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天才起業家イーロン・マスク氏の大風呂敷を振り返る–「Tesla Bot」でも強気の展望

2021.09.11 07:30

CNET Japan

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 同氏による火星着陸のスケジュールは何度も先延ばしになっている。2018年だったのが2022年になり、2024年になり……。現在、同社は一時的にアルテミス計画での月着陸にフォーカスしている。Donald Trump前米大統領は、2024年までにNASAがこの計画を実行すると約束した。NASAは、Joe Biden政権下でもこの目標を撤回していないが、大多数の観測筋は、この目標は非現実的だと感じている。NASAの巨大ロケット「Space Launch System」(SLS)の開発ペースが極めて遅いからだ。

 だが、Musk氏とSpaceX公式による、アルテミス計画のためのStarship開発では、話は少し違う。同氏は2019年には、Starshipが2023年までに宇宙飛行士を月に送れると予測しており、同氏は最近この目標を繰り返した。

 一方、SpaceXは7月中にStarshipの初の軌道飛行を行うという「野心的な」目標達成を既に逃している。Musk氏はこの巨大な乗り物の飛行準備はほぼ整っていると言うが、何カ月にもわたる規制上のハードルがあり、2021年中に宇宙に行ける可能性は低いとみられる。

 まとめると、SpaceXの宇宙進出計画が失敗すると思い込まないほうがいいのと同時に、Musk氏の希望ほど早く計画が進展するとも思わないほうがいいということも確かだ。これはTeslaの場合と同様だ。

Hyperloopに関わり続ける

 上記のMusk氏の2つの主要なベンチャーでは、同氏は単にせっかちなのか、あるいは無理なスケジュールを利用して従業員のやる気を引き出し、同時に世間の関心を維持しようとしているようだ。いずれにしても、(かなり開きがあるにしても)成果はかなり一貫してMusk氏の豪語に追随している。

 だが、Musk氏のサイドプロジェクトの場合、その成果はさらに予測と開きがある。

 例えばHyperloopの場合。これは、真空状態の管内をポッドで超高速移動する輸送システムで、Musk氏は2013年にその構想をホワイトペーパーでオープンソース化した。同氏は当時、自分でこのテクノロジーの開発に専念する時間はないとしていたが、サイドプロジェクトとして関わり続け、ポッド開発コンペを主催し、トンネル建設改善のためにThe Boring Companyを立ち上げ、「Loop」と改称したブランド名の下、ラスベガスやロサンゼルスでデモプロジェクトを実施した。

 Musk氏はLoopを、地下のレール上を高速で走るポッドのネットワークで、高速道路の制限速度の最大2倍の速度で乗客と車両を輸送でき、交通渋滞を解消すると紹介した。

 だが今のところ、ラスベガスとカリフォルニアのSpaceX本社近くでのパイロットプロジェクトは、人間が運転する特別仕様のTeslaの電気自動車に参加者を乗せ、短距離を比較的低速で移動する短いトンネル以上のなにものでもない。このプロジェクトに関しては、革命はまだ先のようだ。

頭の中にMusk氏を

 Musk氏は、もう1つの小規模な取り組み「Neuralink」でも、予定より遅れている。Neuralinkの長期的目標は、ブレインコンピューターインターフェースを介して人間の脳とAIの間に真の意識の融合をもたらすことだ。Musk氏はこれを、人類が強力な汎用AIの開発に追いつくための方法と見ている。同氏は長い間、AIを実存的脅威とみなしてきた。

Neuralinkのインプラント(提供:CNET)
Neuralinkのインプラント(提供:CNET)

 同社の短期的目標は、麻痺などの障害のある人のための支援技術の開発だ。

 Musk氏は2019年に、「2021年末までには人間の患者に使ってもらいたいと熱望している。それほど遠い未来の話ではない」と語った。

 だがこれまでのところ、Neuralinkからのニュースはその通りにはなっていない。その後開催された複数のメディア向けイベントで、脳にチップを埋め込んだ豚と、無線接続式の脳インプラントを介して「Pong」で遊べるサルが紹介された。だが、人間による治験や科学論文、その他のデータの提供は遅れている。2021年にはNeuralinkの製品を市場に投入するという以前の目標は、実現していないようだ。

 では、これらすべての情報から何がわかるだろうか。2つだけ確かなことがある。まず、Musk氏は、自分のレーダーがキャッチするほとんどすべてのアイデアについて、それを未来に投影せずにはいられないということだ。そして、同氏の掲げるスケジュールは信頼できないということ。もしMusk氏がピザを30分で届けると言ったら、さっさと外食に出かけ、翌週のどこかのタイミングでピザが到着するのを楽しみにした方がいい。

 また、この人物がTeslaの施設やSpaceXのStarship開発現場の小さな小屋で何度も寝泊まりしていることも覚えておこう。同氏は自動車と宇宙の分野で、何が実現可能かをかなり理解している。だが、同氏がそれ以外の分野(Dogecoinだろうがヒューマノイドロボットだろうが)に取り組んでいる場合は、健全な懐疑論を持った方がいい。

 Musk氏はTeslaをロボット工学企業とみなしたいかもしれないが、Boston Dynamicsのような企業は、ヒューマノイドの形状がもたらすさまざまな自由さに対応するためのエンジニアリングについて言いたいことがあるだろう。結局のところ、Teslaの電気自動車「Model 3」が(Boston Dynamicsの二足歩行ロボット「Atlas」のように)ジャンプしたり踊ったりバク転するのを見た人はいない。

 TeslaとSpaceXを介してMusk氏にコメントを求めたが、返答はなかった。

 さて、2022年にTesla Botは登場するだろうか。Musk氏はまた別の取り組みに気を取られてしまうのではないだろうか。

(この記事はCNET Japanからの転載です)

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