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欧州メーカー、「量子暗号通信」ペイロードを開発へ–静止衛星に搭載
欧州衛星メーカーのThales Alenia Space(タレス・アレニア・スペース)とスペインの衛星運用会社Hispasat(ヒスパサット)は現地時間1月21日、静止軌道を周回する衛星に搭載できる貨物(ペイロード)として「量子暗号通信」で暗号鍵を配布する(量子鍵配送=Quantum Key Distribution:QKD)「QKD-GEO」の開発で、政府資金を確保したと発表した。
スペインが主導する2年間のプロジェクトでは、1億400万ユーロ(約170億円)の欧州COVID-19復興資金の支援を受けて、静止軌道(GEO)で初となるQKDプラットフォームの基礎を築くものだ。
QKDでは光子の量子特性を活用して暗号鍵を生成し、それを盗聴されることなく配布する。盗聴されると光子の量子状態が乱れ、鍵が使用不能になる仕組みだ。衛星での量子暗号鍵の配布は、地上通信と比較して信号の減衰を抑えられるというメリットがある。
Thales Alenia Spaceの広報担当者によれば、現在の計画ではQKDペイロードをHispasatの衛星に搭載する予定だという。QKD-GEOの契約には、地上セグメントの開発も含まれる。
現在、インターネットで秘密を保つために必須となっているのが暗号通信であり、暗号方式には「公開鍵暗号」と「共通鍵暗号」という2つの方式があり、実際のインターネット通信では、両者を組み合わせたSSL暗号方式が広く使われている。
共通鍵暗号は、通信内容の暗号化に用いられる方式であり、受信側と送信側でAES暗号などの鍵を共有し、暗号化、復号化する。その共通鍵の受け渡しに使われるのが公開鍵暗号だ。
受信側が公開鍵と秘密鍵を生成する。受信側は送信側に公開鍵を共有し、送信側はその公開鍵で暗号化したデータを送信する。最終的に受信側は、自分しか知らない秘密鍵でデータを復号化する。
これらの鍵生成には「RSA」というアルゴリズムが活用されている。通常のコンピューターでは、RSA暗号を解読するには天文学的な時間を要するとされている。しかし、今後、量子コンピューターが実用化されれば、現在のオンライン取引などの通信の安全性が損なわれるリスクが懸念されている。
QKDは、量子力学の原理を利用して、予測不可能な真正乱数を衛星側で生成する。それらの情報は、光子1粒1粒の持つ量子情報として地上局に送信される。
地上局で共有された情報を取捨選択し、最終的な鍵となる乱数配列を生成する「鍵蒸留」という工程が行われる。盗聴が発生した際は、量子論的の原理で検知でき、盗聴されたデータは鍵の材料として使用されない。その結果として、絶対に解読不可能な鍵を生成することが可能だ。
現在、世界各国はQKDの研究開発に取り組んでいる。中国は2017年に衛星実証実験に成功するなど、急ピッチで技術開発を進めており、量子暗号通信衛星を2025年にも打ち上げる予定。日本でも、情報通信研究機構(NICT)などが衛星を使った量子暗号通信の実用化に期待が持てる実証実験に成功した。