宇宙インフラも増加--急激な商業化で見込まれる地産地消型「宇宙経済」の未来

解説

インフラが増加–急激な商業化で見えてくる地産地消型「宇宙経済」という未来

2023.08.09 08:00

IEEE翻訳:佐藤信彦

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 細かいことを抜きに説明すれば、インフラとは社会を動かすために使う一連の道具、と言える。インフラを構成する道具の種類が増えるにつれ、地球の外で動くものも増えてきた。宇宙で運用される、この種のインフラのおかげで、通信や環境観測の性能が向上し、ナビゲーションに頼って移動できるようになった。

 人類が宇宙へ進出してから、まだ日は浅い。しかし、ここ最近の宇宙インフラに対する取り組みはとても積極的で、測位や通信、気象監視、災害監視などあらゆるものが対象だ。

そもそも何機の衛星が飛んでいるの?

 国際連合(国連)宇宙局(United Nations Office for Outer Space Affairs:UNOOSA)によると、2021年の1年間だけで1674個の物体が打ち上げられたそうだ。この数字は、地球の周回軌道に乗らなかったものを勘定に入れていない。

各年の平均打ち上げ物体数(出典:UNOOSA)
各年の平均打ち上げ物体数(出典:UNOOSA)

 打ち上げられる物体の数は、間違いなく急増してきている。2000年から2009年にかけては年平均98個、という国連のデータがある。2010年から2019年は2倍以上に増え、年平均243個になった。その後も急増は続き、直近の2年間だと、2020年は1273個、2021年は1800個以上という具合だ。

急激に進む商業化

 世界経済フォーラムの調査では、現在運用されている米国と関係する衛星の54%以上が民間用途だという。

 「宇宙分野が商業化したことで、宇宙に関する活動の成長カーブが変化しました。長い間、国家のものだった宇宙に、商用宇宙旅行サービスや衛星コンステレーション、宇宙ステーションの建設、月や火星を目指す計画を手がける民間企業が進出しています。これほど急に変化すると予想した人は多くありません。打ち上げ施設建設に対する民間投資の意欲は強く、人類の宇宙活動能力を高め続けるでしょう。同時に、宇宙をどのように管理していくか、きちんと検討する必要が生じます」(米国電気電子学会=IEEE上級会員のPaul Kostek氏)

 数万機の衛星をインターネット接続や観測、通信サービスといった目的で地球低軌道(LEO)へ投入しようとしている民間企業が、複数存在する。そのため、各国政府間の協調を強化していかなければならない。さらに、現在唯一の宇宙利用に関する国際的な合意事項である、国連宇宙条約の改正も必要だ。

 「人工衛星は、衛星同士で衝突しないよう監視しなければなりません。最近も、ある国が組み立てている宇宙ステーションに衛星コンステレーションの衛星2機が接近したせいで、衝突回避行動を強いられました」(Kostek氏)

 宇宙を利用したサービスで最も知られているのは、スマートフォンで居場所を確認したりナビゲーションしたりするための全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)だろう。

 主要なGNSSは5種類あり、米国が「Global Positioning System(GPS)」、中国が「北斗(BeiDou)」、ロシアが「Global Navigation Satellite System(GLONASS)」、欧州連合(EU)が「Galileo」を運用している(編集部注:日本には準天頂衛星システム=Quasi-Zenith Satellite System:QZSSみちびき」がある)。

 この中ではGPSの規模が最大で、運用開始は30年ほど前だ。いずれのシステムも、衛星に加え、宇宙や地上のシステムを多数組み合わせて精度を高めている。

 つまり、GNSSにとても依存して生活しているが、それは宇宙インフラのほんの一部にすぎない。

新たに登場する宇宙関連の製品やサービス

 GNSS以外の技術も登場してきた。

 世界各地の企業が、インターネット接続サービスや5Gなどの通信サービスを提供する衛星コンステレーションを構築しようと、しのぎを削っている。

 衛星の運用には、莫大な経費がかかるものだった。それが、衛星製造に3Dプリンターを使うという地上での工夫により、コストを数分の1に下げられた。宇宙での工夫には、新たな通信用コンステレーションを構築する際に、各衛星を軌道上のしかるべき位置へ動かすために使う、新型の自動化「宇宙タグボート」がある。

 「今まで商業宇宙活動による収益のほとんどは、宇宙で作られ地球で利用される製品やサービスから得られていました。そのようなものには、衛星通信やインターネットインフラ、ジオリファレンスサービス、衛星打ち上げサービスがあります。ただし、数年後には、製品やサービスを地球外で地産地消する新しい宇宙経済が開花しそうです。たとえば、宇宙旅行、月での採鉱、新素材の開発、長期居住施設の建設、各種支援サービス、無重量環境で使うための消耗品が考えられます」(IEEE終身上級会員のRaul Colcher氏)

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