特集
衛星コンステに950億円–宇宙「1兆円基金」、経産省の支援テーマ案がついに公開(秋山文野)
2024.04.26 13:00
10年で1兆円を民間宇宙分野に投資する「宇宙戦略基金」の第1弾。前回の記事で解説した総務省、文部科学省分の支援テーマに続き、経済産業省からも5つテーマ案が公表された。これによって全22件の支援テーマ案が揃った。
経産省テーマ案の特徴
経産省のテーマ案には「衛星コンステレーション」や「宇宙用コンポーネント」の開発など、実用的な技術が揃っている。3省のテーマ案の中でも、1件あたりの規模が最大となる「衛星コンステレーション促進テーマ」が含まれていることも特徴だ。
衛星コンステレーションとは、機能や目的が共通する多数の人工衛星を、計画的に複数の軌道に配置して制御する衛星運用の形態だ。主に通信、測位、地球観測で利用されており、「Starlink」や、測位衛星の「GPS」、Planetの地球観測衛星網「DOVE」などがある。日本では地球観測衛星として複数の民間企業が構築を開始しているが、衛星製造の拡大や打上げ機会の獲得などの課題がある。
実用化に近いところにあるためか、経産省テーマ案ではステージゲートを1年ごとに行ってきめ細かくマネジメントする体制となっているのも特徴だ。プログラムの優良度を途中で判断し、「事業間での予算の移し替え や、 支援の中止も行えることとする」という方針も盛り込まれており、成果が厳しく問われる内容となっている。
経産省テーマ案一覧
商業衛星コンステレーション構築加速化(衛星):950億円
通信や地球観測衛星などの分野で衛星コンステレーション構築を目指す事業者に対して衛星の量産や打上げのスピードを加速できるようにするための支援。光学・SARセンサーの高度化や運用の高度化の開発支援などを行う。3~5件を採択し、1件あたりの支援額は大企業の場合は50~400億円、中小・ベンチャー企業の場合は67~533億円。支援形式は補助。2024~2030年度の7年間で開発し、1年ごとにステージゲート審査あり。
衛星サプライチェーン構築のための衛星部品・コンポーネントの開発・実証(衛星):180億円
日本の衛星サプライチェーン上で重要な部品やコンポーネントを国内生産や量産化、機能の高度化、開発環境の整備を目指す。
サブテーマは、「(1)衛星サプライチェーンの課題解決に資する部品・コンポーネントの技術開発」「(2)特に自律性の観点から開発が必要な部品・コンポーネントの技術開発」「(3)衛星サプライチェーンの構築・革新のための横断的な仕組みの整備に向けた FS」の3つに分かれる。
最大で14件を採択し、1件あたりの支援額はサブテーマによって(1)の場合は大企業が0.5~30億円、中小・ベンチャー企業では0.6~30億円、(2)の場合は1~30億円、(3)の場合は最大3億円。支援形式は(1)補助、(2)(3)は委託。2024~2029年度の6年間で開発し、1年ごとステージゲート審査あり。
固体モータ主要材料量産化のための技術開発(輸送):48億円
固体ロケットや液体ロケットの補助ブースターとして利用される固体モータの分野で、モーターケースやノズル、インシュレーション、火工品、推進薬などの材料サプライヤーの供給能力を倍増するための技術支援。1件を採択し支援額は最大48億円。支援形式は委託。2024~2028年度の5年間で開発し、2025年度ごろに大規模な試作・実証でステージゲート審査あり。
宇宙輸送システムの統合航法装置の開発(輸送):35億円
ロケットの飛行管制をロケットが自律的に行うための小型・低コスト・高性能な統合航法装置の開発を目指す。1件を採択し支援額は最大35億円。支援形式は委託。2024~2029年度の6年間で開発し、2026年度末、2028年度末ごろにステージゲート審査あり。
衛星データ利用システム海外実証(フィージビリティスタディ)(衛星)10億円
海外において、衛星データを使って社会課題を解決する利用システムの開発・実証、および東南アジアの重点実証国でのニーズ調査や人材育成、そして現地との連携などを実現する基盤整備の事業化可能性の検証を目的とする。
サブテーマは「(1)衛星データ利用システムの開発・実証」と「(2)衛星データ利用システムの開発・実証基盤の整備」に分かれる。
最大で6件を採択し、1件あたりの支援額はサブテーマによって異なり、(1)は大企業が0.25~1億円、中小・ベンチャー企業は0.3~1.3億円、(2)は最大5億円。支援形式は(1)が補助、(2)は委託。2024~2025年度の2年間で実施し、ステージゲート審査はなし。
夏にも公募開始へ–環境整備も重要
宇宙戦略基金は、各省の実施方針を示すテーマ案と、JAXA側の審査・運営体制などを含む基本方針を合わせて議論されており、4月後半に内閣府の宇宙政策委員会での審議を経て決定される。2024年夏ごろには公募が始まる見込みだ。
これまでの3省の審議会では、宇宙戦略基金のプログラムを取り巻く環境についてもさまざまな意見が出されている。一部を挙げれば、経済産業省の宇宙産業小委員会では「輸送について、今後10年程度で国内の打上能力を年30回に伸ばしていく目標を政府として掲げているが、チャレンジングな目標。これを実現するために様々な技術開発を検討すると同時に、30機以上の打ち上げを可能とする射場の整備が必要」との質問が寄せられた。
同様に文部科学省の宇宙開発利用部会でも筆者は「衛星コンステレーションやフォーメーションフライトの実現や宇宙実証の機会を確保するために、基幹ロケットの複数衛星搭載機構の整備や民間ロケットを利用した宇宙実証ミッションの機会創出といったロケット側の支援は検討されているのか」とコメントしている。
現在のところ、「宇宙政策委員会 宇宙輸送小委員会等での議論を通じ、内閣府、文科省等とともに検討したい」(経済産業省)といった回答で、検討段階ではあるものの、課題としては認識されている状況だ。
宇宙戦略基金のプログラムは、基金運営の中だけで閉じるものではなく、参加する事業者、研究機関がその力を十分に発揮するための環境整備と足並みが揃っているかという点をしっかり見ていくことも重要だ。