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西陣織をまとった日本発の宇宙服「VESTRA」–京大やAmateras Spaceが開発、万博で展示へ
2025.08.08 17:10
京都大学と岐阜医療科学大学、宇宙スタートアップのAmateras Space(アマテラス スペース)は、西陣織を採用した日本発の次世代宇宙服「VESTRA(ヴェストラ)」のコンセプトモデルをお披露目した。8月10〜16日まで、大阪・関西万博の大阪ヘルスケアパビリオン(デモキッチンエリア)で展示する。8月7日に京都大学大学院総合生存学館で発表会が開かれた。

従来の宇宙服は宇宙飛行士を危険から守る機能が最優先されていたが、宇宙旅行や宇宙観光が現実に近づくにつれ、着心地や見た目も重視され始めている。次世代宇宙服の開発については、米国を中心に複数の企業が参入しており、たとえばAxiom Spaceがファッションブランドのプラダと共同開発する宇宙服は、アルテミス計画での月面活動時に宇宙飛行士が着用する予定になっている。日本ではまだそうした動きは少ないが、京大、岐阜医科大、アマテラスは、日本発の次世代宇宙服を共同で開発する「Project AMATERAS-X」を始動し、今回初めてプロトタイプを公開する。
VESTRA の最大の特徴は、外装層に西陣織を採用した点にある。表面のアウター層は金色にも見える下地にクジャクの羽をベースにした模様が描かれ、宇宙を駆け巡る鎧武者のような雰囲気がある。装飾性の美しさにとどまらず、西陣織が1000年以上かけて育んできた高度な織物技術を用いた縫製により、耐摩耗や耐衝撃性、耐熱性などが高められている。

さらに、タングステンやホウ素繊維による金属糸を使用し、高強度素材を利用した遮蔽材を織り込むことで放射線遮蔽機能を持たせ、宇宙空間での被曝リスクも低減できる。肌に密着するインナー層はウェットスーツ構造の高弾性でやわらかいポリウレタン素材を使用し、関節部分にジェル状液体パッドを挿入することで多軸曲面に対応できるラミネート構造を実現。美しいシルエットと機能性が両立されている。宇宙服のディレクションとデザインはデザイナーの佐藤あずさ氏が手掛け、西陣織ネクタイのメーカーであるタイヨウネクタイが西陣織の部分を作成している。

「伝統」と「宇宙」の融合は可能
会見に登壇した京都大学SIC有人宇宙学研究センター長の山敷庸亮教授は「正直なところ、最初は西陣織で宇宙服ができると思っていなかったが、高度な技術を目の当たりにして、伝統と宇宙の融合は可能であると実感した。7年後のテストランに向けて技術面でも現実に近づけたいと考えている」と話す。
Amateras Space代表取締役の蓮見大聖氏は「宇宙服の要素技術として素材の部分は日本に大きなプレゼンスがあると思っている。見た目も非常に大事で、文化にも着目したいと考えている。山敷教授から万博で宇宙服を展示する機会をいただいた際に、デザイナーから京都の西陣織という案が出され、西陣織の構造的ポテンシャルと宇宙旅行のラグジュアリー感が出せるという点で採用を決めた」と開発の経緯を明かした。

VESTRAの宇宙服としての骨格ともいえる部分は、人体と医療科学の視点から宇宙服を研究し、高与圧・高可動性宇宙服「Knight suits」の研究者である岐阜医科大の田中邦彦教授が協力している。従来の宇宙服は与圧が0.3気圧であるのに対し、Knight suitsは0.3〜0.65気圧に対応し、与圧時間を短縮できる。関節部分はジャバラで、グローブは伸縮性があり、軽量で活動の自由度が高く、安全性を備える。研究ではすでに様々な特許を取得しているが、プロジェクトの参加をきっかけに初めてKnight suitsのプロトタイプを作成し、同じく万博で公開する。
今回の発表会では実用化に向けた研究開発計画やその間のマネタイズについても説明された。西陣織の価値を生かしたオーダーメイドのアパレル商品、高耐性を生かした防弾服、宇宙線を防ぐ機能を取り入れた放射線遮断服などの案があり、宇宙服の開発と平行して対応することを計画しているという。
その一歩ともいえる万博で展示について、蓮見氏は「いかに宇宙が身近であるかを今回展示する宇宙服を通して感じてもらいたい。開発には支援が必要なので協力してくれる人たちをもっと増やしたい」と思いを語った。
