インタビュー
Starlinkは通信障害の対策になる?スマホと衛星の直接通信は?–KDDI高橋社長が回答
KDDIは12月1日、au通信網において、Space Exploration Technologies(SpaceX)が手掛ける衛星通信「Starlink」の利用を開始した。
au基地局のバックホール回線に、光ファイバーではなくStarlinkを用いた「Starlink基地局」を新たに開発。光ファイバーの敷設が困難な離島や山間部にも、基地局を容易に設置できるようにした格好だ。
Starlinkの利用開始に合わせ、KDDIはメディアイベントを開催。同社で代表取締役社長を務める高橋誠氏が囲み取材に応じた。
──SpaceXとの協業について振り返るとどうか。
SpaceXとのテレカンで『うちは昔Iridiumをやっていたので、衛星関係は大好きなんです』と話したら意気投合して、そこから(Starlinkの国内展開を)サポートすることになり、2年間かけて基地局のローンチにこぎつけた。海外の企業は日本の行政とのライセンスの手続きなどに苦労されるので、そこをサポートできたのは良かった。
──米国ではStarlinkとT-Mobileがスマホと衛星の直接通信を目指している。KDDIも目指すのか。
米国ではAppleがGlobalstarの衛星を活用する形で、iPhone 14と衛星がダイレクトに通信してテキストでメッセージを送れるようになっていて、同じようにStarlinkさんとT-Mobileさんも動かれている。今回、いい連携ができたので、その延長線上で実現できればいいと思っている。ただ、衛星関係はアンテナ関係をかなり直していかないと、ダイレクト通信は広がっていかないので、並行して開発を進めていると。近い将来スマートフォンと直接通信できるようになれば良いと思っている。
──Starlink基地局は災害にも役に立つか。
私も今回初めて(実物を)見たが、思ったより小さい。電柱とセルラーアンテナ、ソーラー発電をもっていきさえすれば、すぐに稼働できる。その意味では、今まで設置できなかった場所、被災地にも簡単に設置できるような気がしている。
あと我々は4Gに繋がるドローンも提供もしている。災害時にエリアになっていない所にStarlinkの基地局を整備して、そこに4Gのドローンを飛ばすということにも活用できる。災害対策の観点でも非常に期待している。
──衛星通信を手掛ける企業はほかにもあるが、Starlinkとパートナーを組んだ理由は。
いくつか海外で地球低軌道(LEO)衛星をやられている会社はあるが、衛星の数を比較するとStarlinkが圧倒的。今衛星数は3000を超えてきている。他社は1個とか60個とかのイメージなので、圧倒的に優位性はあるんじゃないかなと思っている。
──StarlinkをKDDIはどのように収益化していくのか。
我々とStarlinkとの提携に関しては、法人向けには大きく2種類ある。1つは基地局でStarlinkの衛星回線を受けて、それをセルラーのエリアにするというもの。これはお客様のご要望に応じて、『お客様にもいくらかご負担してもらいますよ』というサービス。もう1つはパラボラでStarlinkを受けて、その周囲をWi-Fiでエリア化するというもの。これらを法人向けに提供するということで、ビジネスモデルとしては間を取り次ぐというモデル。その面で利益が得られればいいと思っている。また、ソリューション提供にも可能性があると思っている。
加えて、(携帯サービスの)auからすると、携帯キャリアの差別化のポイントがどんどん無くなってくる中で、つながらない場所をなくしてしまおうというのは、比較としてわかりやすいポイントになる。
──他のキャリアは衛星企業に出資したり、成層圏通信(HAPS)を自ら手掛けていたりする。Starlinkとの提携によって、KDDIの衛星通信はStarlink頼みになってしまう心配はないのか。自社で技術を蓄積できるのか。
そもそも我々は、衛星についてはKDDIの前身であるKDDの時代、Intelsat、Inmarsatの頃から衛星技術者を抱えていて、そうした技術はかなり持っている。今回も地球局と衛星間のリンクを確立するところをかなり手伝えたので、Starlinkさんとのお付き合いの中でも十分に技術の蓄積はできたと思っている。
それ以外にもオープンにビジネスになりそうなもので、出資の可能性があれば、当然我々も出資していけばいいと思っているので、HAPSがどうなるだとか、まだ1機とか数機しかあげていない衛星通信企業に出資すれば良いだとかは、出資なのでしっかりリターンが得られるのであれば出資をすればいいという考え方。Starlinkさんから学んだことは多い。
──ソフトバンクが手掛ける成層圏通信のHAPSについてはどう考えるか
何を目的にするかという話だ。HAPSを災害時に活用するというのであれば、Starlinkでも十分対応できる。ただ、HAPSを活用してグローバルに事業を拡大しようとソフトバンクさんはやっておられますけど、それはビジネスの可能性ということになるので、そこはビジネスの可能性に出資するのかどうかだと思っている。
──Starlinkの基地局は通信障害時に代替手段となるか
Stalink自体のキャパシティの問題があるでしょうから、我々が(7月2日に)起こしたような大きな障害のバックアップするのはStarlinkだけでは難しいと考えている。通信障害への対策の話は、ローミングの議論も総務省で進められているのと、我々はデュアルSIMも積極的に導入しようと思っている。こうした取り組みでお客様にご迷惑がかからないようにしたい。
──Starlinkを基地局に採用することによるコストメリットは。
これはもうプラス。今までは山小屋にエリアを作ろうと思っても、光ファイバーを引くのが凄いコストだった。そういうところはエリア化を諦めてしまっていた。それが今後は簡易に基地局を作れるようになるので、お客様にとってもプラスになる。これは積極的に進めていきたい。
今まで光ファイバーを使わないと基地局ができなかったことを考えると、トラフィックがあまり多くない、これまで諦めていたような場所をエリア化できるのはプラスになったと思っている。
──今後の展望については。
我々は「ずっともっとつなぐぞau」ということで、全てのエリアでauを使えるようにするのはお客様にとってもプラスで、我々にとっても社会の貢献という意味で非常に重要なこと。今回、これがStarlinkさんと提携することで1歩前に進めた。この延長線上で、例えばスマートフォンとダイレクトで衛星がつながる時代が実現するのであれば、また一歩お客様の利便性が上がっていく。
決してすべてのネットワークが衛星に代わるわけではないが、地上の光ファイバーのネットワークと衛星のネットワークのハイブリッドがもたらす世界観というのは我々としても夢が広がると思っている。