特集
オーストラリア、インド、日本から考える–APACでの宇宙ビジネスの存在意義
宇宙に関係する政府機関の数や民間のスタートアップの数がともに増え続けていることから、アジア太平洋(APAC)地域の宇宙ビジネスは、欧州に劣らない市場に成長しつつあると言われている。APACの特長は、社会システムに加えて地形や自然環境などさまざまな側面で大きく異なる国や地域が集まっている、多様性に富んでいることが挙げられる。多様性あふれるAPACの宇宙ビジネスをどのように活性化し、より地域社会や人々の生活に役立てていくべきか――。
7月19~21日に開かれたアジア最大級という宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2022」のセッション「APAC宇宙ビジネスの意義と価値とは」では、APACという地域に焦点をあてた議論が交わされた。以下の3人が登壇した。
- Tim Parsons氏=Space Industry Association of Australia(SIAA)非常勤会長
- Anil Prakash氏=SatCom Industry Association(SIA-India) ディレクターゼネラル
- 伊奈康二氏=経済産業省 製造産業局 宇宙産業室 室長
モデレーターはSPACETIDEの共同設立者で代表理事兼最高経営責任者(CEO)の石田真康氏が務めた
売上高を3倍、新規雇用創出を狙うオーストラリア
石田氏が提示したデータによれば、アジアオセアニア地域の宇宙ビジネスに対する関与は増加中だ。2022年時点で18カ国324のスタートアップ企業が存在し、各国政府も後援を目的とした施策や法改正、プログラムを実施している。
スタートアップ企業の内訳を見ると、中国は85、日本は74、インドは45、オーストラリアは31、韓国は25、シンガポール20、その他は41。
自己紹介を交えたプレゼンテーションで、オーストラリアの宇宙産業は著しい成長を遂げている、と述べたSIAAのParsons氏は「(オーストラリアの宇宙産業には)二つのゴールがある。一つは(市場の)現在の売上高40億ドルを3倍の120億ドルにすること。もう一つは新規雇用の創出。(まずは)1万人、さらに3万人に増やすことに焦点を当ててきた。オーストラリアは(宇宙ビジネスを)将来の『成長の源』だと見ている」と説明した。
激化する宇宙ビジネスでオーストラリアの競争優位性を聞かれると、Parsons氏は以下のように答えた。
「『まずわれわれがやってみよう』(と動き出すの)が重要。(オーストラリアは)先進国で大学の数も多い。われわれはOECD(経済協力開発機構)最後の加入国だが、ロボティクスや機械学習、AI(人工知能)や量子コンピューティング、バイオテックなど宇宙以外の分野からイノベーションを取り込んできた。(その結果として)宇宙産業の成長につながる」
非宇宙企業が資金を提供する日本
続いてモデレーターの石田氏は、日本国内の宇宙開発に対する姿勢が変化した理由を聞くと、経産省の伊奈氏は「日本政府も宇宙産業市場を2倍に成長させる目標を持っていた。そのため2030年早期までに100億ドル相当へ(予算を)倍増させる。これまでの宇宙は平和利用に限定されていたが、2008年の宇宙基本法に基づいて、宇宙技術を国防目的に使えるようになり、防衛省を含む国家安全保障関連の当局が予算を取れるようになった」と解説した。
「民間企業は、宇宙産業以外を看板に掲げる企業が、ベンチャーキャピタル以上に(スタートアップ企業へ)資金を提供しているのが、(宇宙ビジネス市場全体の)拡大の主な理由だ」(伊奈氏)
それでは、民間主導のエコシステムを構築する上で課題はあるのか。こう聞かれた伊奈氏は「日本の宇宙業界は政府主導から始まったが、スタートアップ企業は別にパトロンがいる。日本の宇宙産業を拡大させるには、宇宙産業とは別に存在する『宇宙ムラの人々』の協力が必要だ。宇宙ムラの人々はとても閉鎖的で、オープンなコミュニティーにしなければいけない」と苦言を呈した。