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KDDI、衛星通信「スターリンク」を使った3パターンの災害対策訓練を公開–効率化の新技術も披露

2025.01.28 09:00

石田仁志

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 KDDIは1月24日、横浜市のみなとみらい地区で「2025年 KDDI災害対策訓練」を実施した。SpaceXの衛星通信「Starlink」を活用した、通信復旧の様子を官民連携の実動訓練として公開。同社の災害対策向けの最新技術も紹介した。あわせて、2025年春を目処にサービス開始を予定している、Starlink衛星とauスマートフォンの直接通信のデモも披露した。

能登半島地震の通信復旧でStarlinkが活躍

 KDDIでは、毎年大規模災害を想定した災害対策訓練を行っているが、2024年は能登地域での通信復旧対応に尽力することになり、今回は2年ぶりの訓練実施となった。訓練では、能登で経験した復旧対応時の様子も含めて、同社の災害復旧対策における最新の内容を公開した。

 今回の訓練で特に目立ったのが、Starlinkの活用である。能登半島地震における復旧支援活動では、震災で通信インフラが寸断された中で、車載型、可搬型、船上基地局のバックホール回線(基地局と基幹通信網との接続点である最寄りの拠点施設をつなぐ中継回線)や、自治体、自衛隊、電力会社や能登半島全域の避難所などに合計約700台のStarlink機器を提供し、被災地の通信復旧に大きな役割を果たした。そこでの実績を経て、Starlinkが災害復旧時に欠かせないツールとしてオペレーションに組み込まれた形となっている。

Starlinkを活用した3パターンの実働訓練

 今回行われた実働訓練は、能登半島地震で生じた課題をテーマに、能登と同様に半島エリアで巨大地震が発生したケースを想定して行われた。Starlinkを活用した通信復旧の訓練としては、(1)陸地からの「Starlink輸送・設置連携訓練」と、(2)港から搬入する「基地局復旧機材搬送・復旧訓練」、(3)陸路もなく接岸もできない場合の「船舶型基地局設置訓練」という3パターンの訓練が公開された。

今回実施したStarlink関連の3つの訓練の概要図

 (1)の訓練は、ネットワークがつながらない内陸部の町役場の通信環境を復旧させる際に、道路が放置車両によってふさがれていて町役場まで通行ができないという状況を想定したもので、国土交通省と陸上自衛隊との連携によって行われた。

 訓練ではまず、国土交通省関東地方整備局の作業員が車を撤去し、そこから陸上自衛隊東部方面隊が人員輸送車両にKDDIの復旧作業員を乗せて悪路を進み、役場にたどり着いて機材を搬入。Starlinkによって、町役場に開設された避難所のWi-Fi通信を確保した。訓練の場では通信の接続確認までは行われなかったが、実際はStarlinkのアンテナを設置後、10分程度で通信ができるようになるとのこと。

国土交通省の作業員が放置車両を撤去する様子
陸上自衛隊員とKDDIの作業員が連係してStarlinkのアンテナを設置

 (2)の訓練では、災害によって陸路が寸断された沿岸部の集落にある基地局で光ファイバーが切断されているという被害状況を想定。通信を復旧するために、KDDIの現地復旧班を乗せた海上保安庁第三管区海上保安本部の巡視艇が港に接岸し、両者が協力して復旧道具の積み下ろしを行った後に、KDDIの復旧班が徒歩で現地に赴いて通信を復旧させるというシナリオで行われた。

 こちらはStarlinkを基地局のバックホールとして活用するケースとなるが、従来は車載型基地局で対応するか重量のある可搬型の基地局を運搬する必要があり、移動範囲も限られていたという。それに対しStarlinkではアンテナやルーター、PCなどの少ない機材を現地に持ち込めば機能するため、災害時に移動できる範囲も広がり、応急復旧基地局としての復旧作業の効率化を実現している。

 Starlinkの活用によって移動時の負担が大幅に削減されたことに加えて設定作業も楽になり、従来数時間かかっていた暫定復旧作業が30分程度で行えるようになったという。現在、KDDIではバックホール用のStarlinkアンテナを200台程度保有しており、今後倍程度に増やしていく計画だという。

