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欧州、衛星2機の「編隊飛行」に成功–宇宙で1ミリ未満の単位で位置をあわせる
欧州宇宙機関(ESA)は現地時間5月8日、2機の衛星による超高精度な編隊飛行ミッション「Proba-3」の試験を成功させたと発表した。
Proba-3は「Occultar」(オカルター)と「Coronagraph」(コロナグラフ)と呼ばれる2機の衛星で構成。約150mの距離で、OcculterがCoronagraphに届く太陽光を遮り、皆既日食を作り出す。作り出した皆既日食から太陽コロナを研究する。
Proba-3では、長年の疑問とされている「なぜ太陽コロナは太陽そのものよりもかなり高温なのか?」の解明が期待されている(太陽表面は約6000度だが、太陽コロナは約100万度)。太陽の大気であるコロナは低部と高部があるが、その間は観測が困難な領域とされ、その領域の謎の解明にも挑む。

今回、両機は150m離れた位置で、ミリメートル単位の精度で完全な編隊飛行を実施した。2機は、影を計測するデバイスや衛星測位システム(GNSS)、カメラなど複数のセンサーと小型の冷却ガススラスターを連携させ、数時間にわたって自律的に相対位置を維持した。
「距離の誤差はミリメートル単位、横方向ではサブミリメートル(1ミリ未満)の精度だった」と、ESAでProba-3のプロジェクトマネージャーを務めるDamien Galano(ダミアン・ガラーノ)氏は述べている。Proba-3は今後、太陽と位置を正確に合わせ、皆既日食を作り出して観測する予定だ。
2機は、地球に最も近いところ(近地点)が高度600km、地球に最も遠いところ(遠地点)が高度6万530kmという極端な楕円軌道を周回する。編隊飛行は、地球から5万km以上離れたところで行われる。地球の重力の影響が小さくなるため、非常に少ない燃料で編隊飛行を維持できるという。その後、編隊は崩れ、次の軌道で再び編隊を組む必要がある。このサイクルを繰り返すことになる。
地上の運用チームは、位置情報から宇宙空間での2機の正確な位置を特定する。その後、衛星に搭載されたスラスタで2つの衛星を接近させる。残りはすべて自律的に進められる。Occulterに搭載されたカメラが、Coronagraphにある点滅するLEDライトを追跡するシステムを使用して、相対的な位置を測定、制御する。

地球で観測できる皆既日食は年間1.5回、1回あたりの時間は約10分程度。だが、Proba-3では、OcculterとCoronagraphが作り出す皆既日食の時間は1回あたり6時間、回数は年間50回と計算されている。
今回のテストの成功により、一つの衛星が太陽を遮り、人工的に皆既日食を作り出す観測が可能になる。これにより、「なぜ太陽コロナは超高温なのか」「太陽風は何によって加速されるのか」「コロナ質量放出(CME)で物質がどのように宇宙へ放出されるのか」などの解明が期待される。
米メディアのSpace.comによると、今回の成果は、太陽の研究にとどまらず、将来に大きな影響を及ぼす可能性があるという。今回の精密な編隊飛行は、地球観測の強化、宇宙船のドッキング、掩蔽装置と観測装置を活用した太陽系外惑星の探査、宇宙からの重力波検出などに活用できる可能性があるとしている。
