特集
衛星データで「お米の味」も向上–学生インターンから見た「宇宙ベンチャー」の働き甲斐とは
私は地球が抱える環境問題や社会問題に関心があり、その解決に貢献したいと思っている学生です。僕がどうして宇宙産業に惹かれたのかその理由をお伝えするため、これまでに宇宙産業が人類にもたらした影響について説明します。宇宙産業の貢献は数えきれないほどありますが、その中でも特に大きなインパクトを与えた「衛星」の例を挙げてご紹介します。
人類の持続的な発展に「宇宙産業」は不可欠
私たちの日常生活は衛星に大きく依存していることをご存知でしょうか。衛星の通信ネットワークは全世界をつなげ、情報の瞬時の共有を可能にしています。もし突然、衛星が使えなくなったら地球はどうなるでしょうか?
テキサス大学の航空宇宙工学の准教授が監修したTED-Edの動画によると、「衛星が何かしらの原因で使えなくなった場合、数時間以内に、地球上のほとんどの交通がストップし、世界経済は停止し、ほとんどの国が非常事態宣言を出すだろう。最良のシナリオであっても、私たちの文明は数十年単位で後退することになる」と語っており、衛星が人類に大きな影響を与えていることがわかります。
そんな衛星も今や通信のためだけに存在するわけではありません。気象観測衛星や地球観測衛星の進化により、多様な観測データを取得できます。それらのデータは防災や減災など様々な分野で活用されています。また現在は小型衛星(一辺10cmサイズの衛星)も開発されており、これまで世界で約1.3万機の人工衛星が打ち上げられています。これからも衛星技術は進化し続け、人類に与える影響もさらに大きくなると考えられます。
しかし現在は、人類の発展だけが大切な時代ではありません。「SDGs」や「サステナブル」といった言葉が日常的に使われるようになり、地球全体を保護し、持続可能な発展を促進することが求められています。そこで重要になるのが宇宙産業です。この産業が持つ多岐にわたる技術は地球規模の課題に大いに貢献できると考えられます。
衛星データで「お米の味」も向上
私が宇宙産業に魅力を感じ、宇宙ベンチャーの天地人で学生インターンとして働く理由も、まさにこの点にあります。天地人には「天地人ファーム」という事業があります。同事業は、宇宙からの視点を活用して、地球温暖化や従事者の減少といった、農業生産現場が直面する多様な問題に対処する事業となります。
その一環として、「宇宙ビッグデータ米」という、神明、笑農和、天地人の3社が共同で、気候変動に対応した新しいブランド米を作るプロジェクトがあります。このプロジェクトで天地人は、宇宙ビッグデータを活用した無料GISプラットフォーム「天地人コンパス」を利用して、お米の栽培適地を見つけ出しました。
地球温暖化が進むと、お米の品質や美味しさに影響を及ぼす「高温障害」が増えてきています。お米の栽培には、この高温障害を防ぐために、水温の管理が大切となるのです。そこで米が実をつける期間の水温を20〜25度に保つことで、高温障害を防ぎ、お米の美味しさを保つという実証を行いました。
昔は農家が天気予報や経験に基づいて水温を管理していましたが、衛星が宇宙から地表面温度を観測すると、気温が下がる夜でも、地表面温度が高い状態が続いているため、水温も高いままだということがわかりました。そこで、適切な水管理の一環として、株式会社笑農和の遠隔水位調整が可能な水門「Paditch」を設置し、夜間の冷水の取り入れが水温に影響を与えるか検証し、自動制御を行いました。
その結果、食味スコアという米の美味しさを表す指数で、トップブランドと同等の高いスコアを達成しました。お米は一般的に食味を高めると、収量が落ちると言われていますが、2022年の収穫では、収量を落とさずに、食味スコアを上げることができました。
もちろん神明さん、笑農和さん、天地人の3社の力あってこその結果ですが、宇宙の技術が米の栽培の抱える課題に貢献できるという点にはとても驚きました。これは一例に過ぎませんが、衛星データの活用事例だけでも、気候変動のモニタリングや天然資源の管理、災害対策など、地球規模の問題解決に貢献できる事例は多々あります。地球の未来を守るため、持続可能な発展を実現するための一助となる衛星データは、まさに「宝の山」です。
これらが、環境問題や社会課題の解決に貢献したいと思う僕が宇宙産業に惹かれ、天地人で働く理由です。
最後に
宇宙産業で働いている人は、理系出身の研究者が多いイメージがありませんか? 僕もそう思っていましたが、実際に働いてみるとそんなことはありませんでした。理系出身の研究者はもちろんですが、業界・職種を問わずに様々なバッググランドを持った方がいます。
また今回は衛星の活用例を挙げて、宇宙の魅力を紹介しましたが、宇宙産業には衛星以外にも、環境問題や社会課題の解決に貢献できる技術はたくさんあります。本記事を通して、宇宙産業もキャリアの一つの選択肢として考えていただけたら嬉しいです。