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2022年、宇宙競争はより白熱し、混み合い、危険になる
2022.01.19 11:22
すべてを軌道に乗せる
宇宙のこととなると、常に壮大なビジョンを持つ人々がいるものだ。宇宙経由の世界旅行もそうしたビジョンの1つだが、地上の産業をそのまま宇宙に持っていくというビジョンもある。
そうしたアイデアは新しいものではない。軌道上の行楽地、庭園、さらには1つの町全体が独自の人工重力で地球の上空を周回するという概念は、SFの定番だ。AmazonとBlue Originの創業者、Jeff Bezos氏がこの概念にひねりを加えたビジョンは、汚染を起こす産業など、悪影響をともなう活動を宇宙に移すことによって、地球の環境を保護するというものだ。
Musk氏の火星構想と同様に、工場を軌道上に構築するというBezos氏のビジョンを実現するためのロジスティクスの詳細はまだ提示されていないが、そのためのロケットを建設する準備はできている。
ISSの運用が30年目に突入し、NASAが後継機を探している現在、新たな小型商用宇宙ステーションを打ち上げるという複数の計画の詳細が提示されており、この10年で軌道に乗りそうだ。
軌道上でのこうしたすべての活動は、私がこれまでほのめかしてきた、少し心配なパラドックスを生み出す。つまり、軌道上のモノ(および人間)が増えれば、それらのモノと人間にとっての危険が増す。
NASAの元宇宙船ナビゲーターでテキサス大学の航空宇宙工学教授のMoriba Jah博士は、地球に近い宇宙空間を、地球上の大地、空気、水と同等の保護すべき生態系と見なす必要があると語る。
Jah氏は私に次のように語った。「宇宙は無限だと言われるかもしれないが、(中略)地球に近い宇宙空間は無限ではない。現在その有限な資源が、いかなる調整や計画もなしに利用されているため、地球に近い宇宙空間は環境保護を必要としている」
Jah氏は、スペースデブリ(宇宙ゴミ)が宇宙飛行士や将来の宇宙旅行者にとってだけでなく、宇宙船が提供するサービスに依存する地上の人間にとってもリスクになると指摘する。
「宇宙の現実は、スマートフォンほどの、あるいはもっと小さな宇宙ゴミの破片が弾丸の15倍の速度で移動しており、こうした破片が1つでも人間を輸送しているロケットを貫通すればおしまいだ。これを防げるシールドはない。皆この現実に気づいていないのだと思う。だが、次に考えるべきことは、サービスを提供する衛星への破片の貫通だ。そうなれば、位置情報、ナビ、時刻同期、金融取引などのサービスが崩壊する」(Jah氏)
過去2年間で、ISSは宇宙ゴミとの衝突を回避するために少なくとも1回のマヌーバを実施した。最近では2021年11月、ロシアがミサイル実験で自国の衛星の1つを破壊したことで、地球周辺に何百もの新たな宇宙ゴミの破片が生み出された。ISSの宇宙飛行士たちは、ISSにドッキングしている「Soyuz」と「Crew Dragon」のカプセルに避難しなければならなかった。
軌道をより安全に保つためのシステムを構築することは、巨大なロジスティクスおよび政治的な課題のように見えるが、Jah氏は、地球に近い宇宙を管理するための基盤構築は、比較的シンプルなステップから始められると主張する。「管理していないことを強制することはできない。知らないことを管理することもできない。そして、測定しなければ知ることはできない。だから、測定こそが全てだ。可能な限り測定しよう」(Jah氏)
今世紀に少なくとも3回は軍事テストによって突然何千もの新しい宇宙ゴミが生み出されたが、それでも人類は今のところなんとか地球に近い宇宙を大きな事故もなく管理してきた。だが2022年以降、人類はこの最寄りの宇宙の小さな片隅に、さらに踏み込もうとしている。
宇宙工学研究者のHugh Lewis氏は次のように語った。「問題は常に深刻化しているので、私は朝、不穏な気持ちで目覚めることがある。人類はある時点で地球に近い宇宙を管理できる限界に達するのではないだろうか?」
(この記事はCNET Japanからの転載です)