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「だいち4号」、光通信で静止衛星を経由して地上局への大容量データ伝送に成功

2025.01.24 08:00

UchuBizスタッフ

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 先進レーダー衛星「だいち4号」(ALOS-4)が光通信で静止衛星を経由して観測データを地上局に初伝送することに成功した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)とNECが1月23日に発表した。

 地球低軌道(LEO)を周回するALOS-4と高度約3万6000kmの静止軌道(GEO)に位置する「光データ中継衛星(データ中継衛星1号機:JDRS-1)」に搭載されている「衛星間光通信システム」(Laser Utilizing Communication System:LUCAS)を利用した光通信(波長1.5μm、通信速度1.8Gbps)で伝送した。

図1:LUCASの概要。OLLCTが低軌道衛星用の光ターミナル(ALOS-4に搭載)、OGLCTが静止軌道衛星用の光ターミナル(JDRS-1に搭載)。OLLCTはOGLCTより光学部の口径を小さくして小型化を図っている(出典:JAXA / NEC)
図1:LUCASの概要。OLLCTが低軌道衛星用の光ターミナル(ALOS-4に搭載)、OGLCTが静止軌道衛星用の光ターミナル(JDRS-1に搭載)。OLLCTはOGLCTより光学部の口径を小さくして小型化を図っている(出典:JAXA / NEC)

 JAXAとNECは、LUCASの低軌道衛星用光ターミナル(Optical Leo Laser Communication Terminal:OLLCT)を搭載したALOS-4と、静止軌道衛星用の光ターミナル(Optical Geo Laser Communication Terminal:OGLCT)を搭載したJDRS-1の間の光通信を2024年10月に確立してから、技術的な実証を続けてきた。光通信が確立した状態でALOS-4からの観測データの地上局への伝送に成功した。

 LUCASを利用したデータ伝送が成功したことで、利用できる地上局がない領域において地上局と直接通信できなかった大量の観測データも即時的にダウンリンクできるようになる。

 図2は、LUCASを経由してダウンリンクした初めての画像であり、北極からヨーロッパ、アフリカ大陸を縦断するようにして30分間ALOS-4が観測した大容量のミッションデータを画像化したもの。地上局への直接伝送では、複数回に分けて伝送する必要があるが、LUCASを利用することで非常に広大な領域の観測データを一度の通信で取得できるようになった。

図2:LUCASでデータ伝送したALOS-4の観測画像。初期較正検証運用で取得。帯状の範囲の観測データを一度にダウンリンクし、地上局直接伝送では複数のパスに分割する必要があるような大量のデータを即時的に取得することに成功した。北極海の海氷など観測範囲の1部を拡大して疑似カラー画像処理して表示(出典:JAXA)
図2:LUCASでデータ伝送したALOS-4の観測画像。初期較正検証運用で取得。帯状の範囲の観測データを一度にダウンリンクし、地上局直接伝送では複数のパスに分割する必要があるような大量のデータを即時的に取得することに成功した。北極海の海氷など観測範囲の1部を拡大して疑似カラー画像処理して表示(出典:JAXA)

 電波と比べて桁違いという広い帯域(波長1.5μm帯で5THz)の光による通信は、電波より多くの情報を送信できる。非常に絞ったビームを使用するため、干渉や傍受の恐れがないと説明。将来の宇宙での高速大容量通信の実現には光の活用が不可欠としている。LUCASの通信速度1.8Gbpsは、前世代のデータ中継技術衛星「こだま」(Data Relay Test Satellite:DRTS)の通信速度240Mbpsの約7.5倍になる。

 低軌道を周回するALOS-4と静止軌道上にあるJDRS-1は約4万kmの距離があり、高速に移動する相手衛星を捕捉して通信するには、精密な光学系とその制御技術が求められるという。

 具体的には、高度約3万6000kmの静止軌道のJDRS-1が秒速約3.1km、低軌道を周回するALOS-4が秒速約7.6kmという高速で移動している中で、相手衛星へ向けて、約4万km離れた位置でも500m程度にしか広がらないレーザー光を正確に照射し続けるため、レーザー光の高出力光増幅技術とレーザー光を相手衛星に指向させる捕捉に追尾技術が必要としている。

 NECは、プロジェクトでLUCAS全体のシステム設計とLUCASの主要素である双方の光通信ターミナル機器を開発した(JDRS-1に搭載されるOGLCTとALOS-4に搭載されるOLLCT)。

 LUCASの最大の特徴である1.5μm帯の使用は、地上や海底の光ファイバー通信でのNECでの開発実績に基づくものであり、将来的な通信システムとの連携を視野に入れて開発した。1.5μm帯は電力効率が相対的な弱点と指摘されるが、今回の静止軌道衛星-低軌道衛星間の長距離高速伝送が成功したことで宇宙光通信での利用が今後加速されるとNECは考えている。

 ALOS-4には、JAXAとNECが開発した「衛星搭載船舶自動識別システム実験3」(SPace based AIS Experiment3:SPAISE3)も搭載されている。船舶密集地域での船舶の動きを観測する。SPAISE3の観測データも光通信でデータを伝送することで多くのデータ量をリアルタイムに伝送できるようになる。

図3:LUCASは光通信で1.8Gbpsの速度で大容量データを伝送可能(出典:JAXA)
図3:LUCASは光通信で1.8Gbpsの速度で大容量データを伝送可能(出典:JAXA)

関連情報
JAXA / NECプレスリリース
LUCAS概要(JAXA第一宇宙技術部門)
だいち4号概要(JAXA第一宇宙技術部門)

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