ニュース

「はやぶさ2」のプロジェクトリーダーも登場–科学者と法学者が語るこれからの宇宙開発

2021.10.27 09:30

CNET Japan

facebook X(旧Twitter) line
1 2

宇宙資源法を4カ国が制定するも中国は独自路線

 国際的な合意が模索される中、各国で民間企業に宇宙資源の所有権を認める法律「宇宙資源法」も生まれている。米国、ルクセンブルク、UAEに続き、日本でも今年6月に成立したところである。これにより、民間企業が月の資源を採取し、売り買いすることが可能になっている。

 この法律が制定された理由としては、まず資金を投入した後に所有権がないとなると、安心して民間が参入できないからというもの。もう1つは、宇宙資源を使っていくときには、さまざまな国際法を守って行っていく必要があるため、その際に国が怪しい企業でないことを判断し、許可を与えその後の活動を監督するというもの。主に米国は前者、日本は後者を理由にしているという。

 しかし、わずか4カ国内で認められた法律が、国際的に認められるものなのだろうか。これに関して青木氏は、原則国際法に従って探査・採取などをおこなうため、国際的な合意の許可や監督の条件はこれから作っていく必要があるとした上で、「人類が宇宙開発をおこなう際に宇宙の資源を使わないのは合理的ではない。とはいえ、早いもの、強いもの勝ちでもいけない。より良い落としどころを作っていくための過程にある」との見解を示す。

 そこで気になるのが、他の大国の動向である。青木氏によると、ロシアは宇宙資源法に当初否定的だったが、現在は軟化してきているとのこと。片や中国は、あまり自国の見解を国際的な場では言わず、宇宙資源を利用する意思と能力があって、独自に進んでいこうとしているとの見方である。

科学探査では人間の英知のために“紳士協定”

 一方、従来からおこなわれている科学探査に、資源争いはあるのか。津田氏は、「ミッション自体は競争がある。採ってきたリュウグウの砂は暗黙の了解で我々に所有権があるものの、サンプルの知見やサンプルそのものは世界中に配っていく。人間の英知のためにフェアにやっている」と話す。

 ここで津田氏は青木氏に対し、これまでの宇宙開発では先に技術ができて探査が行われ、後追いでルールが作られてきたのに、昨今のアルテミス合意などでは先に活発に仕組み作りがなされていると疑問を投げかける。

 青木氏は、宇宙が経済的利益に向けた活動の場として成熟してきたからとの見解を示す。「各国の地上での競争や国際政治的な関係が宇宙に持ち込まれてきた。そういう意味では、宇宙が人間の活動の場になったといえるのでは」と述べた。

 一方津田氏は、「小惑星探査は早晩、ほかの国もできるようになる。すると魅力的な天体を調査したいとなる。そうなると、科学探査領域でも紳士協定だけではうまくいかなくなるのかもしれない」と懸念を示した。

 科学探査は、その天体に害を与えないか、環境を改変しないか各国と合意形成をしてから実施しているという。また逆に、生命活動のある物体を持ち帰ってもいけない。その際に小惑星探査だと影響がないが、今後火星やエウロパのような生命の痕跡がありそうな星に行く場合は、注意しなければならなくなるとのこと。

 例えば火星探査をするためには探査機の滅菌処理が必要であり、日本にはそのような施設がないので火星探査はできない状況だという。津田氏は、「これからは、資源探査と並んで生命探査がキーワードになる。すると滅菌処理、探査機もワンランク上の技術を開発しなければならない」と説明。それが理由で、日本の宇宙開発ではまだ生命探査は具体的なミッションになっていないとのことである。

ニッチを攻めて本筋への近道を狙う日本の戦略

 最後に、日本の深宇宙探査の課題について。今年2月に、NASA、中国、UAEの3基の探査機が火星に到着した。欧州でも同様の計画を進めているが、日本は目指していないという。その背景にあるのが、予算の問題である。

 「日本では、宇宙開発に費やす予算が少ないなか、科学的に一級なものを目指さないと世界的に認められない。すると必然的にニッチを狙うという戦略になる。全ての分野で1位を取れる体力はないが、要素技術としては高いものを持っている」と、津田氏は日本の現状を表現する。

 そしてそれがうまくいったのが、小惑星探査である。これにより日本は、惑星間往復飛行を世界で初めて実現できた国となった。先ほど火星探査はできないと説明したが、これと同じことをすれば、火星への着陸も見えてくる――、これが日本の戦略である。しかもその際は、他の国が考えてない火星の“衛星”を目指すというアプローチを採るのだという。

 「王道そのものを攻めるのは難しいが、道を切り拓いて造っていくことには貢献できる。火星も攻め方によってはやり方がある」(津田氏)

周回探査・着陸という大きな天体ではなかなか難しい技術をスキップして惑星間往復を実現した
周回探査・着陸という大きな天体ではなかなか難しい技術をスキップして惑星間往復を実現した

 日本の宇宙政策を支える委員として青木氏も、日本の宇宙探査は基礎的な科学技術力は高いが、財政的な制約が一番の問題だと同一の見解を示す。そしてもう1つ、今後の日本の宇宙戦略に必要な要素として、存在感を挙げる。

 「科学探査は日本にとって重要であることを常に念頭において、これまで一定以上の予算を置いておく必要がある。それをすることによって、探査のルールを作る側に立てる。今まで主要な活動国の中で、日本が唯一宇宙の平和利用を実現してきている。そういう日本が発言権を持って、ルールを提案する立場に立つため、今以上の存在感を放つための予算の配分が必要」(青木氏)

 そして、実際にこれまでさまざまな苦労を重ねてプロジェクトを進めてきた津田氏は、最後に次のように訴えた。

 「日本では、はやぶさ2クラスのプロジェクトは10年に1度しかできない。せっかくモチベーションが高く優秀な研究者が集まり、技術の粋を集めて完成させても、それを次に生かせるのが10年後だと世代交代が進んでしまう。2~3年で1回できれば宇宙開発はどんどん進むし、そこから学術や科学技術の種が生まれる。最先端技術と究極の基礎科学、両方うまく組み合わせながら進められるのが宇宙探査。そこをもっと盛り上げていきたい」(津田氏)

(この記事はCNET Japanからの転載です)

1 2

Related Articles