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高校生がNASA研究者と直接対話も–大阪で実践的な「宇宙植物学」を学べる水都国際高校とは
2025.06.10 09:00
月や火星といった宇宙環境において、どのように植物が育つかを研究する「宇宙植物学」を、高校生のうちから実践的に学べる学校が大阪にある。中高一貫校として、2019年に開校した大阪府立 水都国際中学校・高等学校だ。大阪府が設立し、学校法人大阪YMCAが運営する全国初の“公設民営”である同校は、国家戦略特区制度を活用した国際バカロレア(IB)認定校として、グローバル人材の育成を目指すさまざまな先進的な教育を提供している。
ISSでの野菜栽培実験にも高校生が参加
同校では開校以来、生物の教員が中心となって宇宙植物学を研究しており、国際宇宙ステーション(ISS)に設置されている野菜栽培装置「Veggie」を模した「VEGGIE system analog」など、大学の研究室レベルの機材を備えた本格的なラボを設けている。また、NASA、ノースダコタ大学航空宇宙学部、ウィスコンシン大学マティソン校ギルロイ研究所、宇宙関連のスタートアップ企業など、国内外の研究機関とも協働した実績を持つという。



生徒は任意でこのプログラムに参加でき、毎年20名近くが宇宙植物学に関するさまざまな研究・実験をしているという。たとえば2020年には、微小重力がどのように植物の成長に影響するかを調べるため、ベビーリーフレタスの種を「CoSE gravitropism stressor chamber」(植物に多方面の重力負荷を与えるために、植物を垂直に回転させる装置)に入れて栽培した。これはNASAの協力によって実現しており、3Dプリンタを使って、日本初のCoSEシステムを組み立てたという。

また、国際宇宙ステーションで赤クローバーを栽培する「Exolab-8実験」に同校の生徒も参加。2021年にISSに打ち上げられ、70日間の宇宙滞在の後、JAXA元宇宙飛行士の野口聡一氏を含むDragon-1クルーとともに地球に帰還した。
2024年末には、東京科学大学地球生命研究所で開催された、宇宙生物学などの分野で活躍する若手研究所向けの学術カンファレンス「Astrobiology Graduate Conference Japan 2024(AbGradJ)」において、同校の生徒が宇宙植物学の研究発表のために参加したという。2025年には、宇宙植物学での取り組みの成果が「Journal for Gravitational and Space Research」に掲載された。

生徒は対等な「研究者」–本物の研究にこだわるキーパーソン
こうした数々の実績を持つ同校の宇宙植物学のキーパーソンが、理科教員で宇宙植物学研究コーディネーターのギルバート・カーソン氏。水都国際高校開校以来、生物の教員として働く一方で、NASA Genelab Analysis Working Groupの一員であり、UNDの宇宙研究部門の研究者かつ博士課程に在籍しながら研究活動を行っている。

5月に同校のラボを訪れた際には、火星の土を再現して、野菜を栽培する研究をしていた。火星の土の成分にホワイトクローバーの粉末を加えるなどして作った土壌を使ってレッドレタスを飼育しており、小さな葉や根が生えているところを特別に見せてもらった。


カーソン氏がこだわっているのが、生徒たちに“本物”の研究機会を与えること。「ラボに足を踏み入れれば、そこでは教員と生徒という関係ではなく、対等な研究者として接している」(カーソン氏)。生徒がNASAの研究者とオンラインミーティングで直接対話することもあるというから驚きだ。このプログラムを経験して卒業した生徒たちが、どのようなキャリアを歩むのか楽しみになる。
カーソン氏には、水都国際高校のように、高校生であっても実践的な研究に携われる環境を、日本中に増やしたいという思いがある。そのためにも、宇宙植物学の研究をさらに推し進めることで「(同校において)1つのモデルケースを確立したい」と展望を語った。
なお、5月22日には同校をオーストラリア初の宇宙飛行士であるキャサリン・ベネル=ペッグ氏が訪問して特別講演を実施。高校生たちに向けて、自身のキャリア感や宇宙飛行士訓練などについて語った。