インタビュー
自律制御はIT革命–「プロの宇宙飛行士」野口聡一氏が語る宇宙の近未来
2021.12.15 08:00
ちなみに、Virgin GalacticのVSS UnityとBlue OriginのNew Shepardは地球の周回軌道(ISSは高度400km)には乗らずに放物線を描くように飛んで地上に戻る「サブオービタル(弾道)飛行」だ(VSS UnityとNew Shepardは方式が異なる)。
耐用年数を超えたISS
日本人宇宙飛行士としてISSでの滞在時間は最長を記録している野口氏だが、それは常に危険と隣り合わせの時間を過ごしたということでもある(ちなみに野口氏は今回で3回目となる宇宙滞在で2つのギネス世界記録を獲得した。1つは15年のブランクを経て、再度の宇宙船外活動したことだ。もう1つは後述)。
宇宙が身近になったことで「宇宙=危険な場所」というイメージがないかもしれないが、実際には宇宙は「危険なところ」(野口氏)。その経験を野口氏は帰国記者会見で語った。
「ISSの表面には宇宙ゴミ(スペースデブリ)が貫通した、たくさんの穴が空いていた。貫通したことで発生する(ISS表面が)めくれ上がった部分が宇宙服に傷を付ける可能性もあった」
ISSは、サッカーのフィールドと同じくらいの大きさだが、いくつかのモジュールで構成されている。最初のモジュールが打ち上げられたのが1998年、全体が完成したのが2011年5月。モジュールによっては23年運用されていることになる。
そのため、宇宙空間においてあるものを「修理しながら使わざるを得ない。(完成してから)10年だが、すでに耐用年数を超えている」(野口氏)
耐用年数以上にISSは運用されているが、その影響は至るところに出ている。3回目となる今回のISS滞在で野口氏は、宇宙船外活動で太陽電池パネルの設置準備作業を担った。太陽電池パネルの性能が経年劣化したためだ。
「ISSの設計時には想定していないパネルの不具合だった」(野口氏)
宇宙は夢があふれる場所だが、実際には危険が多い。CNET Japanの指摘に対して野口氏はこう答えた。
「宇宙は危険なところだ。宇宙には消防士がいないので、何か問題があれば、その場にいるチームが全員で対処するしかない」
宇宙を飛び回るISSのチームはもちろんだが、宇宙飛行士を送り出す地上でも、リスクには全員で対処する。「リスクの要因を一つずつ潰していく」(野口氏)
1956年から始まったマーキュリー、ジェミニ、アポロ、スペースシャトル、そして現在のISSという、米国のこれまでの有人宇宙飛行計画の全ての知見、そしてISSを共同で運営する米国やカナダ、欧州、ロシア、日本の5極(計15カ国)の知見が生かされている。
ISSでも始まる民間利用
宇宙は、1950年代に比べれば、かなり安全な場所となっている。そうした背景もあって、現在の宇宙はイノベーションの源泉とも言える空間となっている。
スペースシャトルの時代から、無重力空間を生かしたさまざまな実験などが行われてきたが、今回のISS滞在で野口氏もさまざまな取り組みをしている。今回の取り組みでユニークなのが、人工多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem cell)、いわゆる「IPS細胞」から分化した細胞に対する重力の影響を分析するというものだ。
ISSが周る低軌道を利用した経済活動への取り組みとしては、「宇宙放送局」(Space Studio KIBO)や「アバター体験技術の実証実験」(Kibo Avatar-X)がある。これらは、ISSにある日本の実験棟「きぼう」を有償で利用するものだ。