特集

「宇宙旅行」とは?いつ実現する?–種類や料金、日本の気球旅行など解説

2023.09.25 11:00

塚本直樹小口貴宏

facebook X(旧Twitter) line

 かつては夢物語だった「宇宙旅行」だが、最近では米国のベンチャー企業Virgin Galacticが一般客を乗せた宇宙旅行を成功させるなど、徐々に身近になってきている印象もある。そんな宇宙旅行の最前線について、世界や日本の最新動向を本記事でまとめた。

そもそも宇宙旅行とは–いつ実現する?

出典:クラブツーリズム

 宇宙旅行とは、一般的には観光や非日常的な体験を目的として宇宙空間を訪れる行為と説明できる。であれば、すでにロシア宇宙機関のROSCOSMOSなどが、莫大な費用と引き換えに国際宇宙ステーション(ISS)に民間人を受け入れており、すでに実現済と言える。

どんな宇宙旅行があるの?

 一口に宇宙旅行といっても様々だが、宇宙船の軌道に着目すれば「サブオービタル旅行」「オービタル旅行」「深宇宙旅行」の3つに大別できる。

1. サブオービタル旅行

 サブオービタル旅行とは、ロケットで宇宙空間を一瞬訪れて、すぐに地上に戻る旅行だ。宇宙の境界を超えるが、地球を周回する軌道には入らない。地上でボールを投げると弧を描いてやがて地面に落下する感じに似ている。旅行者は宇宙からの景色、そして無重力状態を数分間体験できる。

2. オービタル旅行

 オービタル旅行とは、地球を周回する軌道に入る旅行だ。地球周囲の宇宙空間に滞在し続けるので、宇宙からの景色や無重力状態を長く楽しめる。国際宇宙ステーション(ISS)への滞在や、将来的な宇宙ホテルへの滞在がこれに該当する。実際に国際宇宙ステーション(ISS)を訪れ、宇宙飛行士と共同生活を送った前澤友作氏のような例も存在する。現時点では厳しい訓練や健康診断が必要となるが、宇宙遊泳なども楽しめるかもしれない。

3. 深宇宙旅行

 地球の周回軌道を超えて、月や火星、その他の天体を目的地とする旅行だ。例としては月旅行や火星旅行がこれに該当するだろう。前澤友作氏もSpaceXの次世代宇宙船「Starship」を用いて月周回旅行をする計画だ。

どこからが宇宙なの?

 宇宙と大気圏の境界線については、国際航空連盟が高度100km以上と定義している。このラインは「カーマン・ライン」と呼ばれ、一般的にも地上から100km以上が宇宙であるとされている。

出典:JAXA

 一方、米空軍は80kmから上を宇宙と定義している。このように国や組織によって定義が異なる。

関連リンクJAXA 有人宇宙技術部門

海外企業の「宇宙旅行」への取り組み

1. Virgin Galactic

 Virgin Galacticは2004年に米国で設立された宇宙旅行企業で、一般市民向けにも宇宙旅行チケットを販売している。最高経営責任者(CEO)は英Virgin Group会長のRichard Branson氏が務めている。

出典:Virgin Galactic

 同社の特徴は、ロケットを飛行機で高高度まで運んで上空で打ち上げる点だ。そのための航空機「VMS Eve」と有人宇宙船「VSS Unity」を運用している。

 同社は2023年6月、「Galactic 01」という名の初の商業飛行ミッションを成功させ、4人のイタリア軍関係者を高度85.1kmまで運んだ。そして同年9月には、2005年にチケットを購入した乗客を乗せた3回目のミッション「Galactic 03」を実施し成功させるなど、実績を積み重ねている。

 同社の宇宙旅行は前述の分類では「サブオービタル旅行」となる。つまり、宇宙に滞在できる時間は短いが、宇宙空間からの眺望と数分間の無重力状態を楽しむことができる。

 なお、2005年にVirgin Galacticのチケットを申し込んだ日本人の稲見紀明氏も、2023〜2024年に同社の宇宙船に搭乗する予定だ。

関連リンク:Virgin Galactic、3回目の商業宇宙旅行を9月8日実施–乗客は2005年にチケットを購入 – UchuBiz

2. SpaceX

 SpaceXは現時点で、次世代宇宙船「Starship」を用いた月周回旅行を計画している。同旅行には日本の実業家である前澤友作氏がチケットを購入しており、「dearMoon」プロジェクトとして複数のアーティストと共に月周回に挑む。

 また、SpaceXは「火星植民」の実現を目指して実業家イーロン・マスク氏によって設立された企業であり、いずれは火星への渡航サービスも順次提供するものと思われる。


出典:SpaceX

 SpaceXのロケットと宇宙船を利用した宇宙旅行の例では、Axiom Spaceは2023年5月に「Ax-2」ミッションで、民間人を国際宇宙ステーション(ISS)へ運んだ。また、2023年11月には3回目のミッションとなる「Ax-3」が実施される予定だ。

