電波通信では間に合わない--衛星を光通信で結ぶワープスペースが狙う新ビジネス

インタビュー

電波通信では間に合わない–衛星を光通信で結ぶワープスペースが狙う新ビジネス

2023.07.10 06:00

田中好伸(編集部)阿久津良和

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 ロケットの打ち上げ能力の増大と衛星の小型化が進み、地球を周回する衛星の数は増加している。

 特に増加しているのが、高度2000km以下の地球低軌道(LEO)を周回する衛星だ。LEOにある衛星は秒速約8km、時速約2万8800kmで地球を周回している。地球を約90分で1周するLEOにある衛星が地上のアンテナに送信できる時間は10分程度とされている。

 衛星がもたらす地球上のさまざまなデータの有効性が理解されるようになり、衛星データのリアルタイム性が問われるようになっている。衛星に搭載されるセンサーの高性能化が進むことで、高精細に地表面を捉えられるようになっている。

 ここで課題となってくるのが、LEOにある衛星がいかに早く地上にデータを送信できるかということだ。特に、自然災害による被災状況をリアルタイムに把握することは重要になっている。

 こうした背景から衛星同士を光通信で結ぶ技術が注目されるようになっているが、衛星間をレーザー光で通信するという技術は、日本のお家芸として研究開発がされてきた。

 2005年に打ち上げられた「光衛星間通信実験衛星(Optical Inter-orbit Communications Engineering Test Satellite:OICETS)」(愛称「きらり」)は、同年9月に高度3万6000kmの静止軌道(GEO)を周回する、欧州宇宙機関(ESA)の衛星「ARTEMIS」とレーザー光で双方向の通信に成功している。2006年3月にきらりはレーザー光で地上局との双方向通信にも成功している。いずれも世界初の出来事だ。

 きらりなど過去の衛星間光通信技術を開発、実証したメンバーも参画して、この技術の商用利用を進めるのが、ワープスペースだ。

 同社は現在、「宇宙空間の通信をよりシームレスに」という目標を掲げて、LEO衛星向けに衛星間光通信サービス「WarpHub InterSat」の提供を目指している。3月に代表取締役で最高経営責任者(CEO)に就任した東宏充氏に話を聞いた(同社は6月に、衛星間光通信を中継する衛星の初号機「霊峰」について、基本設計審査(PDR)を完了させている)。

限界に近づく電波での通信

――ワープスペースが提供しようとしているWarpHub InterSatは衛星同士を光通信で接続しますが、現在の衛星間通信はどういった状況にあるのでしょうか。

 衛星間通信は技術的に立証されていますが、商業的にはほぼ使われていません。

 地球観測衛星は小型化が進んだことでニーズが高まりました。一昔前は数百キロ、数トンだった衛星も現在は数十キロ、数キロで十分動作し、直接地上のアンテナにデータを送信しています。

 LEO衛星向け光通信インフラサービスのWarpHub InterSatに至った理由は二つあります。

 一つは衛星の周回速度。地球表面積の約7割を占める海上にアンテナは存在せず、仮に設置しても地上までのインフラが足りません。そのため早急にデータが必要なクライアントのオーダー対応が難しくなります。さらに衛星のセンサーが取得した数十ギガバイトのデータダウンロードも簡単ではありません。

 もう一つは周波数の問題。ある周波数の電波の利用権を持つ先任者と調整しながら、自分たちの利権を獲得していきます。

 有限の資源である電波の周波数を割り当てるのは、国連の専門機関である国際電気通信連合(International Telecommunication Union:ITU)の無線通信部門(ITU Radiocommunication Sector:ITU-R)がスイス・ジュネーブにありますが、国単位で利用にあたって利権の衝突(コンフリクト)が発生していないかを半年ほどかけて判断します。

 次に「この場所でこの周波数を使いたい」とアナウンスした後に、(既存の利用企業と)コンフリクトしていないか調査しつつ、最後は一対一の交渉になりますので、なかなか終わりません。なかには、1社で50社を相手に交渉するといったケースもあります。

 最近では有償で交渉内容を落ち着かせるコンサルタント集団も増えてきました。変な話ですが、彼らが握っている領域とも言えますね。

 インターネットはIPv4アドレス枯渇問題からIPv6に移行しつつありますが、電波も限界が訪れています。この調整業務に多額のコストと期間を要しますが、現実的ではありません。この二つを解決するソリューションにたどり着いたのが2019年の話ですね。

――WarpHub InterSatは衛星同士を光通信で結ぶわけですが、光通信を活用するのはどのような背景がありますか。光通信の強みはどんなものなのでしょうか。

 弊社は筑波大学システム情報系の亀田敏弘准教授が2016年に創業しました。当時は低周波数のUHFを民生用アンテナで受信する衛星通信に焦点を当てていましたが、地上にアンテナを設置して貸し出すアセットインフラ事業は市場競争が過多になりつつあり、(共同創業者の)常間地や私が入社した2019年のタイミングで“ピボット(方向転換)すべき”だと提案した次第です。

 すでにOICETSなどで光通信技術は確立していましたが、事業として成り立つのか否かは眉唾状態。とは言え、日本のお家芸に活路を見出し、衛星間通信コストを大幅に下げるサービスはゲームチェンジャーになり得るとの判断からビジネス化に着手しました。

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