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「はやぶさ2」のプロジェクトリーダーも登場–科学者と法学者が語るこれからの宇宙開発
2021.10.27 09:30
民間や新興国の参入で宇宙を目指した競争が加速するなか、2度にわたる「はやぶさ」プロジェクトの快挙を成し遂げた日本は、小惑星探査領域で世界をリードする存在となった。一方、世界では米国、中国、ロシアなどが月や火星への探査計画を進めて宇宙開発競争は過熱している状態で、まさに今我々地球人は、宇宙探査にあたっての倫理の問題に向き合い、解決していくべき時期を迎えている。
10月17日から5日間にわたって開催された朝日地球会議2021の初日に、はやぶさ2プロジェクト プロジェクトマネージャである宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所教授の津田雄一氏と、慶應義塾大学大学院法務研究科 教授の青木節子氏が登壇し、科学者と法学者の視点から、宇宙探査の未来とともに宇宙探査に潜む社会的かつ国際的な問題について語った。これから我々が目指す宇宙には、どのような未来が待ち受けているのか。
日本の宇宙探査の象徴となった小惑星探査機プロジェクトの第2弾「はやぶさ2」では、2014年に打ち上げを実施し、小惑星「リュウグウ」に無事着陸。ロボットの降下などのミッションを全て成功させ、2020年にリュウグウの星のかけらをたくさん持ち帰ってきた。そこでの成果は来年3月までに発表される予定であるが、はやぶさ2は、地球にカプセルを投下した後再度深宇宙空間に旅立ち、今も2つの惑星に向かって飛行を続けているという。
ただし、あくまで本来のミッションの余力で飛行している状況なので多くは望めず、着陸さえしてくれればいいという状況であるとのこと。それでも、特に2031年到着予定である2つめの「惑星1998KY26」は、直径が40メートルで高速自転しているという興味深い存在で、「そんなタイプの小惑星に人類は行ったことがない。そこで撮影したり、はやぶさの観測機器を使って調査するだけでさまざまな科学的知見が得られると期待している」と津田氏は語る。
そのほかJAXAでは、水星や彗星、火星探査などを計画し、「SLIMプロジェクト」という月への着陸ミッションなども予定しているという。津田氏個人としては、木星や土星、天王星の水が存在する衛生などの探査を期待している、とのことである。
気になる宇宙探索における国際法の整備状況
日本だけでもこれだけの宇宙探査が計画されているが、世界の宇宙大国と呼ばれる国々ではそれ以上の計画を実施しており、多くの国が先を走っている状況である。そこで深宇宙探査の実施にあたり気になるのが、国境も何もない宇宙において、どのような国際法的な整備がなされているのか、ということである。
日本の宇宙政策のかじ取り役である宇宙政策委員会委員であり、国際法に精通する青木氏によると、国連で1967年に発効された「宇宙条約」という宇宙の憲法と呼ばれているものが存在しているという。宇宙条約には、どの国も宇宙の探査利用は自由だが、すべての国の利益になるようにおこなわなければならず、空間も天体も宇宙を領有してはならない、と明記されているとのこと。ただしこれからの宇宙開発の過熱にあたり、2つの問題が浮かび上がっていると青木氏は指摘する。
1つ目は、国家ではなく、私人の土地所有は可能かという問題。これは、明らかに禁止されているという。2つ目は、土地ではなく資源の所有は可能かという問題で、こちらは「資源については規定を置いていない。自由に採取して所有できるかは未解決」(青木氏)とのことである。
月探査の加速でルール整備が急がれる“資源問題”
そのような状況下で直近の問題となっているのが、月探査を実施するにあたってのルール作りである。米国や中国、日本などが有人、無人問わずに月への着陸を目指しており、NASAでは日本も参加する国際宇宙探査(アルテミス計画)も実施。民間企業の参入も相次いでいる。各国がこぞって月を目指すには、距離の側面以外にもいくつかの理由がある。特に大きいのが資源、具体的には水であるという。
「月には永久凍土の形で水が大量に、かつ取り出しやすい形で存在しているといわれる。水は酸素と水素に分解すればロケットの燃料になるし、月面に基地を作ったり、人が生きていくための基盤となる。また往来の際やその先の深宇宙に旅立つ際、ロケットの燃料を現地調達できるメリットもある」(津田氏)
宇宙資源としては、小惑星にもレアメタルという別の資源の存在が見込まれている。地球での資源としての利用は、輸送コストなどを踏まえると現状では難しいが、科学的には「取りに行く価値はある」(津田氏)という。その際に月を経由することで小惑星探査、さらにはその先の深宇宙探査もしやすくなる。足場作りという意味でも月探査というミッションが重要になるのである。
そういった競争状態にある中で、月の資源、水や鉱物などを自由に採ったり採掘したりしていいのかという疑問が生じる。それについては宇宙条約では未解決の中、新たな動きがあるようである。まず2020年10月に米国、日本など8カ国で、宇宙探査や宇宙利用に関する基本原則を定めた「アルテミス合意」がなされ、「合意の中に、月の探査をある程度の期間おこなう際には月の資源を利用せざるを得ないため、それを国際法に基づいて使っていこうという条文が入っている」(青木氏)とのことである。
アルテミス合意のほかにも、国連や他の機関において、資源の採取・利用に関して全ての国の利益になる宇宙活動を実現するためのルール作りが始まり、「良い形で国際協調が始まっている」(青木氏)状況であるという。
アルテミス合意には、現在運用中の国際宇宙ステーションには参加していない国が多数参加している。「宇宙の勢力地図は急速に変わっている。アラブ首長国連邦(UAE)をはじめ、中東諸国は豊富な資金で宇宙ビジネスによって国を富ませていく戦略を取っている。衛星をたくさん保有しているルクセンブルクは、国際協調の中でビジネスのために参加している。ウクライナは、中国やロシアに対抗するために参加している」と青木氏は語る。