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NASAが宇宙でトマト栽培–火星探査で野菜が果たす役割とは

2022.12.09 11:02

CNET Japan

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 NASAが米国時間12月1日に投稿したブログ記事によると、国際宇宙ステーション(ISS)では現在、フライトエンジニアのNicole Mann氏が「Veg-05」研究の準備を進めているという。

(出典:Getty Images)
(出典:Getty Images)

 そもそも「Veg-05」とは何か。

 Veg-05の正式名称は長くて分かりにくい。「ISSの食料システムを補完する生食用サラダ菜の生産性、栄養価及び受容性」調査だ。

 単純化しすぎているかもしれないが、要するに「宇宙産トマト」を栽培する取り組みである。

 この研究では、宇宙空間の2種類の光質処理を施した環境でドワーフトマト(基本的にチェリートマト)を栽培し、並行して地球上でもトマト株を栽培する。11月26日、このミッション用に選ばれた貴重なトマトの種を乗せたSpaceXの「Falcon 9」が、ISSに向けて打ち上げられた。種が発芽したら、乗組員が果実の収穫量、栄養組成、微生物レベル(細菌の量)の差などを分析する予定だ。

 実は、この分析には科学的なツールだけでなく、乗組員の個人的な「感覚」も用いられる。

 研究に参加する乗組員は実際にトマトを食べ、まるでスーパーで自家製マリナーラの材料を選ぶように、その味、食感、みずみずしさなどを評価する。

 宇宙で育つレッドロビン種のトマトは、ブルスケッタ向きの丸々としたつる付きトマトになるのか、それとも煮込みソースや生食サラダ向きの、しっかりとしたトマトになるのか。

 あるいは、その両方か、それとも新しい何かか。この問いへの答えを探ることが今回の研究の目的だ。

野菜栽培装置(Veggie)で育成中のドワーフトマト「レッドロビン」。ISSへの飛行前の様子(出典:Gioia Massa)
野菜栽培装置(Veggie)で育成中のドワーフトマト「レッドロビン」。ISSへの飛行前の様子(出典:Gioia Massa)

宇宙サラダが求められる理由

 簡単に言えば、NASAは深宇宙、火星、そして超長期の月探査という希望にあふれた未来の到来を見据えて、必要な準備を整えようとしているのだと言えるかもしれない。

 NASAの月探査計画「Artemis I」は、すでに基地や居住施設、インターネット接続環境を月面に構築する取り組みを進めており、人間を火星に送り込むというNASAの夢の実現に一役買うとみられている。深宇宙の探査に備えて、Microsoftの「HoloLens」を利用した「ホロポーテーション」医療(3D映像で医師を宇宙空間に派遣する技術)のプロトタイプ開発も進行中だ。

 実際問題として、宇宙を旅する人にとっても新鮮な食品の方が栄養価は高く、食味も勝る。また、補給ミッションで宇宙飛行士に地球産の食品を届けることは非常に難しい。この方法は複雑でコストも高いため、宇宙に長期滞在する人々が気軽に利用できる選択肢にはなり得ない。

 NASAは今回の実験を説明した文書の中で、「現在、地球低軌道で活動している宇宙飛行士が利用しているパッケージ型の宇宙食はうまく機能しており、2000年11月2日以来、宇宙で活動する人々を支え続けてきた」と書いている。「しかし、そのためには頻繁な補給ミッションが必要だ。2~3年に及ぶ火星ミッションでは、パッケージ食品のビタミンや品質は時間とともに劣化してしまう。新鮮な食用作物を補完的に利用できれば、不足している栄養素を補い、食事のバラエティも増やすことができる」

 それだけではない。「新鮮な食品を食べたり、植物を世話したりすることから得られる楽しさが、宇宙飛行士の精神面に良い影響を与える可能性を裏付ける事例も報告されている」という。

 こうした理由から、ISSでは宇宙空間で作物を自然栽培するための包括的な研究が進められており、Veg-05はその1つにすぎない。

ISSのVeggieでレタスを栽培する宇宙飛行士Shane Kimbrough氏(出典:NASA)
ISSのVeggieでレタスを栽培する宇宙飛行士Shane Kimbrough氏(出典:NASA)

トマトの力

 現在、NASAが進めているトマト実験は、水菜の栽培に取り組んだ「Veg-04」研究から生まれたものだ。Veg-04の前には、キャベツやケール、ロメインレタスの試験栽培に取り組んだ「Veg-03」があり、その前にはロメインレタスの栽培に初挑戦した「Veg-01」があった。ちなみに「Veg-02」もあるが、中心はやはりロメインレタスの栽培だった。このまま行けば、いずれ宇宙産ロメインレタスが地球産を上回る日が来そうだが、初期の研究は食用目的で野菜を栽培していたわけではない。

 NASAが取り組む宇宙産サラダ栽培は「Veggie」と総称される。正式には「Vegetable Production System(野菜生産システム)」だ。ISSには、この名の付いた植物栽培ユニットがあり、さまざまな実験が行われている。

 Veggieが扱う野菜は幅広い。例えば、数年前には非食用のレンズ豆やラディッシュ、さらには藻類の栽培実験も実施した。昨年は辛味の強い青唐辛子の収穫に成功し、宇宙飛行士らはISSで宇宙タコスを楽しんだという(ただし、タコスは正式にはVeggieプロジェクトには含まれない)。

ISSで宇宙飛行士らが楽しんだ青唐辛子入りタコス(出典:NASA/Megan McArthur)
ISSで宇宙飛行士らが楽しんだ青唐辛子入りタコス(出典:NASA/Megan McArthur)

 いずれは宇宙産の作物が地球産の作物を超える栄養価を持つ日が来るかもしれない。例えば、2022年3月には科学者チームが、宇宙で栽培できる遺伝子組み換えレタスの開発計画を発表している。

 この特別なレタスは、普通のレタスとよく似ているが、無重力環境で発生する骨量の減少を防ぐように遺伝子が操作されている。宇宙飛行士は通常、骨量減少を抑制する物質を注射しなければならないが、サラダを食べることで代用できるならその方がいいはずだ。いずれはVeggieプロジェクトの下で栽培される宇宙産作物のすべてが、遺伝子を組み替えたものになるだろう。

 人類は、サラダの力を見くびっていたようだ。

(この記事はCNET Japanからの転載です)

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