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北九州で初開催「九州宇宙ビジネスキャラバン2024」レポート–若田光一飛行士や堀江貴文氏も登壇
2024.08.26 14:30
九州7県を巻き込んで、宇宙産業の振興を目的とした議論や交流をするカンファレンス「九州宇宙ビジネスキャラバン2024」が、8月22日に開催された。2023年11月に開かれた第1回は福岡市だったが、第2回は北九州市での開催となった。さまざまなキーノートやパネルディスカッションが実施されたほか、各社の展示ブースなどが設けられた。また第1回の山崎直子氏に続き、第2回は宇宙飛行士の若田光一氏が会場に駆けつけた。
北九州が宇宙産業を牽引できる「3つの要素」
冒頭では、北九州市長の武内和久氏が挨拶。2018年に閉園した現地の宇宙テーマパーク「スペースワールド」を例に挙げつつ「北九州は“リアルスペースワールド”を目指す」と宣言。続けて、北九州が宇宙産業を牽引できると考える以下の3つの要素を紹介した。
(1)日本製鉄を始めとするものづくり企業やIT企業、スタートアップなど「産業の集積地」であること
(2)大学として運用する小型・超小型衛星数が7年連続で世界1位の九州工業大学があり、理工系14校で3000人近くを毎年輩出する「研究機関と人材に強い」こと
(3)銀河鉄道999などで知られる漫画家・松本零士氏が子ども時代を過ごした地であるほか、日本最大級のプラネタリウムなどもある「宇宙好きの市民カルチャー」
今後のロードマップとして、(1)スタートアップや人材創出の拠点化、(2)機器の開発製造の拠点化、(3)産業・文化拠点都市化、というステップを踏みながら、2030年代には北九州における宇宙関連ビジネスを1000億円規模まで伸ばしたいと意気込む。実現に向けた産業基盤を作るため、現在は会員組織「北九州宇宙ビジネスネットワーク」で勉強会やマッチングの場を設けたり、技術開発補助金を提供したりして、宇宙企業の事業成長や新規参入を支援していると語った。
堀江氏が語った「サプライチェーンを完結」させる重要性
キーノートでは、民間ロケット開発ベンチャーのインターステラテクノロジズ創業者である堀江貴文氏が登壇。日本の鉄鋼業の発展をリードした北九州の八幡製鉄所に触れつつ、「鉄を作れる国じゃないとロケットは作れない」と強調した。
堀江氏は、ロケットエンジンをロシアから買い付けようと考えたものの実現に至らず、自社生産に切り替えた自身のエピソードなども交えながら、宇宙機器に必要な部品の海外調達は容易ではないと説明。いかに国内でサプライチェーンを完結させるかが、日本の宇宙産業の発展には欠かせないと訴えた。
また、日本ではこれまで、JAXAの基幹ロケットなどいわゆる“F1マシーン”向けの高性能な部品を少量生産してきたことから、米国などと比べてサプライチェーンが貧弱であり、国内の部品メーカーも儲かっていないと指摘。もし将来、インターステラテクノロジズが手がけるような民間ロケットが高頻度に量産されるようになれば、国内部品メーカーのビジネスも成り立つようになると思いを語った。
「衛星データ活用」や「宇宙人材課題」などを議論
宇宙産業の最前線で活動しているキーパーソンらによる、さまざまなパネルディスカッションも設けられた。たとえば、衛星データ活用のセッションでは、これまで航空機を使って更新していた「都市計画基本図(地形図)」や、道路のひび割れの検出などに、衛星データが活用されるようになった事例が紹介された。
一方で、年間100ペタバイト近い衛星データが取得されているものの、専門性が必要で扱いにくいほか、データが必要なタイミングを把握しづらいといった問題があると登壇者らは指摘。その解決策として、複数の衛星データを同じ指標で使えるキャリブレーション技術や、専門的な知識がなくても文字情報で要点を伝える工夫などが挙げられ、すでにPoC(概念実証)に進んでいるものもあるとした。
人材課題のパネルディスカッションでは、日本に限らず世界的に足りないと言われる宇宙人材について議論した。まず、業界全体の課題として、そもそも宇宙を“遠い存在”と感じている人が多く、宇宙業界に進むことに漠然とした不安を持っている人が多いという。また宇宙企業は、都市部に集中するIT企業などと違い、開発拠点も兼ね備えた地域にあることから、転職と移住がセットになっていることも一定の障壁になっているという。
この敷居を下げるにはどうすればいいのか。登壇者たちからは、まず「副業」としてお試しで関わってみる、自治体などと連携して広く情報を届ける、衣食住領域でも宇宙に関われることを知ってもらうことが大事、といった意見があがった。
また、宇宙人材の育成についても課題がある。この点については、日本全体として技術力を高められるような組織・学校を作り、政府や企業も出資するような枠組みが必要ではないかという意見が出た。ただし、特定の地域に作ると結局は地域間の“競走”に陥ってしまうため、全国を束ねる大規模な組織を作り、各地に分校を設けることで“共創”につなげられるのではないかと登壇者らは語った。
宇宙機器開発・製造への参入をテーマにしたセッションでは、北九州に本社をおく黒崎播磨らが登壇。黒崎播磨は、1919年創業の耐火物やファインセラミックス製造を得意とする企業で、超低熱膨張素材「NEXCERA」を使った光学衛星用反射鏡の実用化を目指しているという。ものづくり企業の宇宙開発における苦労として、「(実際に宇宙空間に持っていく)宇宙実証のハードルが高いためビジネス化が大変」だと明かした。
ポストISSを目指す若田光一氏–北九州が新型宇宙服を使う日も?
カンファレンスのトリを飾ったのが、32年間勤めたJAXAを2024年3月に退職し、4月に米宇宙企業のAxiom Spaceに転職した宇宙飛行士の若田光一氏。同社では現在、(1)世界初の民間宇宙ステーション「アクシオム・ステーション」の開発、(2)ISSへの商業宇宙飛行ミッション「Axiom Mission」、(3)NASAの次世代宇宙服の開発、という大きく3つのプロジェクトを進めている。宇宙服はNASA以外のパートナーにも提供する予定で「北九州の企業がわれわれの宇宙服を使って技術試験をすることもできる」(若田氏)という。
現在は、3つのプロジェクトそれぞれに宇宙飛行士としての知見を生かしているそうで、「先日も米ヒューストンで新しい宇宙服のフィットチェックをしてきた」という。また、アジア太平洋地域CTOとして、日本をはじめ各国の宇宙企業ともコミュニケーションしていると話した。
「民間主導の地球低軌道での活動は、経済活動の場にしていくということ。それを推進することで、国家主導による月探査や火星探査を含めた有人飛行活動全体に寄与できると思っている。九州宇宙ビジネスキャラバン2024の参加者の中から、Axiom Spaceのアセットを活用して、ビジネスを展開してくれる方が出てくれば嬉しい」(若田氏)