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災害時の衛星データ活用を効率化–「日本版災害チャータ」の高度化で共同研究

2025.05.22 16:15

UchuBizスタッフ

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 災害発生時に衛星データを活用する体系的な枠組み「日本版災害チャータ」のサービス開始に向けて実運用スキームの高度化を目的にした共同研究が始まった。

 国立研究開発法人の防災科学技術研究所(National research Institute for Earth science and Disaster resilience:NIED)、富士通衛星データサービス企画(SDS、東京都千代田区)、三菱電機の4者が共同研究契約を5月15日に締結。日本版災害チャータの事務局機能の強化、システム改善を進める。

 地震や水害などの広域災害発生後の初動対応や復旧復興作業時に、迅速に被災状況の全容を把握することは非常に重要になっている。地球観測衛星が取得する衛星データは、一度に広範囲の被災状況を把握でき、災害時の活用に効果が期待されている。

 しかし、衛星データ解析事業者などのデータ解析機関だけでは、多種多様な衛星データの解析や予測できない災害に24時間365日対応することはできていない。自然災害が多発する日本で衛星データを効率的に活用する枠組みの構築が求められていた。

 日本版災害チャータは、災害発生時に日本に加え、海外が運用する地球観測衛星で被災エリアを迅速に観測し、災害対応機関や指定公共機関、自治体、民間事業者などのユーザーに要請に応じた解析データを速やかに提供することを見据えた枠組み。内閣府と企業が連携して、情報を提供するサービスの開始を目指している。

 日本版災害チャータのサービスを利用することでユーザーは災害発生後の被災状況の全体像を速やかに把握でき、迅速な初動対応や効率的な復旧復興作業が可能になると期待されている。

 4者は、2023~2024年度の内閣府の「BRIDGE」事業で衛星データを取得、解析、提供するシステムを開発。システム運用を担う日本版災害チャータ事務局の組成や運用プロセスの実証、官民が連携したビジネスモデルの検討や課題の抽出を進めてきた。

 新たに共同研究契約を締結した4者は、これまで構築してきた日本版災害チャータの事務局機能、事務局が運用して情報を提供する「衛星ワンストップシステム」の高度化を図る。

 事務局機能は、官民連携ビジネスモデルの検討、衛星データ共通解析機能の強化、衛星データなどを迅速に共有するシステムの高度化を進める。

 衛星ワンストップシステムは、災害時に観測可能な衛星を検索して、データを取得してから提供するまでを速やかに実行するシステム。同システムについては、災害の発生検知から衛星タスキング指令(観測対象や時間、センサー条件などを指定し、衛星に撮影を指示する)発行までのプロセスを自動化する。これまで手作業だった調整フローを省略することで初動対応時に必要となる被災状況の解析結果までの時間を大幅に短縮することを目指す。日本版災害チャータの構想概要は以下の通り。

  1. 災害後、早期に多様な衛星の観測データを取得、迅速かつ的確な災害対応に貢献
    • 災害発生後、多種・複数機の衛星で緊急観測。衛星ワンストップシステムで災害発生から数時間程度で広域な観測データに基づく被災状況データを提供することで、初動対応の迅速化に貢献
  2. ユーザーニーズに従い、衛星タスキングからデータ提供までをワンストップで実施
    • 日本や海外で運営される多種・複数機の衛星の中から日本版災害チャータの事務局が災害の種別や発生時刻、規模、天候などに応じて最適に衛星タスキングすることでユーザーのニーズに沿った衛星データを取得、解析して提供
    • 衛星ごとに異なる衛星プロバイダー、データ解析機関との契約や調整を日本版災害チャータ事務局が一括することで、ユーザーはサービスの利用に専門知識を必要とせず、希望する情報をワンストップで入手可能
  3. 定期的なモニタリングで災害後の復旧・復興、被害抑止に貢献
    • 災害後に衛星で同一エリアを定期観測し、被災前後や経時変化を可視化するモニタリング技術を開発することで復旧復興作業の進捗を継続的、効率的に把握
    • 災害発生前と直後、その後の経過を観測したデータを比較して液状化や地滑りなどの被災エリアを特定しユーザーに提供することで二次被害の抑制に貢献

 共同研究は2026年3月末まで。4者の役割は以下のように分担している。

  • 防災科研=ユーザーなどとの訓練や実災害での実証実験の計画、推進取りまとめ、社会実装の牽引
  • 富士通=衛星ワンストップシステムの高度化と訓練、実災害時での運用支援
  • SDS=民間事業社主導での自動タスキングとデータ連携基盤の構築検証、事務局機能の高度化
  • 三菱電機=衛星データの共通解析機能の強化と実証実験の支援、官民連携ビジネスモデルの検討推進
日本版災害チャータの概念図(出典:富士通)
日本版災害チャータの概念図(出典:富士通)

 自然災害の発生時に衛星の緊急観測で衛星データと被害域の抽出結果を無償で提供する、国際的な枠組みとして「国際災害チャータ」と「センチネルアジア」がある。国際災害チャータは2000年にカナダと欧州の宇宙機関から発足し、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2005年に加盟している。

 国際災害チャータに加盟している機関は現在17、緊急観測データを衛星は60機以上。

 国際災害チャータは宇宙機関だけでなく、民間事業者も協力して、衛星画像を無償で提供している。2018年に小型光学観測衛星網を運用する米Planet Labs、2020年に小型レーダー観測衛星網を運用するフィンランドのICEYEも参加している。

関連情報
4者プレスリリース
国際災害チャータ(JAXA第一宇宙技術部門)
センチネルアジア(JAXA第一宇宙技術部門)

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