というSAR衛星を保有しており、2018年に打ち上げられた後、日々の運用を通じて地球上のさまざまなデータを収集してきた。そこで得られたノウハウが、国や企業、自治体などでいよいよ本格的に活用されようとしている。SAR衛星のデータがどのように役立つのか、具体的にどう活用できるのか。NEC エアロスペースソリューション統括部の石井孝和氏に話を聞いた。

NEC エアロスペースソリューション統括部の石井孝和氏

宇宙におけるNECの強みとSARのメリット

――長年に渡って衛星開発を主力としてきたNECですが、衛星データ活用にも取り組み始めた理由を教えてください。

 SAR衛星の開発とその画像の生成・解析について、われわれは1970年代後半から取り組んできました。そのなかで「モノからコトへ」という会社の方針が示され、物づくりだけでなくサービス事業も展開する流れになりました。われわれも衛星というハードウェアを作るだけでなく、サービスを通じて価値創造をしていくために、1970年代から蓄積してきた衛星データ解析ノウハウ、特に当時は一般企業が扱いにくかったSARのデータを活用できないかと考えました。

 SAR衛星の画像解析によって見えるのは、主に地表面の変化です。そこに価値を見出してくれるお客様がいるのかヒアリングしてみると、それぞれで微妙に要望は異なるものの、さまざまなお客様がそこに価値を感じてデータ提供を待ち望んでいることがわかりました。そこで、2014年から内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に参画し、現在は社会実装に向けて注力している状況です。

NECの宇宙利用ビジネスへの取り組み

――SARデータ事業の詳細について、NECならではの強みも含めて教えていただけますか。

 当社は日本初の商用SAR衛星として「ASNARO-2」を開発し、2018年に打ち上げました。通常、開発した衛星はJAXAに納めることが多いのですが、ASNARO-2はNECが現在も保有・運用し、そのデータを販売する日本地球観測サービス(JEOSS)という会社を立ち上げてSARデータの販売も行っています。

 SARについては、大きく分けて2つの分野で活用しようとしています。1つ目は「インフラの保全管理」です。近年、高度経済成長期に作られた多くの社会インフラが老朽化し始めています。しかし、人口や労働力の減少などもあり、従来の定期点検という考え方よりも、故障箇所をピンポイントで検知して予防保全していく、という考え方が重要になってきています。

 そこで、SARで宇宙から地表面を観測し、地盤の変動を見ることによって露出もしくは埋設されているインフラを間接的に監視する、という技術を提供しています。NECは多数のセンシング技術も持っていますので、それらと組み合わせることで、たとえば設備のサビの分布までわかったりもします。そんな風に細かく見える化することで詳細な劣化把握を可能にします。

SARによる「インフラの保全管理」

 2つ目は「防災・減災」です。たとえば毎年のように見舞われる風水害。多くの場合は光学衛星やヘリコプター、航空機で観測して状況確認や調査を行うのですが、天候に左右されやすい問題があります。人手による地上調査もありますが、危険を伴いますし、広域調査も難しい。そうしたところにASNARO-2によるSARのデータが役に立ちます。

 SARでいち早く分析して広域の風水害状況に関するデータを提供し、詳細調査が必要な重要箇所を抽出して、状況が落ち着いてから航空機や人で確認する、といったような利用方法を想定しています。

SARによる「防災・減災」

――SARのデータを理解している人が少ないという話も聞きますが、その点でもNECの強みはありそうでしょうか。

 たしかに、SARのデータを取り扱える方はそこまで多くありません。その点、われわれは従来から研究開発に取り組んでおり、SAR衛星を運用している部隊もいます。SARデータの判読技術的なところは後進に継承して教育もしてきました。ただ、人間が判読するのも重要ですが、これからはAIで学習させて、判読できない人間でもわかるようにする、というのが主流になってくると思います。

――応用範囲の広そうなSARですが、活用にあたって課題となるところはありますか。

 われわれのSAR衛星はまだ1機しかなく、同じ場所を短い周期で撮影できないため、リアルタイム性に乏しいことが課題です。衛星は北極と南極を結ぶ極軌道を90~100分で1周し、地球の自転も併せることで世界中どこでも観測できるわけですが、衛星の回帰周期(日数)というものもあって、上空の全く同じ場所に戻ってくるのにだいたい2週間かかるんです。

