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テックベンチャーと老舗旅行会社が語る–地上から宇宙を身近な存在にするアプローチ

2023.02.16 13:00

石田仁志

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 その際の自社のビジネス領域を、宇宙の「宙」という文字を使って「そら」という言葉で表現している。「オーロラや夕焼けなどの現象も宙の1つだし、人類の活動領域となっている月、さらにその先の火星や深宇宙までを我々のフィールドにしたい」と中島氏は語る。

日本旅行が定義する「宙(そら)」の概念図(出典:宙ツーリズム推進協議会)
日本旅行が定義する「宙(そら)」の概念図(出典:宙ツーリズム推進協議会)

 日本旅行が宇宙ビジネスに本格的に参入したのは、中島氏が事業を立ち上げた2015年以降であるが、同社は毛利衛宇宙飛行士がスペースシャトルに搭乗した1992年から、地上支援という形で携わってきた歴史がある。これまでにJAXAなどのロケット打ち上げ関連業務、宇宙関連施設を核にした町づくり、子どもたちの体験などを通じて約3万人に様々な宇宙体験プログラムを提供してきたという。

 現在は、それらの取り組みを引き継ぐものを含めて主に6つの事業を手掛ける。代表的なものとして、ソニーグループが打ち上げた人工衛星を活用した教育機関向け体験プログラムの開発、北海道大樹町でのスペースポートを核とした町づくりなどがあるが、特にオファーが多いのが教育事業で、「avatarinをはじめ様々なパートナーと、知的好奇心や学びの心に火をつけ、非認知能力の向上を実現する教育プログラムを提供している」(中島氏)という。

 他にも、コンシューマー向けに「sola旅クラブ」というブランドを立ち上げ、多彩なプランのツアーを実施。「高い収益率ならびにリピート率を誇る商品開発も行っている」(中島氏)とのこと。将来的には宇宙旅行事業も目指すが、「我々が描いている宇宙旅行ビジネスは、安心安全かつ快適なもの。将来に向けて、様々な技術や知見を持つ企業と宇宙旅行の分野をはじめ、様々なパートナーシップで事業拡大ができればと思っている」と、中島氏は構想を打ち明ける。

日本旅行の宇宙事業における6つの取り組み
日本旅行の宇宙事業における6つの取り組み

良くも悪くも社内で目立つ「宇宙」というパワーワード

 セッションの後半では、編集部と視聴者から寄せられた質問に2人が回答した。まず、avatarinと日本旅行の協業内容に関しては、日本旅行が提供する「ミライ塾」という中高生向けの教育パッケージ内で、avatarinが協力している形である。

 「avatarinの先端技術を学生に見せて、それらをどのように社会実装し役立てていくかを一緒に考えるワークショップ型探求教育プログラムを提供している」(中島氏)

 続いて、組織の中で既存の事業をしている中で宇宙ビジネスに挑戦する難しさや苦労、周囲の反応については、両名とも苦労をしたと声を揃える。

 深堀氏は「宇宙での実証はコストもスケジュールもきっちり決まっていて、地上のビジネスのように展開するのは難しい。更に大手企業ではリターンが何かを必ず求められる」と明かす。そこで同氏は、「オンリーワンの技術を作るために極限環境での実証を行うというストーリーを用意し、ウィン・ウィンの形でJAXAに研究テーマとして採択してもらい、実証に漕ぎ着けた」のだという。

 中島氏は、「宇宙というワードにはパワーがあるので、良くも悪くも社内で目立つ」と実態を表現する。日本旅行はavatarinのようなテックベンチャーとは違い、技術を持たない“無形商売”を生業とする中で、「人手によるノウハウや経験値の蓄積が重要と思い、まずひとつを極めることからスタートし、今あるものをつなぎあわせてメリットを提供することを目指している」という。

 「やったことがない取り組みに対しては逆風があったことも確かだが、軌道に乗れば同事業のような取り組みは一つのビジネスモデルになると、会社としても良い学びになっている。我々が頑張ることで、会社にとっても意味のある取り組みになっている」(中島氏)

 一方で深堀氏は、それ以上に嬉しかったことの方が多いとポジティブな側面を強調する。「今年度のオープンイノベーション大賞の内閣総理大臣賞を受賞したほか、実際に400人にISS内での遠隔操作の体験をしてもらい、そこから宇宙飛行士を目指す子どもたちが増えて、JAXAとともに新しい時代を切り拓くことができた」という。

 中島氏も、一般の人々の楽しいという反応がスタッフの喜びやモチベーションになっていると語る。「特に皆様が体験をしたときの笑顔が印象的で、打ち上げ時には女性は高い確率で涙を流す。それくらい宇宙への冒険や重力に抗って宙を目指すというところに感動やパワーがある」のだという。

 最後に両者は、それぞれのサービスのロードマップについて語った。  

 avatarinの宇宙ビジネスは、「2025~2030年の間にアバターによる宇宙での業務支援や旅行がサービスレベルになってくるはず」(深堀氏)との見通しを示す。

 また日本旅行が提供する宇宙旅行に関して中島氏は慎重な構えを見せつつ、「パッケージツアーは日本の旅行会社ならではのサービス形態なので、アジア発のサービスとして、おもてなしも含めたワンストップサービスを提供したいと考えている」と思いを明かした。

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