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中国、持ち帰った「月のサンプル」を各国の研究者と共有へ–ただしNASAを除く
中国がミッション「嫦娥5号(Chang’e 5)」で2020年に地球に持ち帰った月の試料(サンプル)について研究者との国際的な共有が開始された。しかし、2011年に制定された法律により、米航空宇宙局(NASA)がこの研究に関係することはない。
5月上旬、イギリスを含むヨーロッパ諸国、エチオピア、ロシア、そして米国の科学者が嫦娥5号の月のサンプルを受け取った。アメリカ以外の他の国々では、政府機関が中国から貸し出されたサンプルの分析費用を負担している。
NASAの場合、中国の月のサンプル分析で米国を拠点とする研究者に資金を提供することができない。今回サンプルを受け取った米国人惑星科学者のTimothy Glotch(ティモシー・グロッチ)氏は、同氏が所属するニューヨーク州立大学ストーニーブルック校から資金を提供されている。
これは、2011年に可決された「Wolf Amendment(ウルフ修正条項)」によるものだ。条項ではNASAと中国の宇宙機関である国家航天局(CNSA)、それぞれの科学者の2国間協力を禁じている。これは米国の宇宙技術が中国に流出し、軍事利用されることを懸念してのものだ。この条項からNASAは中国から月のサンプルを受け取ることができない。
同条項では、米中の2国間協力に基づくプログラムにNASAの資金や施設を利用することを禁止、連邦捜査局(FBI)に情報を提供した上で「安全保障に関わる技術やデータが中国に流出しない」「人権侵害に直接関与していると判断された政府関係者との交流が発生しない」ことを承認される必要がある。
嫦娥5号のサンプルについて、NASAは当初、米国人研究者に提供するためにCNSAとの交渉に携わっており、ウルフ修正条項の適用除外も連邦議会から得ていた。しかし、NASAとCNSAの交渉は「未解決の問題」があって失敗となった。結論として、NASAから資金が提供されることはなかった。
Glotch氏は月のサンプルを加熱することで、異なる月の地域の組成に関する、より深い理解を得ることを計画している。「Apollo」(アポロ)計画で採取されたサンプルと比較することで、月の火山活動に関するより深い洞察を得ることを期待している。中国人科学者はすでに、嫦娥5号のサンプルがApolloのサンプルよりも数十億年も若いことを発見している。
嫦娥5号は2020年11月に打ち上げられ、月の「Oceanus Procellarum(嵐の大洋)」に着陸。同年12月に1.73kgのサンプルを地球に持ち帰り、科学者が分析を進めている。中国は月のサンプルに新鉱物を発見するとともに、月で現在も火山が活動している可能性があると発表している。