 解決策としては、国内外で打ち上げが進んでいる小型SAR衛星によるコンステレーションです。国内ではSynspectiveやQPS研究所、国外ではフィンランドのICEYE、米国のCapella Spaceなどが小型SAR衛星を打ち上げていて、時間分解能を上げようとしています。

 打ち上げられている数はまだそこまで多くはありませんが、順調にいけば今後2〜3年で100機以上が配備されることになります。そうなれば、どこかの国、どこかの企業の小型SAR衛星が常に上空にあることになり、もっと短い周期で同じ場所の衛星データを入手できるようになります。災害が発生してから4〜5時間以内に広域の被災状況を自治体に届ける、ということも可能になると期待しているところです。

光学衛星とSAR衛星の違い

時系列の変化を捉えられるSAR衛星の活用事例

――SARを活用することで、具体的にはどういったことが可能になるのでしょう。

 われわれが提供しているサービスとしては「干渉解析サービス」と「変化抽出サービス」があり、これを「インフラの保全管理」と「防災・減災」の両方で目的や用途に応じて活用することになります。SARのデータには、衛星からマイクロ波を出して地表面に当てた時の波や波の数を意味する「位相情報」と、マイクロ波が地表面に当たって衛星側にどれだけ強く返ってきたかを示す「強度情報」を含んでいますので、この2つの情報を利用する形です。

 まず「干渉解析サービス」は、そのうちの位相情報を使って地表面の動きを計測します。具体的には衛星のアンテナから地表面までの直線方向の距離の変化を面的にミリ単位で可視化します。それを一定期間蓄積して分析する「時系列干渉解析」により、年に数ミリというような非常に微小な変異を捉え、面的に隆起・沈下の変動を見ることができるわけです。

「干渉解析サービス」と「変化抽出サービス」
画像右は港湾埋立地の解析例。青く見えるところは衛星アンテナからの距離が遠くなったことを表す。これによると大きいところで年間20ミリ程度沈下していると考えられる

 一方「変化抽出サービス」は、強度情報の変化を画素単位で見ることによって、変化した箇所を抽出するものです。主に発災時の状況把握など、地表における大きな変化を捉えるときに利用できます。ウクライナにおけるダム決壊による水害状況もSAR衛星でとらえられています。停止車両や橋梁のような人工構造物はマイクロ波が強く返ってくるので光って見えますし、マイクロ波が返ってこない、もしくは弱く返ってくる水域や畑など植生のあるところは黒やグレーで見えます。

2019年の台風19号により氾濫した宮城県吉田川。冠水した箇所とそうでない箇所とで強度情報に違いが生まれるため、それによって洪水などによる冠水地域を特定する

 いわばデジカメのように見える光学衛星に対して、SARによるデータは人間の目には親和性は低いのですが、途中に雲があっても、あるいは夜であっても、地表を観測できるのがSARの特徴です。さらに位相情報も用いることで地表面の様子を定量的に把握できるところもメリットと言えます。

――NECにおけるSARデータの活用事例を紹介いただけますか。

 「変化抽出サービス」のユースケースで言うと、たとえば自治体による住宅の固定資産税に関わる調査があります。住宅を増築した時にはその分の固定資産税が追加になるため、自治体の主税局が毎年点検しています。そこで「変化抽出サービス」を用いて分析すると、増築した家の有無を広範囲にわたって素早く確認できます。

「変化抽出サービス」は建造物の変化や空き地を検知するのに利用できる

 船の座礁による重油流出のような環境被害の現場においても、斜めからマイクロ波を当てることで波がないところは黒く、波が立っているところが白っぽく見えます。重油の流出箇所は油膜によって波が立ちにくいので真っ黒に見え、どこまで重油が広がっているのか容易に観測できるわけです。

2020年に発生したモーリシャス諸島沖での船の座礁。重油が流出する様子をSARで捉えた

 「干渉解析サービス」では、2023年2月に発生したトルコ・シリア国境付近の大地震で被災した都市を、位相情報によって分析した例があります。赤く見えるところが被害甚大で、黄色い部分は被害のあった箇所、それ以外のところは被害が少ないと考えられます。

