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月着陸船「レジリエンス」は安定して航行–ispace「ミッション1よりもスムーズ」
2025.01.16 12:30
既報通り、ispace(東京都中央区)は月着陸船(ランダー)「RESILIENCE」との通信を確立させた。同社の民間月探査計画「HAKUTO-R」のミッション2「SMBC×HAKUTO-R VENTURE MOON」はサクセス3「安定した航行状態の確立」に成功した。
RESILIENCEは、米フロリダ州ケネディ宇宙センターからSpace Exploration Technologies(SpaceX、スペースX)のロケット「Falcon 9」で日本時間1月15日午後3時11分に打ち上げられた。打ち上げから2時間後、RESILIENCEは地上との通信を確立させるとともに、姿勢を安定させ、太陽電池パネルを展開して電源を供給できる状態となった。現在は、高度15万5000kmで地球を周回している。
打ち上げ翌日の1月16日に開いた記者会見で同社代表取締役で最高経営責任者(CEO)の袴田武史氏は「予定通りの軌道に予定通りの時間に飛行している」とRESILIENCEの現在の状況を説明。打ち上げ後に「機体の健康状態を確認するまでは安心できない」と話したが、サクセス2「打ち上げと分離の完了」とサクセス3に成功したことで「スムーズに推移している。安心している」との心境を明らかにした。
同社の最高技術責任者(CTO)氏家亮氏は、ミッション2の現況について「ミッション1よりスムーズ」と説明。2022年12月に打ち上げられたミッション1では、通信の確立にやや手間取ったという。
「ミッション1とミッション2では、ハードウェアもソフトウェアも変えていない。ミッション1の経験を生かして、ミッション2では、運用の仕方や判断の仕方を変えたり、パラメーターを調整したりしている。ミッション1では、通信を確立するまでにやや手間取ったが、ミッション2では、その経験が生きている」(氏家氏)
ミッション1では、通信が確立した時にミッションコントロールセンター(MCC、管制室)でオペレーターは抱き合って喜んだという。ミッション2は、その多くがすでにミッション1で経験済みだ。そのため、ミッション1で起きたような「ドラマはないよねと(ミッション2開発統括の)日達(佳嗣氏)と話していた」(氏家氏)。それでも「通信が確立した時にはMCCで拍手が起きた」(日達氏)という。
今日(1月16日)か明日(1月17日)にRESILIENCEは、初回軌道制御“マヌーバ”(推進システムなどエネルギーを動作に変換する装置であるアクチュエーターを制御して姿勢や位置を変えること)を実施する。打ち上げから約1カ月後(2月15日前後か)にRESILIENCEは月スイングバイを予定している。この月スイングバイは、ミッション1にはなかった行程だ。
ミッション2は、ispaceと同じように月着陸を目指す米Firefly Aerospaceのランダー「Blue Ghost」とFalcon 9に相乗りしている。打ち上げ後、先にBlue GhostがFalcon 9の第2段(上段)から分離、その後でRESILIENCEは分離された。そのため、増速量を稼ぐためにRESILIENCEは月の重力を利用したスイングバイを実行する。月スイングバイは、ミッション1で経験していないために「ミッション1より難しい」(日達氏)運用になる。
RESILIENCEは打ち上げらればかりであり、今後もさまざまな行程をこなす必要があるが、5月末か6月初旬にも月に到着する見込みだ。
- サクセス 1=打ち上げ準備の完了(-2~3日前)=成功
- ランダーすべての開発工程の完了
- 打ち上げロケットへの搭載完了
- 世界のさまざまな地域で柔軟にランダーを組み立てられる能力を実証
- サクセス 2=打ち上げと分離の完了(+1時間後)=成功
- ロケットからランダーの分離完了
- ランダーの構造が打ち上げ時の過酷な条件に耐えられること、設計の妥当性を再確認するとともに将来の開発やミッションに向けたデータを収集
- サクセス 3=安定した航行状態の確立(+数時間後)=成功
- ランダーと管制室の通信を確立し、姿勢の安定を確認するとともに軌道上での安定した電源供給を確立
- サクセス 4=初回軌道制御マヌーバの完了(+1~2日後)
- 初回の軌道制御マヌーバを実施、ランダーを予定軌道に投入
- サクセス 5=月スイングバイの完了(+1カ月後)
- 打ち上げ後1カ月で月スイングバイを完了
- 深宇宙航行を開始
- サクセス 6=月周回軌道投入(Lunar Orbit Insertion:LOI)前にすべての深宇宙軌道制御マヌーバの完了(+3~3.5カ月後)
- 太陽の重力を利用したすべての深宇宙軌道制御マヌーバを完了し、月周回軌道投入マヌーバの準備を完了
- 深宇宙でのランダー運用能力と航行軌道計画を再実証
- サクセス 7=月周回軌道への到達(+4カ月後)
- 最初の月周回軌道投入マヌーバによるランダーのLOI完了
- ランダーとペイロードを月周回軌道に投入する能力を再実証
- サクセス 8=月周回軌道上でのすべての軌道制御マヌーバの完了(+4.5カ月後)
- 着陸シーケンスの前に計画されているすべての月軌道制御マヌーバを完了
- ランダーが着陸シーケンスの開始準備ができていることを実証
- サクセス 9=月着陸の完了(+4.5カ月後)
- 月面着陸を完了させ、今後のミッションに向けた着陸能力を実証
- サクセス10=月着陸後の安定状態の確立(+4.5カ月後)
- 着陸後の月面での安定した通信と電力確保を確立
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ispaceプレスリリース