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月面基地とは いつ実現する?–目的や得られる資源、日本など各国の取り組みを解説

2023.08.28 09:01

塚本直樹小口貴宏

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 アポロ計画以来、半世紀以上ぶりに人類が月面に降り立とうとしている。米国は2025年頃に宇宙飛行士を月面に送り込み、それを足がかりに基地の建設に着手する計画だ。一方、中国もロシアと協力して月面基地の建設計画を発表している。

 なぜ各国が競うようにして月面基地の建設に乗り出しているのか。その目的や月面に眠る資源、そして日本の取り組みなどを解説する。

(更新:2024年1月10日)アポロ以来半世紀ぶりとなるNASAの有人月面探査計画が従来の2025年から2026年以降に延期された旨を追記。

何のために月面基地を建設するのか

 月面基地とは、人類が月面で活動する上での拠点となる基地だ。月面に眠る資源の探査や、月面での経済活動の促進、そして将来の有人火星探査や深宇宙探査における中継拠点としての役割も期待されている。

出典:JAXA

 米航空宇宙局(NASA)は2030年代後半から2040年代初頭にかけて、火星に宇宙飛行士を送ることを目指している。月面基地は、火星やその先の宇宙をヒトが探査する際に課題となる、生命維持システムや低重力、持続可能なエネルギー源、食料供給、水の再利用などを実証する格好の実験場となる。

 経済面では月に眠る資源を得られ、科学技術面では地球の6分の1という特殊な重力環境を活かした実験や研究の場所としても期待されている。

 NASAは「月面基地の建設を通じて、科学的発見、経済的利益、および新しい世代の人類がインスピレーションを得られる」と説明している。

月に眠る資源とは? 水はロケット燃料にも利用可能

 月の地下には、水や金属などの有用な資源が存在すると考えられている。特に水は、飲料水として利用できるだけでなく、水素と酸素に電気分解すればロケットの燃料としても活用できる。

出典:JAXA

 また、月の地下には鉄やケイ素などの元素が豊富に含まれており、これらの資源の採掘と利用が期待されている。さらに、月には洞窟や溶岩管が存在し、これらは月面の厳しい環境から宇宙飛行士を守るシェルターとして利用することもできる。

 また、月面にはレゴリスというガラスを多く含む細かい砂が地面を覆っている。これを焼成するなどして、月面での建築資材として活用する構想もある。

関連リンクNASAJAXA

米国のArtemis(アルテミス)計画について

 Artemis計画は、米国のNASAが主導する月探査計画だ。2022年11月には無人宇宙船の試験飛行「Artemis I」が実施された。今後、2024年には有人宇宙船で月を周回する「Artemis II」ミッションが、2026年以降はアポロ以来の有人月面着陸となる「Artemis III」の実施も計画されている。

 また、Artemis計画の一環として、2024年頃から月周回軌道に「Gateway」という小型宇宙ステーションが建設される予定だ。同ステーションはISSの6分の1ほどの質量と小型だが、月面探査の中継拠点となる予定だ。

 Artemis計画ではその後も、Gatewayとのドッキングや、有人月面着陸を繰り返し、月面に「Artemis Base Camp」という月面基地設置を建設することになっている。この同基地は、2030年代後半を予定する有人火星探査の中継地点との意味合いも持つことから、2030年代初頭までに形になるのではないかと期待されている。

関連リンクNASAJAXA

中国独自の月面基地計画「ILRS」とは

 月面基地の建設構想を掲げているのは米国だけではない。中国はロシアと共に、月面基地となる国際月面研究ステーション(ILRS)の建設を計画している。

 ILRSは計5つのミッションで着陸船と軌道船、中継衛星を投入し、2030年代に建設を開始し、2035年以降は有人基地としての利用も想定している。基地の建設地点としては、水が豊富に存在するとされる月の南極付近が選定されている。

関連リンク大公网

日本の取組みは? JAXAは清水建設やトヨタと協力

 日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、米国のArtemis計画に参加する形で、月面基地の建設に参加している。また、JAXAは清水建設や鹿島建設などと協力し、AI(人工知能)、ロボット技術、3Dプリンティングなどの先進技術を活用し、月面基地の建設や運用の効率化を目指している。

出典:清水建設

 さらに、JAXAはトヨタ自動車と協力して、Artemis計画で飛行士が月面を探査するための有人与圧ローバーの提供を計画している。

出典:トヨタ自動車

 宇宙飛行士候補として選ばれた米田あゆさん、諏訪理さんは、Artemis計画で月面に降り立つことも想定してJAXAから採用されている。

 なお、月面基地とは別に、JAXAは月面や他の惑星探査に必要な高精度着陸技術を小型探査機で実証する「SLIM」計画を進めているほか、日本の民間企業であるispaceも、着陸船と探査ローバーの月面着陸に向けて準備を進めている。

 また、2023年8月24日にはインド宇宙研究機関(ISRO)の月探査機「Chandrayaan-3」が月面への着陸に成功している。

関連リンクJAXA(国際宇宙探査の取り組み) 、JAXA(Gateway構想について)清水建設

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