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宇宙ベンチャーの挑戦を「資金面」から支える–ワープスペースCFO・北原明子さん【宇宙のお仕事図鑑】

2024.05.18 08:45

井口 恵(Kanatta代表取締役社長/コスモ女子運営)

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 「宇宙関係の仕事につきたいけれど、どんな仕事があるのか分からない」という方も多いのではないでしょうか。実は宇宙業界は日々変化をしており、新しい職種がどんどん生まれていますが、あまり知られていないように思います。

 そこで、この連載「宇宙のお仕事図鑑【コスモ女子】」では、“宇宙を身近な存在に”をテーマにした女性中心の宇宙コミュニティである「コスモ女子」が、宇宙業界のさまざまな分野で活躍する女性を紹介していきます。第6回は、光通信衛星サービスの提供を目指す、ワープスペースのCFO(最高財務責任者)である北原明子さんにお話を聞きました。

【プロフィール】株式会社ワープスペース 取締役副社長 CFO(最高財務責任者)。2021年5月に株式会社ワープスペースに入社。株式会社ワープスペースに入社以前の約29年間は米系および仏系資本の金融機関東京支店の証券部門に所属。前職はクレディアグリコルグループ(フランス系金融機関)のエグゼクティブディレクター。在職中に営業部の設立を3度経験。また、金融法人営業にてESG投資の営業企画のほか、女性活用推進のグローバルなネットワークを設立。社内外のSDGs活動の普及に貢献。 趣味は、旅行、アート、音楽、身体を動かすこと。

【仕事内容】光通信衛星サービス実現のための資金調達

――いまのお仕事内容を聞かせてください。

 ワープスペースという宇宙ベンチャーの財務の責任者をしています。役職で言うとCFO(Chief Financial Officer)です。弊社はつくば発の宇宙ベンチャーで、人工衛星向けの通信インフラ事業の構築を目指しています。

 通常、人工衛星は地球上にある地上局と直接通信をしているのですが、いまのやり方では、通信できる時間帯が限られており(※地上局の上を衛星が通る間のみ通信が可能なため)、必要なデータを全て受けとるのに時間がかかるという課題があります。この課題を解決するためのサービスが、ワープスペースの光通信技術を用いた、宇宙空間での光即応通信サービス「WarpHub InterSat」です。

 宇宙業界はどの会社もそうかもしれませんが、最初に膨大な設備費用がかかります。その中で大事になってくるのが、財務の仕事です。財務とは、会社全体でどれくらいお金が必要なのか、全体を見ながら計画を立てて実行(資金調達)していくことです。資金調達の仕事を簡単に言うと、会社を売り込んで投資してもらうこと。何人もの投資家と会い、事業を支援してもらうのが主な仕事です。

――仕事のやりがいは?

 まだ世の中にはない、新しい価値を作りあげていくことに、やりがいを感じています。

 いま取り組んでいる光通信サービスが実現すると、私たちは24時間365日いつでも衛星データを地球上で活用できるようになります。地球観測衛星からの情報が早く得られることで、減災や安全保障にも役立ちます。また、月ゲートウエイ(月を周回する宇宙ステーション)や月・火星探査が進んだ時に、探査機のリモート操縦や宇宙飛行士とのやりとりにも貢献できるかもしれません。

 必要な資金を調達し、実際に事業を実現化していく。そのプロセスに醍醐味があります。 チームのメンバーにもとても恵まれています。経歴も背景も専門分野も異なるメンバーで、活発なコミュニケーションを通じて同じ方向をむいて仕事を進めていけることにやりがいを感じます。

――大変だと感じることは何ですか?

 前例のない事業なので、投資家の方へ説明をする際に事業内容が伝わりにくいなと感じることはあります。まず、「宇宙分野が今後どうなっていくのか?可能性は何か?」を1つ1つ説明し、その中でワープスペースの光通信衛星サービスがどんな役割を果たしていくのかを伝えていきます。必ずしも、相手の方が宇宙に詳しい方とは限らないので、わかりやすく伝えていく工夫が必要です。価値が伝わったときは、とても嬉しいですね。

 また、私のキャリアで、宇宙分野の仕事はワープスペースでの業務が初めてです。1つ1つ宇宙分野の勉強しながらの仕事で、やっと慣れてきたかなという感じですね。大変だなと感じることもありますが、楽しみながら仕事をしています。

オフィスで仕事中の北原さん

【きっかけ】宇宙ビジネスへの興味と働き方の両面で自分に合っていた

――子どもの頃や学生時代はどのような子でしたか?