トルコ・シリア国境付近での大地震の被災状況を分析

 人工構造物から戻ってくるマイクロ波というのは通常、非常に安定しています。時期を変えたとしても構造物から返ってくる波は常に位相が揃っている、いわゆる「コヒーレンスが高い」状態です。しかし、建物が崩れたりすれば位相が揃わなくなりコヒーレンスに変化が表れます。発災前後にSARで観測することで、その変化を検出し、被害の大きさや通過できる道路の把握などが可能になって、迅速な救出・復旧活動につなげられます。実際に国や復興支援機関、建設コンサルティング会社などにもデータ提供しているところです。

 また、大規模盛土造成地モニターの事例もあります。住宅地を作るための大規模盛土造成地が全国にはたくさんあり、国土交通省都市局がそのスクリーニングを自治体に義務づけています。第一次スクリーニングは大規模盛土造成地の抽出で、ほぼ完了していますが、第二次スクリーニングの危険箇所の調査はほとんど人海戦術で実施していて、時間もコストもかかっています。

大規模盛土造成地モニター

 そこを「干渉解析サービス」を利用して盛土の上にある住宅の変位を見ることで、盛土が動いていないかどうかを検知してはどうかと、国土交通省都市局等に提案しています。他にも我々と防災協定を締結している川崎市さんでは、崖地のモニタリングで同じ仕組みを活用いただいています。

雨などによって砂防堰堤に溜まる土砂の量を推定する例。航空レーザ測量などで観測することが多いが高コストのため、低コストな衛星SARにメリットがある
ガス管などライフラインの予防保全に利用する例。地表面の変動量を計測し、ライフラインマップを重ねて見ることで、破損につながるストレスポイントがわかる
プラント施設の遠隔計測に利用する例。人が近づくことが難しい場所の地盤沈下量などを測る
港湾施設など埋め立て地における地盤沈下モニタリングの例。自治体や港湾施設の管理会社、エネルギー会社などにニーズがあるという
空港滑走路の地盤沈下の測定に利用する例。地上における測量値と比較しても統計的に3ミリ程度の誤差に収まっているとのこと
シールド工事における地面陥没の予兆検知に利用する例。2016年に博多駅前通りの陥没事故直前までを解析したところ、予兆となるような変位(青い箇所)が表れている
土砂災害のハザードマップ策定に応用することも考えられている

――たとえば、住宅の固定資産税に関わる建造物の確認などにおいて、航空機を使った方法と衛星を使った方法とでは、コスト、時間、精度の面でどれくらい衛星にメリットがあるのでしょうか。

 われわれの衛星SARでは広域を一度に見られるので、コストは格段に安くなるはずです。ただ、SARでは色の情報が得られず、構造物の面積がどれくらい増えたかしかわかりません。対して航空機では光学画像が得られますので、屋根の色の変化までわかります。そのため、SARと航空機による光学画像とを組み合わせて、コストを抑えつつ広範囲を効率よく調査する、という使い方を現在提案しているところです。

 自治体が定期的に実施している都市計画基礎調査も、同じように航空機や人の足を使って行っていますが、それだと調査頻度はどうしても少なくなってしまいます。そこを衛星SARに置き換えれば、1、2カ月ごとのデータが得られます。調査は年1回だとしても、1〜2カ月ごとの変化データとして得られるので、航空機で年1回撮影するのに比べれば格段に安価ですし、撮像範囲も広いです。そうした点が衛星SARのメリットだと思います。

――SARの活用において、他社との共創活動なども行っているのでしょうか。

 最近では建設コンサルタント会社と協力して、衛星を通じて得たわれわれのファクトデータに味付けし、われわれからお客様に直接届いていなかったラスト1マイルを埋めてもらい、お客様が本当に知りたかったこと、新たな価値を提供できるようにしようと動いています。砂防堰堤の堆積土砂の推定や、地震による広域の被災状況の把握などがそれに当たります。

 最初の方でもお話ししましたが、NECならではの強みは、独自の衛星を所有・運用しているため、そのノウハウを持っていることです。国内外の衛星コンステレーションのベンチャー企業がどんどん出てきていますが、そうした小型SAR衛星のデータを使いこなす上でも、われわれがもつノウハウが役に立つと考えています。

 いずれにしてもまだ衛星の数は足りていませんので、そこを国内外のSARコンステレーションの企業とともに補完し合って、データを有効活用していきたいですね。当然ながら国策とも関わってきますので、内閣府の宇宙開発戦略推進事務局が掲げている宇宙基本法の動きに合わせて、われわれとしてもいろいろな方策を考えているところです。

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