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宇宙港とは–なぜ必要?宇宙だけでなく海外旅行にも活用できるワケ
2023.10.04 13:30
宇宙ビッグデータを活用した無料GISプラットフォーム「天地人コンパス」を手掛ける天地人。本企画では、同社でインターンとして働く学生が、「学生視点」で宇宙ビジネスの注目点を解説します。第6回となる本記事では、大学院で建築を学ぶ龍崎輝が「宇宙港」に焦点を当てます。
宇宙港とは–海外渡航にも活用可能
「宇宙港」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。その名の通り「宇宙へ行くための港」で、人間や人工衛星などを宇宙に運ぶための施設です。
宇宙港には垂直型と水平型の2種類があり、ロケットなど垂直に宇宙機が発射される場合は「垂直型」、飛行機のように滑走路を用いて水平に離陸する場合は「水平型」となります。
また、宇宙港は単に「宇宙への入り口」だけでなく、地球上の2地点間を極短時間で結ぶ「サブオービタル飛行」の拠点としても利用できます。サブオービタル飛行では高度100km程度まで弾道飛行し目的に向かいます。Space Exploration Technologies(SpaceX)によれば、英国ロンドンと香港間をわずか34分で移動できるといい、海外渡航において異次元の時間短縮を実現します。
2020年からは、宇宙旅行ビジネスも始まり、商用衛星コンステレーションの打ち上げも急増しています。内閣府宇宙開発戦略推進事務局によると、2022年には過去最多の2368機の人工衛星が軌道上に打ち上げられ、過去10年間で約11倍に増加しました。
宇宙産業の成長が見込まれる中、宇宙機の打ち上げ回数も増加が予想される一方、打ち上げ用のロケットや射場不足が問題となっています。このため、世界各地で宇宙港の建設計画が進行しています。米国ではすでに複数の宇宙港が稼働し、日本でも北海道に続き、和歌山県、大分県、沖縄県での計画が進んでいます。
日本の宇宙港の特徴と展望
宇宙港の建設には多くの制約があり、どの地域でも容易に建設できるわけではありません。ロケットの打ち上げはエネルギーを節約するため、地球の自転を利用し、主に東向き(種類によっては南向き)に実施されます。
そのため、宇宙港には平坦で広く、東側(南側)が開けた土地が必要となり、さらに打ち上げ時の音や震動から人口密集地を避ける必要があります。例えば、世界初の民間宇宙港である「Spaceport America」(スペースポート・アメリカ)は、人里離れた砂漠の中に位置しています。
海外の宇宙産業は比較的閉じており、日本のように多くの産業が関与する国は少ないようです。日本の宇宙港計画は、様々な産業と連携し、宇宙港を中心とした地域開発を目指しています。これには、観光や特産物、資源の活用も含まれます。
北海道大樹町の「HOSPO」は、アジア初の商業スペースポートとして2021年春に開設されました。HOSPOでは、大樹町周辺の地域資源を活かし、宇宙港を核とした魅力的なまちづくりを目指しています。
しかし、地域を活性化するためには、宇宙港自体が魅力的でなければなりません。美しい建築や魅力的な機能が備わっていれば、地域外からも多くの観光客を引き寄せられるでしょう。以下では、まだ構想段階の、未来の宇宙港についてご紹介します。
超斬新な「宇宙港」2例を紹介
スペースポートシティ
スペースポートシティは、スペースポート・ジャパンが建築設計事務所のノイズアーキテクツ、電通、そしてデザイン会社canariaと協力して提案した、商業宇宙飛行のための宇宙港です。このプロジェクトは、従来の空港では見られない、近未来的でスペースポートに相応しいデザインを持っています。
出典:NOIZ
スペースポート・ジャパンは、日本をアジアの宇宙旅行ビジネスの中心地にすることを目指して2018年に設立されました。この組織は、日本国内にスペースポートを開設するために、関連企業や政府機関と連携しています。元JAXA宇宙飛行士の山崎直子さんが代表を務めています。
スペースポートシティは、従来の航空輸送と水平離着陸型宇宙船の運航を結びつけるだけでなく、宇宙に関連する様々な活動を一堂に集める施設として提案されています。施設内には「Space Agency」が設置され、日本の宇宙戦略の中心地として機能します。また、施設内のサロンでは、官民の主要プレイヤーや宇宙関連のスタートアップ企業が交流できます。
さらに、施設内では無重力空間で制作されたアート作品の展示や、宇宙食を探求するレストランとラボ、宇宙飛行士のための先進的な医療施設など、多岐にわたる体験の提供を構想しています。
スペースポート・ジャパンによると、スペースポートシティは都市の入口に位置し、周辺の住民が利用できるよう設計されています。これは都市部の宇宙港の新しいモデルとなり得ます。サブオービタル飛行が実現すれば、各都市にこのような水平型の宇宙港が開設される可能性があります。多くの場合、既存の空港が拡張・改修されて宇宙港に変わるでしょう。
しかし、スペースポートシティのように、様々な活動と宇宙を組み合わせた宇宙港を構築することで、利用者には飛行以外の楽しみ方が提供されます。これは運営者にとっても大きなビジネスチャンスとなり得ます。また、魅力的な宇宙港が都市に出来れば、地域の活性化にも寄与するでしょう。
スペースポートIBARAKI
スペースポートIBARAKIは、茨城県水戸市を拠点とする宇宙ベンチャーのSPACE BALLOONが水戸市大洗町で構想している宇宙港です。
これは、従来のロケット輸送を中心とした宇宙港とは異なり、同社が開発を進める成層圏大型気球輸送システムの基地として構想されています。このシステムは、重量物や複雑で壊れやすい構造の精密機器を安全に成層圏へ運び、一定期間浮遊した後、地上へ帰還する仕組みです。
同社は、将来的にはこのシステムを利用し、成層圏領域での宇宙開発の実証実験、リモートセンシングによる産業発展への貢献、防災活用、そして有人成層圏旅行の実現を目指しています。
スペースポートIBARAKIの構想は、2021年2月に開催された「IBARAKI Next Space Pitch」コンテストで準グランプリを獲得しました。
コンセプトイメージは、ドバイ万博日本館のデザインを手掛けた建築家、永山祐子さんによるものです。三日月形の宇宙港桟橋の中央には、20人乗りの大型旅客キャビンを搭載した大気球があります。
上部は緑豊かな公園のようになっており、自然に囲まれた開放感あふれる空間です。一般に想像されるSFチックなデザインの宇宙港とは異なり、新しい形の宇宙港が提示されています。
スペースポートIBARAKIの構想は、SPACE BALLOONが「究極の夢」として掲げています。同社は、この構想を単なるコンセプトに留めず、地元の協力を得ながら実現に向けて努力しています。
おわりに
今回は、ワクワクするような宇宙港の構想をご紹介しました。実際に紹介したような宇宙港が、今後実現するかはわかりません。しかし、近い将来、宇宙港から多くの人が宇宙に行く時代には、その玄関口として、ワクワクするような宇宙港ができている未来を想像すると、とても楽しみです。
参考文献
https://www.businessinsider.jp/post-243992
https://shizen-hatch.net/2022/05/19/spaceport/
https://www.spaceport-japan.org/
https://www2.deloitte.com/jp/ja/blog/science-and-technology/2021/spaceport-value.html
https://dentsu-ho.com/articles/7392
https://space-connect.jp/interview-aoki2/
https://dentsu-ho.com/articles/7392
https://www.spacex.com/human-spaceflight/earth/
https://www8.cao.go.jp/space/comittee/05-yuso/yuso-dai2/siryou2.pdf
https://noizarchitects.com/office