地球の外はゴミだらけ--時速5万kmで飛び回る「宇宙ゴミ」はなぜ深刻なのか?

解説

時速数万kmで飛び回る–ますます増え続ける「宇宙ゴミ」問題はなぜ深刻なのか?

2023.07.31 08:00

IEEE翻訳:佐藤信彦

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 宇宙は広大だが、以前より混み合うようになってきた。地球を周回する衛星の管理も難しさが増し、懸念されている。さらに、宇宙ゴミ(スペースデブリ)も悩みの種だ。なにせ宇宙ゴミは、弾丸よりずっと速い速度で地球を回っているのだから。

 10年前には1200機ほどだった地球周回軌道上の衛星は、今や7000機を下らない。それどころか、複数の通信衛星によるコンステレーション、つまりネットワーク化した通信衛星群を自前で構築する計画の民間企業が複数あるため、数千機単位で増える見通しだ。

 Deloitteは、今ある衛星コンステレーション計画がすべて完了したら、2030年には最大10個のネットワークが運用されることになり、それに含まれる衛星の総数は4万機から5万機になる、と見積もった(編集部注:「メガコンステレーション」とも言われる)。

 宇宙にあるのは、運用中の衛星だけでない。退役した衛星や使い終えたロケットの機体が、数千個は存在する。さらに、数百万個もの破片が地球の周囲を回っている。

 こうした破片は、衛星の分解や衛星同士の衝突で生じたもので、宇宙が混雑するほど衝突は起こりやすくなってしまう。宇宙ゴミとの衝突が予想されるとして、ロケットの打ち上げが中断されたり延期されたりした例も出てきている。

 「今後の宇宙での活動を安全にするため、宇宙ゴミの除去は重要な問題です」(米国電気電子学会=IEEE上級会員のFernando Buarque de Lima Neto氏)

 宇宙ゴミは秒速9マイル(およそ秒速14.5km、時速5万2200km)以上という弾丸の約10倍もの速度で飛んでいるので、小さな破片でも衝突すると衝撃は極めて大きい。欧州宇宙機関(ESA)によると、4インチ(約10cm)より大きな破片は3万6000個以上あり、もっと小さなものは数千万個に上るという。きちんと追跡されている宇宙ゴミもあるが、それはほんの一部だ。

 現在、宇宙ゴミの除去を目的とする重要な研究が、世界中で行われている。最新のアイデアをいくつか紹介しよう。

宇宙タグ:注目の新たな対策は、港で大型船を移動させるタグボートならぬ、宇宙タグだ。宇宙タグを使うと、衛星をある軌道から別の軌道へ移動させたり、燃料切れで機能停止しそうな衛星に燃料を補充して寿命を延ばしたりできる。宇宙タグは、宇宙ゴミを引っ張って地球の大気圏へうまく再突入させ、焼却処分することにも使える。

レーザー:大きさが1cmから10cmの宇宙ゴミは、数え切れないほど多い。そうしたゴミ同士が衝突したり、ゴミがより大きな物体とぶつかったりすると、新たに大量のゴミが宇宙にばらまかれる。この問題への対策として、レーザー利用を提唱する研究者たちがいる。ただし、レーザーで宇宙ゴミを直接始末するのではなく、ちょっと突っついて衝突するコースから外すために照射するのだ。

リサイクル:何かを宇宙へ送るには、とてもお金がかかる。将来、人間が月基地のような宇宙で長期間生活する場合、さまざまな原材料が必要だ。

 「軌道上の宇宙ゴミを製品の形へ再利用しようと、検討を始めたスタートアップがいくつかあります。恒久的な月基地で人間が暮らすという想定から、さらなる応用も考えられます」(IEEEフェローのPanagiotis Tsiotras氏)

 可能性が検討されているアイデアの1つに、大抵の衛星で使われているアルミニウムを固体推進燃料へ加工する、というものがある。こうして作った燃料は、ほかの衛星への補充に使えるし、もっと大きな物体を制御して大気圏再突入させることにも使える。

 もちろん、宇宙ゴミの最も簡単な管理方法は、そもそも生じさせないことだ。米連邦通信委員会(FCC)の提案した新ルールでは、衛星が機能停止したら5年後に軌道から外すことを求めている

 「宇宙ゴミのあいだを縫って安全に打ち上げることが、日に日に難しくなっています。そのため、このようなゴミを回収したり軌道から外したりすることが、重要な関心事です」(IEEE上級会員のAntonio Pedro Timoszczuk氏)

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