 また実業家のJared Isaacman氏も、SpaceXのロケットと宇宙船を用い、2021年に史上初の全民間人による地球周回ミッション「Inspiration4」を実施。2024年には新たな民間人ミッション「Polaris Dawn」を予定している。

 その他、SpaceXのロケットを用いて宇宙に行くためのチケットを販売するSpace Adventures(スペース・アドベンチャーズ)もある。同社はロシアの宇宙機関ROSCOSMOSと以前に提携しており、ソユーズ宇宙船でISSに滞在した前澤友作氏の宇宙滞在もサポートした。

関連リンクスペース・アドベンチャーズ

3. Blue Origin

 Blue Originは、Amazonのジェフ・ベゾス氏が設立したロケット打ち上げ企業だ。サブオービタル旅行用の宇宙船「New Sphepard」を開発しており、これまでに計6回の有人宇宙飛行に成功している。同社のロケットは地上から打ち上げられ、またブースターは使用後に地上へ垂直着陸によって帰還する点も特徴となる。

 また、宇宙旅行も用途に含む宇宙ステーション「Orbital Reef」の構想も掲げている。実現時期などは明かされていないが、実現すれば宇宙滞在サービスも手掛けることになるだろう。

宇宙旅行の価格は?

 現時点でチケットの価格はまだまだ高価だ。比較的安価なサブオービタル旅行のVirgin Galacticの場合でも、チケット価格は2022年時点で45万ドル(6600万円)する。

 また、ロシア宇宙機関のROSCOSMOSが提供するISSへの旅行代金は約73億〜83億円となっている。月周回旅行に挑む前澤友作氏は「Dear Moon」プロジェクトの費用を公開していないが、相当に高額であることが予測される。

 しかし、技術革新は付き物だ。地球低軌道や月面の開発が本格化すれば、一般の人も比較的安価に宇宙を旅行できる時代が到来するだろう。

 なお、厳密には宇宙空間に届かないものの、宇宙空間に類似した体験を味わえるものとして、成層圏からの気球遊覧がある。後述する岩谷技研は当初の旅行代金を2500万円程度とする計画だ。なお、2030年代には1人あたり100万円程度まで値下げできる可能性もあるとしている。

気球で宇宙に行けるのか

 結論から言えば、気球で宇宙へと到達することはできない。しかし、高度10km前後から50km付近までの成層圏を気球で飛行し、宇宙飛行に類似した体験をすることは可能である。

出典:World View

 例えば、米国ではWorld ViewやSpace Perspective、後述する日本の岩谷技研などが、高度30〜50kmの成層圏からの観覧飛行の提供を計画している。Space Perspectiveの気球にはGMOインターネット代表の熊谷正寿氏も搭乗予定で、飛行は2024年を予定している。

 なお、気球で宇宙の近くに行った際に「無重力状態を体験できるの?」という疑問がわくかもしれない。結論から言えば、気球で浮かんでいる限り、無重力状態を体験することはできない。

 そもそも、ISSが周回する高度400km付近の宇宙空間でさえ、地上とほぼ変わらない重力(約0.9G)が存在する。ISSの飛行士が無重力状態なのは、ISSが地球に向かって自由落下し続けているからに他ならない。つまり、ワイヤーが切れて地面に向かって猛スピードで落下するエレベーターの中と状態的には同じわけだ。しかし、ISSは地球を90分で1周する超高速で飛行しており、落下の軌道が地球の丸みに沿っってしまう。そのため「ずっと落ち続けている」状態になっているのだ。

関連リンク:World ViewJAXASpace Perspective

日本企業の宇宙旅行

宇宙旅行の取り組みを進めている日本企業をいくつか紹介する。

1. PDエアロスペース

 日本企業としては、PDエアロスペースが民間主導の宇宙機開発を行っており、有人機、無人機の完全再使用型の宇宙機を開発中だ。.

出典:HIS

 同社はANAHDやエイチ・アイ・エス(HIS)などから出資を受け、沖縄県宮古島市にある下地島空港を「宇宙港」として整備し、将来的には有人・宇宙旅行の拠点化を目指している。

関連リンクPDエアロスペース

2. 岩谷技研

 北海道を拠点とする岩谷技研も、ガス気球による気軽な宇宙旅行体験「NearSpaceからの宇宙旅行」の提供を目指している。

 同社の遊覧サービスでは、2時間かけて高度25kmの成層圏へと上昇。同高度に1時間ほど滞在し、さらに1時間かけて地表へ帰還する、一般的な宇宙の定義とされる高度80〜100km以上には届かないが、黒い空、そして青い地球を見下ろす体験が味わえるという。

関連リンク:岩谷技研

 

Photo report

Related Articles