特集

ガンダムは空想の世界の話じゃない–宇宙を目指してキャリアを積み重ねてきた米Axiom Space・田口優介氏の原点

2023.04.18 09:00

藤井 涼(編集部)日沼諭史

facebook X(旧Twitter) line
1 2

日本における次世代ISSの位置付け、重要性とは

――そのGITAIに3年ほど勤めた後、次に入社したのが現在のAxiom Spaceですね。

 Axiom Spaceは創立当初から注目していた会社で、JAXAに出向しているときから転職したいと思ってAxiom Spaceの知り合いに時折連絡をとっていました。そうしているうちに2022年の夏にJAXAがISS退役後の、次の宇宙ステーションに関する調査研究を複数社に発注したんですね。

 そのうちの1社がAxiom Spaceと事業提携している三井物産でした。CEOであるマイケル・サファディーニが、NASAで働いていた時に築いたJAXAとの深い繋がりもあり、Axiom Spaceとしてまずは日本に注力すべきという経営判断がありました。Axiom Spaceの日本における認知度が増すにつれ、首都圏在住でAxiom Spaceを代表できる人材を求めてNASAのアジア代表に相談していたそうです。僕としては、NASAのアジア代表の前任者がアストロスケール時代の上司でしたし、その関係で後任のアジア代表ともつながっていましたから、そこから連絡があって2022年11月にAxiom Spaceに入社することになりました。本当に人との縁ですよね。

――現在はAxiom Spaceでどのような仕事をされているのでしょうか。また、日本における次世代宇宙ステーションの重要性についても教えてください。

 アジア太平洋地域を対象に、まずは地球低軌道における経済圏の醸成が僕の使命です。その上で、我々のISSへの民間ミッションに何らかの形で参加したい、また我々が開発する宇宙ステーションである「Axiom Station」を利用したい、というお客様を探すのが仕事です。といっても、この1年はとにかく日本にフォーカスします。先ほどお話しした、三井物産と共同のJAXAの調査研究もありますし、その後は次の段階に進むことも考えられます。JAMSSさんとの長年のお付き合いもあり、彼らは我々の民間ミッションに既に直接関わっています。また、我々の民間ミッションに搭乗する民間宇宙飛行士は、ISSへ行く準備の一環として、筑波宇宙センターで訓練を受けます。このように、弊社は既に日本との深い繋がりがあります。

 また、日本も参画しているアルテミス計画では、ゲートウェイという月周回軌道の拠点を作ることになっていますが、そこに宇宙飛行士が滞在するのは年に30日程度となるので、最大でも一度に4人くらい。そのなかで日本人宇宙飛行士が行けるチャンスはなかなか来ないと思われます。しかし、技術やノウハウ、スキルを継承するためにも、宇宙飛行士を宇宙に届ける機会は必要です。

 微小重力環境における実験をするにしても、利用頻度が少なく滞在期間の短いゲートウェイだけでは不十分ですし、あえてそんなに遠くまで行って実施する意味もあまりなかったりします。輸送にさらに大きなコストがかかることも考えると、実験環境としては地球周回軌道の方が有利です。ISSに代わるその環境を確保できれば、宇宙での技術・ノウハウを持続的に磨けることにもなります。

 日本が自前で宇宙ステーションそのものを開発することはまずしないと思われるので、そうするとわれわれのような民間事業者から調達することになるでしょう。そのために必要な法整備の働きかけも含め、スムーズに対応できるようにするのが僕の仕事でもあります。

――Axiom Spaceが次世代宇宙ステーションの開発を正式に手がける可能性はどれくらいありそうですか。

 ISSの次を担う可能性があるものとしては、Axiom Stationの他に、Blue Originを中心とした「Orbital Reef」、Nanoracksを筆頭としたVoyager Space連合が進める「Starlab」、Northrop Grummanの3つのプロジェクトがあり、そこから1つか2つが選ばれるのではないかと言われています。が、われわれ以外の3つはまだ構想段階です。

 Axiom Spaceはすでに、既存のISSと接続した状態で宇宙ステーションを組み立てて良い、という契約をNASAと唯一締結していて、その最初のモジュールとなるものはイタリアのThales Alenia Spaceによって、今まさに製造中です。早ければ2023年夏にはヒューストン本社に外壁が届いて、打ち上げに向けた本格的な作業を始めることになります。

