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大西卓哉宇宙飛行士「ISS滞在はこれが最後」–2度目の宇宙ミッションへの思いを語る
2024.11.28 08:00
宇宙航空研究開発機構(JAXA)に所属する宇宙飛行士の大西卓哉氏は、早ければ2025年2月にも国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在を始める。JAXAが11月27日に開いた記者会見に大西氏が登壇し、意気込みなどを語った。
ISSでの長期滞在は2016年以来の2回目。高校野球が好きという大西氏は、高校野球に例えて「1回目は春夏を通じて初めて甲子園に出場した感じ。地に足が付いていない状態」と説明。2回目の今回は「次に何が待っているのかが分かっている。どう立ち振る舞えればいいのかが分かっている」と解説。1回目と2回目では大きな違いがあるという。
ISS滞在は「これが最後になる」–前回との違いは?
宇宙開発の現状について同氏は「過渡期にある」と言及。これまでは米航空宇宙局(NASA)やJAXAのような各国の宇宙機関が宇宙開発を主導していた。しかし、今後は、ISSの後継である民間企業が開発、所有、運営する民間宇宙ステーションを中心に地球低軌道は民間企業が担い、NASAやJAXAなどの政府機関による宇宙開発は月や火星に軸足を移すことになる。
そのため、ISSは2030年頃に退役予定となっている。大西氏はISSでの長期滞在について「今回が最後になるのでは」との考えを明かし、宇宙飛行士としての活動の「集大成にしたい」という思いも明かした。
前回の長期滞在は2016年、今回の長期滞在は9年ぶりとなる。ISSの違いとして「IT周りの進化が凄まじい。タブレットですぐにスケジュールを確認するなどタブレットを肌身離さず使っている」と解説した。
今回と前回の大きな違いとして、自身が日本実験棟「きぼう」でのフライトディレクターを経験したことも挙げた。
フライトディレクターは、さまざまなタスクを進める宇宙飛行士に直接指示する役目。さまざまな実験はもちろんのこと、きぼう内部に設置された機材の確認、地上と交信しながら進めるイベントなども宇宙飛行士はこなす。フライトディレクターはこうしたさまざまなタスクで宇宙飛行士に指示を出す。
宇宙と地上の橋渡し役とも言えるフライトディレクターを大西氏は2020年1月から務めており、きぼうでの運用管制業務に従事している。
大西氏は宇宙飛行士の時に「地上での動きを想像できなかった」と前回を振り返る。「このタスクは簡単だろうなぁと思っていたタスクも手間取ったことがある。地上と宇宙、両者の息があっていなかったためにそうなった。逆に、このタスクは大変だろうと思っていても、両者の息があっていたことでスムーズにいった」という経験を明らかにした。
ソユーズとクルードラゴンは「個性が違う」
前回は、ロシアの宇宙船「Soyuz」でISSに乗り込んだ。今回は、Space Exploration Technologies(SpaceX)の宇宙船「Crew Dragon」でISSに乗り込む。大西氏はSoyuzとCrew Dragonについて「個性が全然違う」と説明した。
「Soyuzは手動で動かすことができる。Crew Dragonは地上からの指令で全自動で飛行する。(オートマ車よりも)マニュアル車の方が好きという好みの違いがある。個性が全然違う」
前回の長期滞在では船外活動(ExtraVehicular Activity:EVA)を経験していない。それだけに「EVAはやってみたい」との思いも明かした。
しかし、EVAは、NASAやJAXAなどISS計画に参加する、さまざまな宇宙機関による「国際調整が必要となる。EVAは(時間も含めて)大きなリソースを取るため」という。実際にEVAが必要となったとしても、大西氏が担当するかどうかは「また別の話」になる。それでも大西氏は「EVAをする資格はある。自信もある」との意欲を見せた。
「きぼう」での宇宙実験に意欲
今回の長期滞在中に、きぼうでは主だったミッションだけでも10用意されている。そのうちの一つが「静電浮遊炉」と呼ばれる装置を使ったものだ。
静電浮遊炉(Electrostatic Levitation Furnace:ELF)は、ISSの微小重力環境を生かして、試料を浮かせて固定、レーザーで加熱できる装置。ELFを使って、地上では浮遊できない、2000度以上という超高融点の物質の密度や表面張力などの熱物性を計測するとともに、過冷凝固した物質を探索するのがミッションだ。
ELFでは、これまでに2500度以上の高温液体の物性測定に成功し、従来の定説を覆す液体の構造を発見したという。ELFの活用では、国内の研究機関や企業と連携して、材料科学や地球科学、宇宙工学などさまざまな分野の実験プロジェクトが進行中だ。
今回の長期滞在中にELFを使った実験はさまざま予定されている。大学時代に「材料系を研究していた」というだけあって、大西氏はELFを使った実験には「思い入れがある」と説明する。
ELFを使った実験のように、きぼうでは、国内の研究機関や企業からの要請を受けて進められるものもある。ELFのように微小重力から派生するさまざまな物理状況から生まれる知見を獲得できる可能性は大きい。
「宇宙やきぼうでの実験や試験というとハードルが高いように感じるかもしれない。しかし、微小重力環境のほかに宇宙空間に材料を曝露する装置もあるなどユニークな環境がきぼうにはある。宇宙での実験のハードルを下げたい。企業からのアイデアを出してほしい」
きぼうでの実験や試験は大西氏に託されることになる。今回の来日中に大西氏は、きぼうで予定されている実験や試験の研究責任者(Principal Investigator:PI)に会う機会があった。PIの「熱い思いを語ってくれた」ことでISSに搭乗するまでの「残り3カ月でスキルをブラッシュアップしていきたい」という思いも明らかにしている。
大西氏は、ISSでの2回目の長期滞在が決まった2023年11月にSNS投稿に「期待してください」との意気込みを見せた。SNS投稿について大西氏は「宇宙や科学に興味を持ってもらえるようにわかりやすく子どもたちに向けて情報を発信していきたい」との考えを示している。
大西氏は、最速で2025年2月にSpaceXの宇宙飛行士輸送ミッション「Crew-10」としてCrew DragonでISSに乗り込む。そこから半年間ISSに滞在する予定。