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【現地レポート】ISSと万博をつなぐ史上初の宇宙ライブ「KIBO SPACE LIVE」–宇宙の白夜や日食も

2025.07.16 15:00

野々下裕子

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 数々の宇宙関連展示やイベントが集まる大阪・関西万博で、万博史上初となる宇宙ライブイベント「KIBO SPACE LIVE」が、7月10日にEXPOホール(シャインハット)で開催された。国際宇宙ステーション(以下、ISS)と会場をリアルタイムにつなぎ、宇宙から見た地球の姿を中継したり、ISSからJAXA宇宙飛行士の大西卓哉氏が生出演したり、KIBOをテーマにしたチャリティソングが初披露されたりと、盛りだくさんのプログラムで会場はおおいに盛り上がった。

 このイベントは、地上400km上空を周回するISSの「きぼう」日本実験棟に開設された、宇宙と地上を双方向でつなぐ世界唯一の宇宙放送局「KIBO宇宙放送局」により企画運営された。放送局はプロジェクトデザインスタジオのバスキュールが設立し、2020年8月に世界初となる宇宙との双方向ライブ番組の配信に成功。2回の技術・事業実証を経て、4回の自主プロジェクト、4回のスタジオ貸出プロジェクトを実現している。今回は宇宙からリアルタイムで地球を中継しながら進行する初の試みで、3部構成でトークセッションや他の地域との中継、音楽ライブなどが実施された。

  会場のEXPOホールは円形の建物で、1970年大阪万博のシンボル「太陽の塔」をイメージさせる金色の大屋根が目を引く。2階建で1900席ある館内は中央ステージの上から全体を取り巻くように映像が大きく表示され、宇宙にいるような雰囲気が再現されていた。イベントの参加は抽選だったが、当日に限り優先順に参加できる枠も追加され、3部とも立ち見が出るほど満席となっていた。

会場のEXPOホール(シャインハット)

 午前11時開始の第1部では「宇宙と万博が初めてつながる瞬間」をテーマに、宇宙飛行士の山崎直子氏を特別ゲストに迎え、ステージ上の巨大スクリーンに映し出されたISS船外カメラがとらえた地球のリアルタイム映像(一部録画を含む)を鑑賞。万博と初めてつながる瞬間を来場者たちと一緒に迎えた。3部を通してMCを務めた元NHKアナウンサーの豊原謙二郎氏の進行で、宇宙からの中継もスムーズに進む。山崎氏への質問コーナーでは、ISS内で物をなくしてもエアコンの吸入口で必ず見つかるといった、宇宙ならではの雑学も飛び出した。

イベントではISSから地球をリアルタイムに放送する瞬間を体感でき、ISSの位置や別角度の映像も披露された

 さらに、東京の⻁ノ門ヒルズフォーラムで開催していた宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE 2025」の会場と中継を結び、最新の宇宙ビジネスなどを紹介。また、JAXAとNIES、環境省が共同実施する温室効果ガス観測技術衛星「GOSAT(いぶき)」とその地球観測データを用いて、地球上の二酸化炭素量を可視化する「GOSAT Visualizer」も紹介された。

地球上の二酸化炭素量を可視化する「GOSAT Visualizer」で地球の変化を目の当たりにする

 13時からの第2部は雰囲気が変わり、シグネチャーパビリオン「いのちめぐる冒険」とのコラボレーション形式で行われた。パビリオンのプロデューサーでアニメーション監督の河森正治氏と、パビリオンの展示企画を担当し、きぼう宇宙放送局を運営するバスキュールの馬場鑑平氏、そして河森監督作品「アクエリオンロゴス」に出演する声優の佐倉綾音氏が登壇し、万博と宇宙の関係や万博のメインテーマであるいのちについて語り合った。

第2部はシグネチャーパビリオン「いのちめぐる冒険」とコラボレーションしたトークセッションなどが行われた

 トークセッションでは、パビリオンで展示中の4m超四方の巨大ビジョンに宇宙からの映像や生命の姿を超高精細度で映し出す「宇宙の窓」を見ながら、地球の生命がいかに貴重で奇跡的なものなのかが語り合われた。また、「アニメ作品では宇宙に行ったことはあるが、宇宙に関しては素人」という佐倉氏と視聴者に向けて、ISSやきぼうの基本情報、そして今回のISSからのライブ中継がどのように実現しているのかが説明された。

ISSからの中継のしくみ

 イベントの開催時期はISSから見える太陽が地球の影に入ったあとも光が残る、いわば宇宙の白夜という貴重な時期で、会場ではその様子が録画で紹介された。さらに、なかなか見る機会がない地球の上を月の影が移動する〝宇宙から見た日食映像〟もあわせて紹介された。

ISS船外カメラの映像
貴重な〝宇宙から見た日食映像〟の映像も紹介された

 ほかにも、学生団体おりがみによる「紙飛行機プロジェクト」からのメッセージを宇宙に届けたり、地球のライブ映像上に募集したメッセージを展示する参加型コンテンツ「願いの博覧会」があったりと、老若男女が幅広く参加する万博らしいイベントとなっていた。

学生団体おりがみ「紙飛行機プロジェクト」からのメッセージが宇宙に届けられた
中継が突然中断されるアクシデントでリアルタイムを実感

 メインイベントとも言える第3部は18時にスタート。船長としてISS滞在中のJAXA大西卓哉宇宙飛行士が生出演したほか、JAXA宇宙飛行士の星出彰彦氏、ESA宇宙飛行士のトマ・ペスケ氏、タレントの朝日奈緒氏など多くのゲストが登壇した。

ESAのトマ・ペスケ飛行士は写真集「手の中の地球 国際宇宙ステーションから見た私たちの星」を出版しており、会場ではその一部が紹介された

 そのほか、日本や英国から参加する学生たちと交流したり、2030年に「宇宙修学旅行」を目指す福岡県柳川高等高校と中継を結び、実物大で印刷されたISS画像を校庭に表示した様子を見たりと、充実したプログラムとなっていた。

福岡県柳川高等高校は校庭に実物大のISS画像を広げて見せた

 さらに、18時50分からは日本に接近し、万博会場上空を通過するISSからのリアルタイム映像を中継する初めての挑戦も。中継の直前に、大西氏がいるISS内と映像がつながると会場からは大きな歓声が湧き起こった。その後も、高速で日本上空を移動するISSの映像を見たが、待望の大阪上空からの映像は残念ながら厚い雲で覆われてしまい確認できず。それでも来場者からは、特別な体験ができたことへの満足感を感じることができた。

大阪上空から映像は残念ながら雲しか見えなかったが貴重な体験であったのはまちがいない

 最後を締め括るフィナーレでは、チャリティソング「ほしのおと」が初披露された。GReeeeNやゆずの楽曲を手がけるFZ、JIN、MONJOEという3人の音楽家が構想しており、楽曲から得られる収益は地球に還元される。会場では、日本を代表する合唱指揮者の松下耕氏と合唱団、グラミー賞受賞のチェロ奏者エル・マツモト氏が共演し、壮大な音楽を奏でて来場者を魅了した。

フィナーレにチャリティソング「ほしのおと」が初披露された

 ISSは2030年に運用が終了する予定で、次回のサウジアラビア・リアドでの万博開催時にはきぼうも含めてその役目を終えている可能性がある。それだけに、2027年に横浜で開催される「国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)」でもきぼう放送局がライブ中継されることに期待したい。

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