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火山や地盤沈下など変動の広がりを一目で把握–全国の「地殻変動分布図」公開
2023.03.30 16:36
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月28日、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(ALOS-2)の観測データで作成された日本全国の「地殻変動分布図」が国土交通省 国土地理院から公開されたと発表した。
ALOS-2は、2014年の打ち上げから現在まで、全国の地殻変動や隆起などの地表面の動きを継続的に繰り返し観測している。国土地理院は、8年以上蓄積されている合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar:SAR)の観測データで全国の「干渉SAR時系列解析」を実施したという。
SARは、人工衛星から地表に向けて電波を照射し、戻ってきた電波を受信し、往復にかかる時間で地表までの距離を面的に観測するセンサーの一種。地球を周回しながら同一地点に電波を照射し観測することで大きな開口を持ったアンテナと同様な解像度を得るため、人工的に“開口”を“合成”することから“合成開口”と呼ばれる。
SARは、地表の状態やその変化を詳細に把握することが可能とされている。森林の多い日本全土について長期的な地殻の変動を正確に把握するには、ALOS-2のほかに先進レーダー衛星「だいち4号」(ALOS-4)が活用する、森林を透過して観測が可能な波長での観測が有効と言われている。今回活用された周波数帯域は「Lバンド」。Lバンドは、1GHz帯(0.5~1.5GHz、波長200~600mm)の極超短波(UHF)に含まれる。
干渉SAR時系列解析は、異なる時期の観測データで作成した多数の「SAR干渉画像」を統計的に処理し、SAR干渉画像に含まれる大気や軌道誤差に起因する誤差を低減することで個別のSAR干渉画像では捉えきれない微少な地表の動きと時間経過に伴う変化を捉えられる解析手法。
SAR干渉画像は、同じ場所をSARで2回観測することで衛星と地表の距離変化を求めて、その間に地表の動きを検出して解析する。SAR干渉画像が多いほど、干渉SAR時系列解析の検出精度は向上する。
正確な干渉SAR処理には、衛星の軌道高度での維持運用や軌道高度と姿勢の高精度での決定など、長期的に安定した衛星の追跡管制が必要。高精度の軌道や姿勢の情報をもとにしたSARデータの処理技術も必要とされている。
今回の干渉SAR処理は、JAXAと国土地理院が技術協力して可能になったと説明。こうした工夫から初めて日本全国の地殻の変動をくまなく詳細に捉え、大地の動きを可視化する地殻変動分布図を制作できたとしている。
ALOS2に搭載されているセンサー「PALSAR-2」で得られた、SARデータを解析した全国の地殻の変動は、地形図や写真、標高、地形分類、災害情報など、日本の国土の様子を発信するウェブ地図「地理院地図/GSI Maps」で確認できる。火山活動や地盤沈下などによる地殻変動の広がりなどを一目で把握できるという。
JAXAは、変動情報を活用することで測量の基準(国家座標)の維持管理や地盤沈下調査などの空間分解能の向上を期待しているという。
今回の成果をさらに発展させ、日本全国の変動分布図の長期的な更新、高精度な変動把握を継続するために、ALOS-2での観測を継続。年間3~4回観測するALOS-2と比べて、年間20回観測することで精度が5倍と期待されているALOS-4が開発されている。より広域かつ、高頻度の観測を実施していく計画だという。