特集
日本から超小型衛星を宇宙へ–「新」宇宙輸送サービスへの期待と課題
2022.03.22 08:00
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課題は政府のアンカーテナンシー、スピード感
次に榎本氏が尋ねたのは「日本で超小型衛星打ち上げをなかなか始められない課題について」。
稲川氏はアメリカの例を挙げた。「アメリカではロケットを開発する民間企業はたくさんあり、日本は数社。何が違うか。アメリカでは民間にどんどん任せようとNASAや政府系から多くの発注がある。政府が最初に購入してくれる(『アンカーテナンシー』と呼ばれる)から、リスクをとって開発ができる。そのあと、自分で顧客を見つけてビジネスを回すことができるから、アメリカのロケットベンチャーはうまくいく」
現在は日本で小型衛星を作っても、海外のロケットで打ち上げる企業や大学が多い。
「輸出の手間をかけて(衛星を海外に運ぶ)輸送にお金をかけるのか。日本のロケットを使えば費用の削減にもなる。日本の輸送系を使うことで技術や資金がエコシステムとして回れば、最終的に大きな産業になるというメッセージを、衛星事業者さんからも各省庁に出してもらいたい」(稲川氏)
ISTは、JAXAの新事業促進部などが中心となって進めている新事業創出プログラム「JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ(JAXA Space Innovation through PARtnership and Co-creation:J-SPARC)」の枠組みでJAXAと連携し、JAXA角田宇宙センターでZERO用のエンジンの燃焼試験を行っていることも説明。「すごく助かっている。だが設備老朽化の課題もある」という。
鬼塚氏はスピード感を挙げた。
「NASAの人は、民間にロケット開発を移行したことでNASAには出せなかったスピード感が出たと言っていた。それが世界の宇宙開発競争に勝ち残れる戦略だと。一方、日本では、官も民もスピード感が変わらないのではないか。日本のスタイルとしてどういう形がいいのか、みつけていくことがわれわれに課せられた仕事」(鬼塚氏)
鬼塚氏は、日本産にこだわることなく、SpaceXのロケット再利用などあらゆるところからノウハウを取ってくる必要があると説く。技術者個人が横に動くことで技術が伝わる。それが開発のスピードアップのために必要ではないかと述べた。
阿部氏は、切磋琢磨して競争する部分と協力した方がいい協調の部分があると指摘。「JAXAもスタートアップもエスタブリッシュドスペースもみんなで共通認識や、ぶれない目標を設定して役割分担をクリアにすることができれば、業界全体の成長のスピードが上がり規模が加速すると思う」
稲川氏は「地上でもタクシー、バス、自家用車があるようにロケットは大型から小型まで色々な種類が必要。多様な輸送系が出てくるべき。色々な輸送系を使ってもらうのが大事」と同意した。
確かにバラエティ豊かな輸送系があってこそ、衛星の目的に合わせた選択肢が増える。米国には、打ち上げ機会の提供と利用の施策を有機的に連結させ、総合調整するプログラムが複数存在する。日本で輸送系を使ってもらえるための枠組み、スピード感、政府の支援など課題と今後の展望がクリアになった議論だった。まずは今年飛び立つ新しい輸送系に注目したい。