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アストロスケール、デブリへの誘導に成功–宇宙で1700kmから160mに接近

2022.05.09 07:45

田中好伸(編集部)飯塚直

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 宇宙ゴミ(スペースデブリ)除去などを含む軌道上サービスに取り組むアストロスケールホールディングス(東京都墨田区)は5月4日、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」(End-of-Life Services by Astroscale – demonstration)による、模擬デブリ(クライアント)への誘導接近の実証に成功したと発表した。

 ELSA-dは、デブリ除去に係る一連の中核技術を実証する世界初の商業ミッション。軌道から安全にデブリを除去するための捕獲機構を備えた捕獲機(サービサー)と、デブリ化した衛星を模した模擬デブリで構成されている。

 2021年3月にカザフスタンのバイコヌール基地から高度550kmの軌道へ両衛星を固定した状態で打ち上げており、同年8月25日には試験捕獲の実証に成功。磁石を活用した捕獲機構、搭載センサー、カメラなどが正常に機能することを確認している。

 その後、自律捕獲の実証運用を2022年1月25日から開始。捕獲機から模擬デブリを分離後、捕獲機に搭載された「Low Power Radio(LPR)」センサーを駆使し、自律的な軌道維持アルゴリズムによって、模擬デブリから30mの距離を維持することに成功した。

 同機能の実証を7時間以上継続していたが、その後衛星に異常を検出。ミッションの安全のため、異常を解決するまで捕獲の延期を決定。その後、いくつかの問題を調査できるように、捕獲機と模擬デブリの間に約1700kmという距離を確保していた。

 異常については、捕獲機に搭載する8つの推進装置(スラスター)の内、4つのスラスターで機能喪失が判明。3つの機能喪失については、システム由来によるものと判明したが、残りの1つについては根本原因の究明には至っておらず、当該部品のサプライヤーであるECAPS(Bradfordグループ企業)と連携して現在も調査を続けているという。

 同社では、捕獲機による模擬デブリの誘導接近に備えるため、複数回にわたって軌道制御(マヌーバ)を実施。4月7日には、残存するスラスターを駆使し、捕獲機を誘導接近させ、模擬デブリから160mの距離で探索。無事模擬デブリを検出したことから、GPSと地上からの観測値を用いる「絶対航法」から、捕獲機に搭載されたセンサーを駆使する「相対航法」へと切り替えた。

 運用の完了後に捕獲機を再度模擬デブリから遠ざけており、数カ月間はこのまま安定した距離を保つという。この間、ELSA-dチームは、模擬デブリの安全な再捕獲の可能性を含め、ミッションの次の段階について分析する予定。

1月25日の実証中に捕獲機から撮影した模擬デブリの様子
1月25日の実証中に捕獲機から撮影した模擬デブリの様子

 自律捕獲の実証の完了には至っていないが、自律制御機能と航法誘導制御アルゴリズム、航法センサー群を駆使した閉ループ制御、スラスターによる自律的な接近軌道制御、姿勢制御など、デブリ除去のための中核技術を実証できたと同社はしている。

 今回実証できた技術は、衛星の接近運用(ランデブー、Rendezvous and Proximity Operations:RPO)技術はデブリ除去をはじめとする軌道上サービスに必要不可欠なものになる。

 今回は、GPSと地上観測を活用する絶対航法で捕獲機を誘導して、摸擬デブリからの距離を1700kmから160mに縮めたことに加えて、絶対航法から相対航法に切り替えたこと、1年以上にわたる軌道上でのミッション運用経験、ドッキングプレートと磁石を用いた捕獲機構なども実証した。

 これにより、衛星運用終了時のデブリ化防止策としての「EOL(End-of-Life)」サービスの実現に必要な、多くの中核技術や運用機能の実現性を証明できたとしている。

 ELSA-dプロジェクトマネージャーである飯塚清太氏は「通信していない、捕まえる側と捕まえられる側が誘導接近できたことは民間では前例のない」ことと今回の意義を解説する。

 例えば、国際宇宙ステーション(ISS)に人間や物資を運ぶCrew Dragonは、互いに通信しながら距離を測って位置を修正しつつドッキングしている。今回の捕獲機と摸擬デブリは、通信せずに距離を縮めている。

 デブリは、運用が終了した、あるいは故障してしまった衛星(その部品)であり、地上から制御できない「非制御物体」であるため、通信できない。通信できない、つまりは、どこにあるのか分からない物体に1700kmから160mまで距離を縮められたということは、軌道上サービスを展開する同社にとって今後欠かすことができない、中核技術と表現するのは決して大げさではない。

 1700kmから160mに近づいたという事実は業界を驚かせているという。飯塚氏の知り合いのエンジニアは「予想を何倍も超えた。5~6回やってもうまく行かないと思っていた」と驚いているという。

 同社では、ELSA-dでの知見を、役目を終えた複数の衛星を除去する衛星「ELSA-M」(End-of-Life Services by Astroscale – Multi client)の設計と開発に生かすと説明。また、英国宇宙庁(UKSA)や欧州宇宙機関(ESA)を主要パートナーとして、軌道上実証を予定しており、そのための技術開発と計画を進めている。ELSA-Mのミッションでは、OneWebなどの衛星コンステレーション運用者保有の複数機の衛星について、捕獲する機能検証を実施する予定。

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