 これは他社を間違いなくリードしていますし、ISSと接続した状態で組み立てを始められることから、今ISSで行っている実験を継続しやすいという意味でもアドバンテージがあります。何せISSが2030年までに退役する前に、既存の機材をそのままAxiom Stationに運び込むことが可能です。こうした契約を締結できたのは非常に大きいと思っています。

宇宙には「人類の新しい能力」を開拓していくチャンスがある

――田口さんは、宇宙を目指して多くの会社を渡り歩いてきたわけですが、そこまでフットワーク軽く、エネルギッシュに動ける理由はどこにあるのでしょう。

 会社の傘というのは1つのステータスになるかもしれませんが、自分が個人としてどうかを考えたとき、それは本質的ではないなと思っています。自分がどういう組織に所属しているかには、僕はあまりこだわりはないんです。自分が本当に好きでやっている、と思えるような仕事をすることが大事だと思っているので、そういう場を常に求めている、というのはあるかもしれません。ただ、家族にはすごく不安に思われていますが(笑)

――田口さんにとって、宇宙の魅力とは何でしょうか。

 人類が宇宙を開拓していくことで、新たに広がる可能性が無限にあると思っています。個人的にもずっと宇宙に対する憧れがあって、そんな風に強烈に思うようになったきっかけの1つが、アポロ8号からの美しい地球の映像を見て、ぜひこれを自分の目で見てみたい、と思ったことでした。さらに、ガンダムのニュータイプに関する説明にも共感して、これはただの空想の世界じゃないと思ったのもあります。

 今でも自分はニュータイプになりたいと本気で思っています(笑)。ニュータイプについてはガンダムの小説などで解説があったのですが、それによると、たとえば地球上だと離れた人のことを想うとしても、せいぜい地球の裏側、2万キロメートルくらいしか離れていないけれど、それが宇宙だと何十倍、何百倍の距離になってくる。月面から地球上の人を思うようなとき、そうやって距離が伸びることで人間の感覚が研ぎ澄まされ、エスパーのようになるのでは、というのがニュータイプの発想につながっていて、それはリアルでも十分にあり得る話ではないかと。

 人間は根源的に新しい環境を見たいとか、開拓したいというような欲求が遺伝子にすり込まれているところがある気がします。そのために時代とともに新たな能力を獲得してきたのだと思っているので、ニュータイプとまでは行かなくても、人類の新しい能力を開拓していくチャンスが宇宙にはあるんじゃないかと思うんです。

――今後のキャリアで実現したい目標などありましたら教えてください。

 2022年のJAXAの宇宙飛行士選抜試験にも応募して、残念ながら不合格だったのですが、自分自身が宇宙に行くという夢は今ももっています。宇宙飛行士になって、世界平和に貢献できる何かがしたいな、と。たとえば世界の紛争地域で平和維持活動に関わってこられた方に話を聞くと、生々しい現実があることを思い知らされます。戦争に巻き込まれる一般人が本当に悲惨で、そういう現実を聞いていかに日本が平和で恵まれているかがわかる。

 僕は米国に住んでいたから、日本がこういう国なんだとわかりますし、反対に米国のことも別の視点から理解できるようになりました。比較できる対象がないと自分の今いる場所や環境のことはわからなかったりするんですよね。だからこそ、宇宙から地球を見れば、きっと感じることがあると思うんです。宇宙へ行って、そこで感じたことをできるだけ多くの人たちに伝えて、平和や地球環境保護に貢献できるようになりたい。もし世界の政治家が宇宙に行ったら、みんな気持ちが変わるんじゃないかと思うんですよね。

 それと、人間が宇宙に定住するタイミングは、人類としてやり直せるチャンスでもあるんじゃないかと思っています。地球上には国境があり、争いもあるわけですが、僕としては、宇宙では争いのない平和な状況が続いてほしい。人類ならそうやって平和に宇宙を開拓していけるのでは、という期待をもっています。

――最後に、宇宙に関わる仕事に興味・関心がある人に向けてメッセージをいただけますか。

 僕が就職活動をしているときには、宇宙関連の企業はJAXAやJAMSSくらいしかありませんでした。でも今はいろいろなスタートアップがありますし、これからは宇宙はあくまでも数ある活動舞台の1つ、という程度の身近なものになっていく。宇宙で何かをしたいと思ったときには、選択肢はさまざまにあると思います。

 たとえば、人が宇宙に定住することになったら観光業も成り立つでしょう。宇宙だから理系、という先入観に囚われることなく、宇宙で何かをしたいという想いを強く持っていれば、必ず何らかの形でつながるはずです。

1 2

Related Articles