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VRで宇宙飛行士のメンタルケア–国際宇宙ステーションで体感する自然と街並み
2025.02.08 08:00
VRの宇宙
VRは、ISSの実験で宇宙旅行の世界に初めて進出したわけではない。NASAなどの宇宙機関は何十年にもわたってこのテクノロジーの用途を見つけてきた。その探求は、世界の他の機関がVRの存在をほとんど忘れていた時期にも続いていた。
NASAは1990年代に急造のヘッドセットを使い始め、宇宙遊泳のような高リスクのタスク向けに宇宙飛行士を訓練する方法を開発した。積載物の扱いや「SAFER」バックパック(命綱が切れた場合に宇宙飛行士がISSに戻るための装置)の使い方の習得は、地球上での再現が難しい状況だ。
ジョンソン宇宙センターの中性浮力実験室には、無重力の再現に役立つ巨大なプールがあり、宇宙飛行士はここで宇宙遊泳の訓練をすることができる。VRヘッドセットを装着すれば、宇宙を浮遊しているような体験が可能だ。
NASAには他にもVR関連のラボやイニシアチブ、ユースケースがある、とBell氏は語る。「Crew Health and Performance Exploration Analog」(CHAPEA)は、1年間の火星ミッションの体験を模した一連のミッションだ。NASAはジョンソン宇宙センターに1700平方フィート(約158平方m)の居住空間を建設し、クルーはそこで生活しながら、「火星歩行」や食料の栽培、環境の維持などの活動を行った。最初のチームは2024年7月に300日間のミッションを終えた。

火星の表面を模して作られた砂場のような場所が、VRによって火星の広大な地形に変わる。この場所で、宇宙飛行士がいつの日か火星で遂行しなければならない作業に備えて訓練し、その作業を実際に行うことができる。
欧州宇宙機関もクロスリアリティー(XR)ラボを2015年に立ち上げて、宇宙飛行士の訓練から月軌道プラットフォームゲートウェイの設計支援まで、あらゆることにVR、拡張現実(AR)、複合現実(MR)を活用しようとしている。
VIVEは、ISSに持ち込まれた最初のヘッドマウントディスプレイでさえない。Microsoftは2016年、同社のARヘッドセット「HoloLens」をISSに送った。Scott Kelly氏などの宇宙飛行士はHoloLensを使用して、地球上のクルーメンバーからリアルタイムと非リアルタイムの両方で指示を受け、さまざまなタスクを遂行した。
帰還とその先
ISSへのVIVE持ち込みが認められた今、Thomsen氏は研究が継続されることを望んでいる。この実験のデータは主に、Mogensen氏がセッションの前後に記入した自己申告式のアンケートから収集された。Thomsen氏は心拍モニターや皮膚センサーの承認を得ることはできなかったが、将来的には、脳の電気的活動を測定する脳波測定器(EEG)とともに承認を得たいと述べている。
同氏はイタリアの大学と協力して、被験者の感情を目と瞳孔の反応で示す方法についても研究している。現在のところ、他にVIVEに関する具体的な計画はない。
しかしThomsen氏は、宇宙飛行士がVRを使って仮想環境に身を置き、例えば暖炉の火がパチパチと音を立てる居心地の良いリビングルームで、故郷の友人や家族に囲まれるという体験ができる日を思い描いている。
同氏はまた、宇宙でのVR利用という注目を集める用途によって、セラピー、車椅子の利用者、ホスピスケアなど、メンタルヘルスのさまざまなケースでVRがすでに使用されていることについて、地球上の人々の認識が高まることを期待している。
Mogensen氏は2024年3月に地球に戻っているが、2台のVIVE Focus 3ヘッドセットがISSで未来のミッションを待っている。他のクルーメンバーもこの実験でVIVEを使用する機会を得た。
「この種のテクノロジーには長期ミッションで大きな可能性があると思う」とMogensen氏は帰還後の声明で語った。VRによってミッションでの作業が改善され、宇宙飛行士のリスクが軽減されると考えているという。
一方、HTCのDexmier氏は次のように述べた。「宇宙探査には未知の部分が多くあるが、唯一分かっているのは、探査の規模が拡大の一途をたどっていくということだ」
さしあたり、地球外への長期旅行は、少なくとも仮想世界では、公園でのサイクリングのようなものになるかもしれない。

(この記事はZDNET Japanからの転載です)