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日本の宇宙ビジネスを牽引、イプシロンロケットが担う役割とは

2022.10.24 07:30

塚本直樹

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 10月12日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型ロケット「イプシロン」の6号機の打ち上げが、残念ながら失敗に終わった。2013年から打ち上げが始まった同小型ロケットは、どのような市場を狙って開発されたのだろうか。

イプシロンロケットの概要

(出典:JAXA)

 イプシロンロケットは、JAXAとIHIエアロスペースが開発した小型の固体燃料ロケットだ。ロケットの全長は試験機で約24.4m、2号機から用いられている「強化型イプシロン」の場合は約26m。メインの推進剤は固体燃料だが、オプション形態として小型液体推進系(PBS:Post-Boost-Stage)を搭載することも可能だ。

 打ち上げ能力としては、強化型イプシロンの場合は太陽同期軌道(SSO)に590kg、長楕円軌道に365kg以上となる。また強化型イプシロンでは、衛星を搭載するスペースが約5.4mにまで拡大された。

 イプシロンの特徴としては、打ち上げ時の振動や騒音を小さくするシステムが取り入れられていることもあげられる。また衛星の分離時の衝撃も抑制されており、JAXAいわく「世界トップレベルの乗り心地」を実現している。

既存のH-IIAやM-Vロケットからのコスト削減

(出典:JAXA)

 JAXAはイプシロンロケットの前に、小型固体ロケット「M-V」を運用していた。また、すでに「H3」ロケットへの切り替えが予定されている、大型液体ロケット「H-IIA/B」も存在する。イプシロンロケットは、これらの構造や技術を受け継いでいる。

 イプシロンロケットの開発の掛け声となったのは、「世界一コンパクトな打ち上げ」だ。例えばM-Vの打ち上げには管制室に約80名が必要だったが、イプシロンロケットでは自動点検技術を採用することで、オペレーター8名での打ち上げが可能だ。これにより、打ち上げコストの削減とスピードアップが実現した。

 イプシロンロケットの第1段には、H-IIAに利用される固体ロケットブースター「SRB-A」の改良版を採用。さらに、第2段と第3段にはM-Vロケットのものが改良されて採用されている。このような部品の共通化でも、コストダウンが図られている。

低コスト&多頻度の打ち上げで宇宙ビジネスへ貢献

(出典:JAXA)

 衛星は技術革新が進み、超小型衛星や、超小型衛星を複数組み合わせたコンステレーション(衛星群)の運用がますます盛んとなっている。低コストかつ多頻度の打ち上げが可能なイプシロンロケットは、それら超小型衛星の需要に対応できる。

 イプシロンロケットはモデルが新しくなることに、衛星の打ち上げ機能を進化させてきた。4号機では複数の衛星を同時に打ち上げ、衛星毎に正確に軌道投入する技術「複数衛星搭載構造(ESMS)」を確立。さらに、超小型衛星を投入するための「キューブサット放出装置(E-SSOD)」も搭載されている。

 さらに将来的には、「イプシロンSロケット」の投入も予定されている。これはロケット打ち上げの民間委託を目的としたもので、H3ロケットとのシナジー効果もあわせ、打ち上げのスピードアップとコストの削減を目指している。

 このようにベースとなったM-Vから、継続的にコストカットと打ち上げの迅速化が図られてきた。今後も需要の拡大が見込まれる小型衛星や超小型衛星、キューブサットにおける計画獲得への貢献が期待される。

 また、日本の宇宙企業が開発した衛星が、海外のロケットを用いて打ち上げられるというケースも多い。これに対しては「ロケットの打ち上げ費用の支払いを通じて、国富を流出させている」との指摘もある。自国の打ち上げ手段を拡充させることは、日本の宇宙ビジネスの競争力強化に欠かせない。

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