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衛星55機で日本全国を楽天モバイルエリア化、「2026年にも開始」と三木谷氏(石川温)

2024.01.25 17:55

石川温

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 1月1日に発生した令和6年能登半島地震では、スマートフォンの通信が途絶えた場所の復旧策として、衛星通信サービスである「Starlink」が大活躍した。

 日本で他社に先駆けてStarlinkを扱い始めたKDDIを筆頭に、ソフトバンクやNTTドコモもStarlinkアンテナを投入。避難所での無料Wi-Fiスポットとして活用するだけでなく、KDDIでは既存の無線基地局にStarlinkを接続し、スマートフォンの通信を復活させる取り組みもしていた。

 KDDIは、2024年中にStarlinkとスマートフォンの直接通信を開始し、山間部や海上など、無線基地局の電波が届かないところでもショートメッセージなどを使えるようにする計画だ。

 一方、楽天モバイルは第4のキャリアとして新規参入した2020年から、米国の衛星ベンチャーであるAST SpaceMobile(AST)に出資し、「いずれ衛星とスマートフォンとの直接通信で、日本において人口カバー率100%を達成する」と公言していた。

 当時は「無謀だ」とも揶揄されたが、先日、ハワイから衛星を経由して、三木谷浩史会長に電話がつながったという動画を公開。開発が順調に進んでいることをアピールしていた。

ASTの現況を三木谷氏が説明

 1月25日に開催された楽天新春カンファレンスでは、楽天グループで代表取締役会長兼社長最高執行役員を務める三木谷浩史氏が一部メディアの囲み取材に応じた。

楽天グループの三木谷氏

 その中で三木谷氏は「ASTでは現在、BlueWalkerという衛星が1機が打ち上がっている。ファンディングが必要と言うことで、グーグル、ボーダフォン、AT&Tが追加で300億円出資したばかりだ。ただ(サービス開始に向けては)それでは足りないが」と進捗状況を語ってくれた。

 やはり気になるのが、楽天モバイルにおける衛星通信サービスの提供だ。

 三木谷会長は「55機あれば、日本全国でエリアカバーできる計算だ。1回の打ち上げで6機から8機を宇宙に運べる。つまり、7〜8回の打ち上げで日本全国をカバーできそうだ」と語る。

 提供時期については「遅れるかもしれないが、目標としては2026年の日本での商用化を目指していく」(三木谷会長)とした。

実現可能性が高まる

 今回の注目点は、グーグルやAT&T、ボーダフォンが新たな出資に応じたという点だろう。ASTのスタート当初は「楽天だけが出資した」(三木谷会長)とのことだったが、出資者が増えたことで、経営基盤が安定し、ASTの衛星通信サービスが実現する可能性がかなり増した感がある。

 しかも、ASTはすでに契約先として、AT&Tやボーダフォン、楽天モバイルに加えて、カナダやフランス、スペイン、イタリア、サウジアラビア、香港、オーストラリア、アルゼンチンなど、合計20億人以上の契約者を持つ世界40社以上のキャリアと手を組んでいる。

 つまり、ASTは世界各国で衛星通信サービスを提供できる。低軌道衛星は地球上をグルグルと回り続けるため、世界中でサービスを提供できないと実に効率の悪いサービスになりかねない。その点、ASTはなんとか世界中のキャリアと契約に合意できたというのは大きなアドバンテージなりそうだ。

 もうひとつ、グーグルに出資をしてもらったということは、Androidが衛星通信サービスに対応する可能性が出てきた。すでにアップルもiPhoneに対して衛星を経由したSOSメッセージサービスを提供しているが、Androidも対抗サービスをぶつけてくる可能性も見えてきたわけだ。

 さらに日本においては、楽天モバイルが2026年という具体的なスケジュール感で、ASTの衛星通信サービスを提供すると三木谷会長が言及した。

 2026年にASTが日本でサービス提供を行い、楽天モバイルが「人口カバー率100%」を達成するとなると、ここ最近、月間20万契約ペースで新規顧客獲得を増やしている楽天モバイルがさらに勢いづくかも知れない。

 楽天グループは今後、数年で1兆円を超える社債償還が迫っているだけに、ASTの1日も早いサービス開始が楽天グループの命運を左右すると言っても良さそうだ。

 (更新)初出時、BlueWalker 3の打ち上げ機数を3機と記載していましたが、現時点では1機でした。訂正しお詫び申し上げます。

 

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