「GRAVITY Challenge JP」に見る、宇宙での事業開発に乗り出す大企業の本気度

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「GRAVITY Challenge JP」に見る、宇宙での事業開発に乗り出す大企業の本気度

2023.09.22 07:00

日沼諭史

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 世界中で進んでいる宇宙開発や宇宙データ利用。日本では、伝統的な大企業も宇宙への参入にいよいよ「本気」を見せ始めている。

 デロイト トーマツグループが2023年9月14日に開催した宇宙アクセラレーションプログラム「GRAVITY Challenge JP」の報告会では、京セラや日本郵船、三菱倉庫をはじめとする大企業と、スタートアップや研究組織などがタッグを組み、大企業が抱える課題や社会課題について、宇宙利用を通じて解決を目指す、さまざまな取り組みの開始を宣言した。ここでは、これから本格化するだろう、それら新たなプロジェクトの中身を紹介したい。

大企業の課題にスタートアップが挑む

 デロイト トーマツ グループが進めている「GRAVITY Challenge JP」は、デロイトネットワークの一員であるデロイトオーストラリアが、2019年からすでに計5回開催している「GRAVITY Challenge」の日本版という位置付け。

会場の舞台には地球が描かれていた
会場の舞台には地球が描かれていた

 2030年代には約2.4兆円規模になると目される宇宙産業の発展を見据え、日本でも宇宙を利用したサービス開発や社会課題解決の動きを活発化すべく、日本国内の事業者に限定した形で2023年初頭から参加を募ってきた。

 このアクセラレーションプログラムの特徴的な点は、大企業や政府機関などが解決したい課題を提示する「Challenger(チャレンジャー)」として、スタートアップのほかに大学を含む研究組織は、その課題の解決につながるソリューションを提案、開発する「Innovator(イノベーター)」として、それぞれ参加すること。最初に大企業の側から課題を募り、それを見たスタートアップなどが自分たちが所有する技術やノウハウを生かせそうな課題に応募するという流れだ。

報告会の冒頭、動画で挨拶したデロイト トーマツ グループ最高戦略責任者(CSIO) 前田善宏氏
報告会の冒頭、動画で挨拶したデロイト トーマツ グループ最高戦略責任者(CSIO) 前田善宏氏

 その後、デロイト トーマツは応募してきた大企業とスタートアップが対話できる場を設け、必要に応じて目的実現のための必須技術をもつ他の事業者を招き入れるなどデロイト トーマツのコンサルティングノウハウも活用しながらサポートしてきた。事業者同士が議論を繰り返し、最適なマッチングで協業できると互いに判断できれば、プロジェクト化し、その先の事業化に向けて進めていく、ということになる。

 こうして成立したプロジェクトのうちいくつかが、9月14日の報告会で発表された。チャレンジャー側のもつ課題の中身と、それに対してイノベーターがどのような技術で解決を目指していくのか、といった報告が中心で、いずれも本格的な開発や実証実験はこれからとなる。

 だが、アクセラレーションプログラムとしてはテーマを限定していないこともあり、多様な分野での興味深いアイデアが集まっていた。

「GRAVITY Challenge JP」を説明したデロイト トーマツ グループ最高経営責任者(CEO)の木村研一氏
「GRAVITY Challenge JP」を説明したデロイト トーマツ グループ最高経営責任者(CEO)の木村研一氏

京セラが筑波大学などと挑むブルーカーボン事業

 電子部品やIoT通信機器、センサーなど、多様な製品やサービスを展開している京セラの掲げる課題は、地球観測衛星のデータを利用して、二酸化炭素(CO2)を吸収、固定する海洋生態系、いわゆる「ブルーカーボン」の促進を図れないか、というもの。

京セラ 研究開発本部 田中勇氏
京セラ 研究開発本部 田中勇氏

 温暖化など環境変動の一因とされているCO2排出という社会課題に対し、海洋に生息する藻類を活用することで、CO2の吸収効率を最大化することを目的としている。

 そこにイノベーターとして協力するのが、「ブルーム」という藻類の大量発生に関連して研究している筑波大学教授の鈴木石根氏と、CO2の貯留濃度の高さに着目して微細藻類の培養に関する研究開発を進めているアルガルバイオ(千葉県柏市)。