 「スター・ウォーズ」や「銀河鉄道999」など宇宙を舞台にした映画などをよく観ていました。あとは星を見るのが好きだったので、なんとなく宇宙に興味はありましたね。どうやったら宇宙に行けるかということも考えていました。でも当時は、宇宙に行くには宇宙飛行士になるしかないと思っていたので、宇宙旅行は夢の世界でした。

 大学は、得意の英語や国語を生かし、国際政治経済学部に進学しました。自分で言うのも何ですが、優等生キャラクターで、所属していたテニスサークルでも真面目に練習していました。学生時代の友人とは今も親しく交流をしています。

――金融・財務関係の仕事に関わることになったきっかけを教えてください。

 国際経済学を専攻していましたが、就職活動当初は金融系に絞っていたわけではないんです。ただ、就職活動の中で、当時の総合職は24時間会社に捧げるような働き方をしていることに疑問を持ちました。そんな中で、外資系の企業は性別関係なく対等で、メリハリのある働き方をしている、という話を大学の先輩方から聞き、面接を受けに行ったのがきっかけです。

――いまの仕事についたきっかけを教えてください。

 一言でいうとご縁でした。当時のCEOがCFO候補を探しているという話を、友人が同窓会できいてつなげてくれました。宇宙は興味がありましたので、とりあえず話をきいてみるという軽い気持ちで面談をしました。当時、親の介護をかかえていたので、介護と両立できる働き方ができることがまずありました。

 もう1つの理由として、宇宙産業のビジネス面に興味があったこともあります。政府主導で進めている宇宙産業が、民間の事業としてどのように成り立つのか関心がありました。それなら、宇宙企業に入社して中から現状をみて、自分が一緒にチャレンジしてみようと思ったわけです。自分の興味・関心と働き方の両面から入社を決めました。

リモートでの全社ミーティングの様子

【これから宇宙を目指す方へ】

――これから挑戦したいことや目標など、今後の展望を教えてください。

 現在、準備中の光通信衛星の初号機「LEIHO」の打上げを最短で2025年に予定しています。まずはその打上げを成功させることですね。

 また、ご支援してくださっている投資家の方々に、光通信サービスの実現を見せたいです。ただ、衛星を打ち上げて満足するのではなく、事業としてきちんと顧客ニーズにお応えすること。そして、宇宙業界をリードするサービスとして育てていくことが大事だと考えています。

 私自身としては、縁の下の力持ちとしてしっかり会社を支え続けることです。ワープスペースの事業には大きなビジョンがありますが、その挑戦には資金が必要です。エンジニアや事業開発を担当する方が仕事に集中できるように、私は財務のプロとして資金面を支え、事業を成功に導いていきたいと思っています。

――宇宙業界を目指す方にメッセージをお願いします。

 宇宙に興味がある方は、ぜひどんどん手を上げていただけたらと思っています。

 宇宙業界の良いところでもあり課題だなと思っているところは、元々が政府主導の業界であるため、内輪でまとまる傾向にあるなということ。仲がよいという意味では長所だと思いますが、広くいろいろな業界の方が参入しやすい環境ではないですよね。もっと多くの分野の方に参加してほしいですし、それが宇宙業界の発展につながっていくと思っています。

 宇宙業界と一言で言っても、ワープスペースのような通信業もあれば、製造業や輸送業といった様々な産業、職種があります。現在のお仕事を宇宙というフィールドに視点を変えて、ドアをたたいてみて欲しいと思っています。

〇宇宙のお仕事図鑑とは?
このプロジェクトのきっかけは、「宇宙関係の仕事につきたかったけど、宇宙飛行士や天文学者しか知らなかった。」という声がコスモ女子のメンバーからたくさんあがったことでした。宇宙のお仕事図鑑では、宇宙関連のお仕事をされている方々に取材をした記事を発信していきます。文系の職種も理系の職種も(文理で区分する必要もないかもしれません)、大きな組織の中でのお仕事から、宇宙ベンチャーや個人でのお仕事まで「宇宙のお仕事」を発信していきます。

〇コスモ女子とは?
『宇宙を身近な存在に』をテーマに活動している女性コミュニティです。勉強会やイベントを毎月開催。星や天体の楽しみ方から、宇宙旅行・教育・宇宙ビジネスまで幅広いテーマで開催しています。\世界初!/女性中心のチームでの衛星打ち上げPJを発足中!(2024年度中打ち上げ予定)

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