海上保安庁の船が港に接岸しKDDIの作業員と協力して荷物の積み下ろしを行う
KDDIの作業員がアンテナを背中に担いで現場に赴き設営作業を行う

 (3)の訓練は、陸路も港からもアクセスできない地域に対し、船から通信復帰を試みるというシナリオで実施された。実際の訓練は、2024年12月に国立弓削商船高等専門学校が保有する練習船弓削丸で行われたもので、模擬訓練会場横にStarlinkの設備を搭載した弓削丸が接岸するなか、Starlink機材の積み込みからアンテナ・無線機の設置まで、船舶型基地局による海上からの通信復旧の訓練の模様を映像で紹介した。

 もともと船舶型基地局は、東日本大震災の際に多くの沿岸地域が津波で被災したことを受けて開発された技術で、すでに複数の運用実績があるが、Starlinkの活用によって設置工事にかかる時間が削減され、通信速度も向上するという効果が生じているとのこと。また、弓削丸のような小型船にStarlinkによって船舶型基地局の設備を設置することで、従来の大型船に搭載されていた船舶型基地局と比べて沿岸に近づけるようになるため、通信可能範囲も広くなるという。なお、能登半島地震の際は、NTTドコモと連携して船舶型基地局による通信サービスを提供した。

船舶型基地局設置訓練作業の様子
弓削丸上に設置された船舶型基地局用のStarlink衛星アンテナ

auスマホとStarlink衛星との直接通信も

 訓練の後には、今年春に開始予定のauスマートフォンとStarlink衛星との直接通信サービスのライブデモが行われた。KDDIは2024年末に、総務省から携帯電話端末で衛星直接通信を行うための免許交付を受け、米国連邦通信委員会からは商用ライセンスに基づくStarlink衛星の電波発射の許可を受けた。現在ベータ版としてサービスを提供しており、本格的なサービスインに向けて検証を重ねている。

 同サービスでは使用されるStarlink衛星が従来と異なり、これまでのStarlink衛星通信で必要だったau基地局やアンテナとの接続も不要となる。今回ここまで紹介してきた災害対策では、送受用のアンテナを設置して、StarlinkをバックホールやWi-Fi環境構築の用途で使っていたが、同サービスではスマートフォンと衛星を直接接続することで、空が見える場所であれば圏外エリアでも通信できるようになる。通信可能時には衛星型のアイコンが画面右上に表示され、au通信圏外の状態では自動的にStarlinkの衛星接続に切り替わる仕組みとなっている。

訓練で実施したStarlink活用における通信の流れ
Starlink衛星との直接通信の仕組み

 ただし、現状では対応端末は限定的で、サービスもSMSのテキストメッセージ送受信のみが可能。それでも災害発生時に通信が遮断された際には、テキストメッセージによって連絡を取ることができ、安否確認や救出などに役立てることができる。海外では、2024年9月に米国で発生したハリケーン災害時に、T-Mobileが被災地でSMS送受信を可能にした実績があるという。

 そこで今回は石川県の協力のもと、災害対策訓練現場と能登半島の七尾市との間で、直接接続のデモを実施。通信エリアが喪失している状態を作り、30分間に12機の衛星が石川県上空を通過するなかで、衛星との通信接続が確立されている時間帯を利用して、テキストでのやり取りと現地の位置情報を受信する様子を紹介した。

画面左が能登のライブ映像、右側が訓練現場で操作しているスマートフォンの画面

Starlinkの運用を効率化する新技術も紹介

 災害対策訓練場では、デモのほかに災害対策に関する同社の最新技術や製品も展示された。基地局などの被災状況や道路の通行止め情報を地図上に詳しく表示し、通信の復旧作業を効率的に行うためのウェブ技術を使った災害ダッシュボード、AIを活用した台風の被害予測といったソフト面の技術に加えて、ドローンを使った基地局へのワイヤレス給電などの技術も展示された。

 被災地でStarlinkを使うにあたっては電源を確保する必要があるが、薄型で丸めて持ち運びができる次世代太陽電池も開発しているという。開発中の太陽電池はわずか1㎏で、今後今回の訓練(1)や(2)の状況で現地に赴く際やエリアを広げる際、作業員が一緒に運び込み、Starlink運用時の電源としても活用できるようになる見込みだという。

軽量で丸めて運ぶことができるペロプスカイト太陽電池

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