 三者が協業することで、例えば、衛星データから洋上のブルームが発生しやすい箇所を特定し、そこに微細藻類の種苗をまいて大量に発生させ、光合成によってCO2を吸収させる。最後は藻類を回収し、カーボンクレジットと交換、あるいはバイオ燃料源として販売する、といったサイクルが考えられるとしている。

筑波大学とアルガルバイオが協力
筑波大学とアルガルバイオが協力

 京セラとしては、ブルームの発生しやすい(藻類にとっての栄養分が得られやすい)ポイントの特定や洋上分析に自社のセンサーや通信技術などを活用して、この仕組み全体をプラットフォームとして構築することを目指す。

 プラットフォーム利用料金のほか、衛星やセンサーを通じて得られた解析データの販売でビジネス化することを狙っており、2030年代までは沿岸付近での小規模生産を、2050年代以降は沖合にも広げて大規模に生産することを想定しているという。

沖合で微細藻類を大量生産し、CO2の吸収を効率化する
沖合で微細藻類を大量生産し、CO2の吸収を効率化する
カーボンクレジットとの交換や回収後の藻類をバイオ燃料として活用することを想定している
カーボンクレジットとの交換や回収後の藻類をバイオ燃料として活用することを想定している

日本郵船などは船舶の運航効率化に挑戦

 日本郵船は、人流データ解析や衛星の位置情報や画像解析などの技術をもつLocationMind(東京都千代田区)とのプロジェクトと、各種データプラットフォーム事業を展開するDATAFLUCT(東京都渋谷区)とのプロジェクトの2本立て。

 前者のLocationMindとは、日本郵船の主軸事業である海運での船舶運航を最適化し、燃料消費や環境負荷の低減を目指す取り組みとなる。

LocationMind 藤田智明氏
LocationMind 藤田智明氏

 大量の貨物を輸送するタンカーなどの運航には莫大な燃料が必要になることが知られている。しかし、そこには非効率なオペレーションにより余計に燃料を消費している、というような実態もある。

 LocationMindの藤田智明氏によれば、港湾や他船舶の事情によって運航調整が日常的に行われており、船舶が早くに目的地近くまで到達したものの、港湾側の都合などで入港まで数日待機することもあるという。

 船舶は減速して運航すれば、燃料消費を抑制できるとされており、急いで航行しても結果的に入港タイミングを調整することになるのであれば、もとから低速航行しながら向かった方が燃料コストや環境負荷の面でメリットが多い。

 そのためには測位衛星を活用して船舶の位置情報を把握するとともに地上施設とも連携し、きめ細かに運航を調整する必要がある。そのあたりは今後、実現可否も含めて検証する予定とのことだが、国際海運では温室効果ガス(GreenHouse Gas:GHG)の排出を2030年までに20~30%削減し、2050年までにゼロにすることを目標に掲げていることもあり、日本郵船に限らず海運業界全体としても注目度の高いプロジェクトになりそうだ。

環境負荷低減には船舶自体を更新することも考えられるが、高コストで時間もかかる
環境負荷低減には船舶自体を更新することも考えられるが、高コストで時間もかかる
洋上の線に見えるものは航行中の船舶、沖合で点になっているのは寄港できていない停泊中の船舶。このまま数日待機することもあるという
洋上の線に見えるものは航行中の船舶、沖合で点になっているのは寄港できていない停泊中の船舶。このまま数日待機することもあるという

 もう1つのDATAFLUCTとのプロジェクトは、衛星データを活用することで船舶の排ガス量を精密に計測することを目的としたもの。宇宙航空研究開発機構(JAXA)から誕生したベンチャー企業であるDATAFLUCTでは、データ可視化サービスの1つとして「TOWNEAR Carbon Neutral」を提供しており、ここでCO2排出量などのデータをグラフィカルに確認できるようになっている。

 日本郵船とのプロジェクトでは、それと同様に、衛星データなどを解析することで船舶によるGHGの実際の排出量を検出したり、排出量を予測したりできるかどうかを技術検証から始めるとしている。

衛星画像などから船舶の温室効果ガスの排出量を把握できないか検証中
衛星画像などから船舶の温室効果ガスの排出量を把握できないか検証中
衛星画像に重ねる形で排出量を視覚化する計画
衛星画像に重ねる形で排出量を視覚化する計画

