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NASAの小惑星衝突計画–小惑星の軌道変更、未来の地球衝突に備える
2022.09.22 10:55
アメリカ航空宇宙局(NASA)が探査機を小惑星に衝突させようとしている。まるでスペースインベーダーのような話だが、来る9月26日にこの衝突を予定しているミッション「二重小惑星方向転換試験」(DART:Double Asteroid Redirection Test)の狙いは、探査機を小惑星に衝突させ、その軌道を変えることだ。DARTは、将来起こりうる小惑星や彗星の衝突から地球を守る技術の実証実験であり、その目的は、簡単に言えば、かつて恐竜を絶滅させた状況が地球で再び起きないようにすることである。
同ミッションのターゲットは、地球近傍小惑星「ディディモス」とその衛星「ディモルフォス」からなる二重小惑星だ。NASAはこの直径530フィート(160メートル)の衛星ディモルフォスに探査機を衝突させて速度と進路を変えようとしている。
NASAの説明によると、探査機には「SMART Nav(Small-body Maneuvering Autonomous Real Time Navigation)」と呼ばれる高度な誘導・航行・制御システムが搭載されており、この2つの小惑星を特定し、見分けることができるという。
DARTは、NASAの惑星防衛戦略の一角を担うもので、米メリーランド州ローレルにあるジョンズ・ホプキンス応用物理学研究所(APL)が管理している。
ディモルフォスは地球に脅威を与えているわけではないが、この実験はDART調査チームがアプローチの信頼性や、将来の惑星防衛シナリオへの適用方法を見定め、コンピューターシミュレーションの正確性や小惑星の実際の挙動の反映精度を判断するのに役立つとNASAは説明している。
NASAのブログには、NASAのBill Nelson長官が「DARTは科学的な空想を現実に変えようとしている。このミッションは、NASAが人類の利益のために、将来のリスクを見据えた革新的な取り組みを展開していることの証左だ」と述べたと書かれている。「NASAは、宇宙や地球を研究するだけでなく、地球を守ろうとしている。今回の実験は、地球に衝突する恐れのある小惑星から地球を守る現実的な方法のひとつを証明しようとするものだ」
チームはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)、ハッブル宇宙望遠鏡、ルーシー小惑星探査機を使って、地球から小惑星の動きをモニタリングする。
衝突後は、欧州宇宙機関(ESA)の二重小惑星探査ミッション「Hera」が、衝突が小惑星に与えた影響(キネティックインパクト)を把握するためのデータ収集を支援する予定だ。小惑星探査機Heraは、DART探査機が小惑星に衝突してから2年後の2024年10月に打ち上げられる。ESAによると、Heraは打ち上げ後、衝突がディモルフォスに与えた影響について、詳細な調査を行う予定だ。
NASAはDARTミッションの期間中、小惑星カメラ「DRACO」(Didymos Reconnaissance and Asteroid Camera for Optical navigation)から地球に毎秒1枚送られてくる画像をNASA TVでライブ配信するとしている。DARTは9月26日にディモルフォスに接近し、東部標準時午後7時14分にディモルフォスと衝突する予定だ。画像のライブ配信は午後6時から開始される。NASAは9月12日の記者会見で、「目を見張るような」画像が見られるだろうと述べた。
よくある質問
Q:DARTミッションとは。
A:DARTは「二重小惑星方向転換試験(Double Asteroid Redirection Test)」の略称であり、小惑星ディディモスの衛星、ディモルフォスに探査機を衝突させ、その衝撃によって小惑星の進路を変えることを目指すNASAの実験計画である。この衝突により、将来起こりうる小惑星や彗星の衝突から地球を守る技術を検証する。
Q:惑星防衛の観点から見て、DARTの意義は何か。
この実験が成功すれば、小惑星や彗星が地球に衝突する可能性が生じた場合に、偏向技術の効果を確認できる。収集したデータは、科学モデルの検証や将来の小惑星の偏向実験にも役立つ。
Q:実験が成功した場合、恐竜の絶滅を引き起こしたような直径10km級の小惑星の軌道も変えられると考えてよいか。
A:NASAは9月12日に行った説明で、NASAが確認している直径10km級の小惑星は4つしかなく、そのすべてを追跡しているとした。これらの巨大な小惑星は現在、地球の脅威とはなっていない。
Q:探査機が衝突することで小惑星ディモルフォスが2つに割れる可能性はあるか。
A:NASAは9月12日に行った説明で、さまざまな条件でシミュレーションを実施しており、実験の成功を確信していると述べた。衝突によって小惑星が破壊されたり、粉砕されたりすることはなく、小惑星の軌道に変化が生じるだけだという。2つの小惑星が地球の脅威になる可能性はない。DARTの統括責任者Nancy Chabot氏は、今回の衝突を「巨大なピラミッドにゴルフカートをぶつけるようなもの」と例えた。
Q:なぜ今、このような実験を実施するのか。現在、地球に脅威となっている小惑星があるのか。
A:NASAが把握している限り、現時点で地球を脅かしている小惑星はない。しかし将来、登場する可能性はあるため、対処するための技術を整えておく必要がある。
Q:月探査ミッション「アルテミス」がさらに延期された場合、DARTミッションへの影響はあるか。
A:アルテミスとDARTの日程が重なったとしても、両者に問題が生じる可能性は低い。どちらのミッションも問題なく実施されるだろう。
Q:DARTが小惑星に衝突する様子を見ることはできるか。
A:可能だ。NASAは、小惑星カメラ「DRACO」から地球に毎秒1枚送られてくる画像をNASA TVでライブ配信するとしている。ライブ配信は東部標準時9月26日午後6時から始まり、衝突は午後7時14分に起きる見込みだ。
(この記事はCNET Japanからの転載です)