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宇宙線で生じる「空気シャワー」の可視化に成功–標高4200mのすばる望遠鏡活用
2023.10.16 15:38
国立天文台(NAOJ)と大阪公立大学、千葉工業大学などによる研究グループは、ハワイ観測所「すばる望遠鏡」で得た観測画像を解析し、宇宙線の影響で生じる「空気シャワー」を可視化することに成功した。
地球には、宇宙から高エネルギーの放射線(宇宙線)が絶えず降り注いでいる。宇宙線は地球の大気と相互作用し、大量の電子や陽電子、ミューオンなどの高エネルギー粒子群である空気シャワーとなって地表に到達する。
空気シャワーの粒子が天体望遠鏡の撮像素子を通過すると、その飛跡が画像に写り込む。天体観測の場合、こうした軌跡はノイズとなってしまうため、通常はデータ処理の過程で除去される。
研究グループは、すばる望遠鏡で撮影された約1万7000枚の画像を調べ、宇宙線の飛跡を解析した。その結果、13枚の画像に通常の飛跡数をはるかに上回る空気シャワーの粒子群が捉えられていたことを確認できた。これら空気シャワーは飛跡が同じ方向を向いていることから、非常にエネルギーの高い1つの宇宙線から生成された2次粒子群であると考えている。
空気シャワーは、広がってしまう前の高山でないと検出できない。また、検出器の厚みが十分でないと、長い軌跡が記録できない。すばる望遠鏡は標高4200mのハワイ島マウナケア山頂にあり、超広視野主焦点カメラ「Hyper Suprime-Cam(HSC)」の撮像素子は空乏層の厚い電荷結合素子(Charge Coupled Device:CCD)を採用していることから、空気シャワーの検出が可能だった。
HSCのCCDを使えば、従来の宇宙線検出器だと区別できなかった電子とミューオンを、飛跡の形状から個別に判断できる可能性があるという。
この新しい検出手法を発展させれば、粒子種の解明やダークマター探査への応用が考えられ、反物質がほとんど消え去った現在の「物質優勢」宇宙の解明につながる期待もあるとしている。
天体画像では補正対象である宇宙線だが、「今回のような長期間の観測データを解析することで、元々の観測目的ではなかった科学の領域まで有効な情報を引き出せる可能性を示すことができた」と説明。「高エネルギー粒子の観測手法についての知見はもちろん、一様な品質が保証されたデータアーカイブの重要性についての示唆も与える結果であった」と意義を解説している。