宇宙用資材の運搬や管理に進出する三菱倉庫

 130年以上の歴史をもち、倉庫、港湾の運営、国際輸送、不動産などの事業を展開する三菱倉庫は、小型月面探査ロボット「YAOKI」を開発するベンチャー企業のダイモン(東京都大田区)とのプロジェクトと、小型衛星打ち上げ用のロケット開発を目指すAstroX(福島県南相馬市)とのプロジェクトの2つを発表した。

ダイモン 最高執行責任者(COO) 三宅創太氏
ダイモン 最高執行責任者(COO) 三宅創太氏

 宇宙開発でも資材を運搬、保管するための「物流」や「倉庫」が重要になると見る三菱倉庫では、YAOKIを活用して月面に倉庫を設置することを最終目的としたプロジェクトを進めている。

 すでにダイモンでは、米航空宇宙局(NASA)などが主導する月面探査ミッション「Artemis」計画でYAOKIを月面に送り込む予定になっており、その過程で必要になってくる物流と倉庫のノウハウを獲得し、プラットフォーム化することを狙いとしている。

ダイモンが開発するYAOKI
ダイモンが開発するYAOKI

 例えば、月面で使用する物資を日本で開発したとき、それを米国の発射場からロケットで打ち上げるには、遠距離を安全に保管、運搬することが必要になってくる。ロケットに搭載するときにも、強い衝撃などに耐えられる梱包の工夫も欠かせない。

 月面に到着した後、それがバッテリーで動作して地球に分析データを逐次送信するような機材だったとき、保管、充電するためには倉庫などの設備が整っていなければならない。

 こうした月面で活用できる物資を地上から運び、運用するのに求められるインフラを三菱倉庫とともに開発することを目指している。

AstroX 代表取締役 CEO 小田翔武氏
AstroX 代表取締役 CEO 小田翔武氏

 もう1つのAstroXとの協業も、宇宙港やロケット打ち上げに必要な資材の輸送や管理に関わるもの。

 AstroXは軌道上に衛星などを投入するための輸送用ロケットを開発しており、成層圏までバルーンでロケットを浮かべ、そこから発射して地球周回軌道に乗せるというユニークな打ち上げ方法を提案している。比較的低コストで、かつ地上に大規模な発射場を用意する必要がないため、打ち上げ場所の自由度が高く、しかも高頻度で打ち上げられる利点があるとしている。

AstroXは成層圏まではバルーンで運び、そこから発射する「Rockoon(ロックーン)」を提案している
AstroXは成層圏まではバルーンで運び、そこから発射する「Rockoon(ロックーン)」を提案している

 同社は福島県南相馬市と連携協定を締結し、宇宙港開発などのプロジェクトを進めている。ここでも資材の輸送や保管するための倉庫をどうするかなど物流面での課題が立ちはだかることから、三菱倉庫と共同で課題を抽出、解決を図っていくことを考えているようだ。

ラックとSolafuneは衛星データで防災・減災に挑む

 企業向けIT業界で情報セキュリティに強みがあるラックは地方自治体などとも連携し、街全体の安全を見守る「smart town事業構想」を推進している。

 そのなかで課題の1つになるのが、地域の災害対策。衛星データやセンサーによるデータを活用して、事前に災害発生を予測したり、災害発生後の復旧対策を立てやすくしたりすることで、よりスマートで安全な街づくりを目指すのが同社の目標だ。

ラックの目指す「smart town事業構想」
ラックの目指す「smart town事業構想」

 そこでタッグを組むのが、衛星データ解析プラットフォームをもつSolafune(東京都渋谷区、沖縄県沖縄市)。人工知能(AI)も組み合わせた衛星画像解析と、地上に設置したセンサーをもとに地形データを分析することで、豪雨などが予想される際に地滑りのような災害発生の予兆を検知し、さらに事前に現地で適切に対策できれば、防災や減災につなげられる可能性がある、としている。

Solafuneの衛星データ解析プラットフォーム
Solafuneの衛星データ解析プラットフォーム

 実際の災害発生前後のデータをサンプルに分析し、予兆検知の実現可能性についてはある程度、目処が立っており、現在は予兆検知した際のアラートを上げるためのシステム検討を進めている。今後は、合成開口レーダー(SAR)衛星を利用した地形変化の時系列解析、地上センサーの設置と実データの取得など、より具体的に開発、検証し、事業化の実現を目指すとのこと。

実際の災害発生前後のデータサンプルを分析し、実現可能性に目処
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予兆検知と事前対策で防災・減災につなげる
予兆検知と事前対策で防災・減災につなげる

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