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米政府、NASAに科学プログラムの予算半減を提案–マスク氏は「憂慮すべきだ」と反対
ホワイトハウスが米航空宇宙局(NASA)の科学プログラムに対して大幅な予算削減を提案しており、これが実現すればいくつかの主要なミッションが中止されることになる。海外メディアのArs TechnicaやSpaceNewsが報じている。
2025年10月から始まる米連邦政府の2026年度予算について、米国時間4月10日に米行政管理予算局(OMB)からNASAに送られた予算案の草案である「Passback」(パスバック)では、NASA全体の支出を約20%削減し、科学プログラムについては約50%もの削減を提案している。これにより、NASAの全体予算が約200億ドル(約2兆9000億円)に削減される見込みだ。
行政機関はそれぞれの活動に必要とする予算をOMBに提出。行政機関からの予算要求をOMBが審査して通知するのがパスバック。パスバックは、OMBからの回答であり、最終的な予算ではない。
今回示されたパスバックでは、NASAの科学ミッション予算が約73億ドル(約1兆円)から約39億ドル(約5600億円)に減額される見込みだ。最大の打撃を受けるのは天体物理学部門で、2024年度には約15億ドル(約2100億円)だったのが2026年度には5億ドル(約720億円)未満に減額されることになる。
2026年後半に打ち上げ予定の「ナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡」(Nancy Grace Roman Space Telescope:NGRST)の中止も提案されている。パスブックは「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)とジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)の継続的な運用を支持しており、他の望遠鏡には資金が提供されないことを前提」としている。
惑星科学部門には19億ドル(約2700億円)が割り当てられる予定で、これは2024年度より約3分の1減額される見込みだ。また、コスト超過とスケジュール遅延から見直しが進められていた「火星試料回収(Mars Sample Return:MSR)」計画や4年前に選定された金星探査ミッション「DAVINCI」も中止が提案されている。
今回の予算削減では、ゴダード宇宙飛行センターが閉鎖される可能性もある。HSTやJWST、NGRSTを含めて地球を観測する衛星のミッションなどは同センターが管理しており、同センターに務める職員や契約業者などの人員は約1万人とみられている。
今回のパスバックは、「Trump(トランプ)政権がNASAの科学部門を大幅に削減する」という噂を裏付けるものだ。
Space Exploration Technologies(SpaceX、スペースX)を率いるElon Musk(イーロン・マスク)氏は、この予算削減案に不快感を示し、SNSで「憂慮すべきだ」と投稿した。「私は科学探査を強く支持しているが、SpaceXはNASAの主要契約者であるため、NASAの予算審議には関与できない」
Ars Technicaによると、NASAを含めた行政機関は、パスバックを受け取ってから通常72時間以内に審査し、異議申し立てと変更理由を提出する。その後、修正内容は最終文書に反映され、大統領予算要求となる。ホワイトハウスが予算要求をいつ発表するかは不明だが、4~6週間以内に発表される可能性がある。
その後、ホワイトハウスは連邦議会と協力して、実際の予算を策定する。連邦議会の下院と上院にはそれぞれ、独自の歳出委員会があり、ホワイトハウスの優先事項を審議して最終予算を策定し、大統領が署名して法律として成立する。
NASAへの予算削減については、議会で激しい反対に遭う可能性が高いとArs Technicaはみている。SpaceNewsによれば、NASAに資金を提供する上院歳出委員会の商務・司法・科学小委員会の委員である上院議員のChris Van Hollen氏(民主党、メリーランド州)、上院議員Adam Schiff氏(民主党、カリフォルニア州)、下院の科学委員会の委員である会議員Zoe Lofgren氏(民主党、カリフォルニア州)が反対する声明を出している。
NASAと目的を共有する米惑星協会(The Planetary Society)は米国時間4月11日に声明を発表。今回のパスバックについて「NASAを暗黒時代に突入させる」と非難している。
「予算が成立すれば、稼働中の数十機の宇宙機が早期に廃止されることになる。これらの宇宙機は他に類を見ない資産であり、その機器や機能は、数十億ドルもの新たな納税者からの投資なしには交換できない。民間宇宙企業も、この不足分を補うことはできない」
「すでに費やされた数十億ドルの納税者の資金を無駄にし、国際的、商業的なパートナーを見捨て、宇宙科学における米国のリーダーシップを他国に明け渡すことになる」

関連情報
Elon Musk氏公式X(旧Twitter)アカウント投稿
Chris Van Hollen氏プレスリリース
Adam Schiff氏プレスリリース
The Planetary Societyプレスリリース
Ars Technica
SpaceNews