世界初の「木造衛星」、ISSに輸送完了--宇宙での成果を地上での木材開発に活用

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世界初の「木造衛星」、ISSに輸送完了–宇宙での成果を地上での木材開発に活用

2024.11.08 08:00

UchuBizスタッフ

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 世界初の“木造衛星”「LignoSat」1号機が国際宇宙ステーション(ISS)に輸送された。1カ月程度をめどにISSから宇宙空間に放出される予定。1カ月程度の初期運用の後に実運用される。

 開発したのは、京都大学住友林業が2020年4月から取り組みを進めている「宇宙木材プロジェクト(LignoStella Project)」。LignoSat1号機は、ISSから放出後に木造構体のひずみ、内部温度分布、地磁気、ソフトウェアエラーを測定し、京都大学内に設置された通信局にデータを送信する計画。1号機から得られるデータを分析する。

 京都大学は1号機の開発ノウハウと運用データを、今後計画している2号機の設計や2号機で計測を検討しているデータの基礎資料として活用する。

 住友林業は、得られた知見を分析して、ナノレベルでの物質劣化の根本的なメカニズムの解明を目指すという。メカニズムを解明することで木材の劣化抑制技術の開発、高耐久木質外装材などの高機能木質建材や木材の新用途開発を進める。従来は木材が使われていなかった箇所での活用、例えばデータセンター施設などへの木材利用の拡大につなげたいとしている。

 木材は電磁波や地磁気を透過するので、アンテナや姿勢制御装置を衛星内部に設置でき、衛星の構造を簡素化できるという。運用終了後に大気圏に突入すれば、衛星は燃え尽きる。燃焼時に大気環境などの汚染源になり得る「アルミナ粒子」が発生しない、よりクリーンで環境に優しい衛星の開発につながるとメリットを説明している。

LignoSat1号機のフライトモデル(出典:京都大学)
LignoSat1号機のフライトモデル(出典:京都大学)

 LignoStella Projectでは、2022年3月から10カ月間木材を宇宙空間に曝露する実験を実施。曝露された試験体の外観や質量などを測定すると、木材の割れや反り、剥がれなどはなく、温度変化が大きく強力な宇宙線が飛び交う極限の宇宙環境下でも、試験体の劣化は極めて軽微で材質は安定しており、木材の優れた耐久性を確認したという。

 宇宙空間に曝露された試験体を曝露前後で質量の変化も測定した。宇宙放射線や宇宙空間の“原子状酸素(Atomic Oxygen:AO)”が木材にぶつかることによる表層の消失、化学変化や分解による質量変化の程度を検証。試験体の重量を測定し、含水率の影響を補正した結果では、ほとんど減少していないことも確認している。

 極端な温度変化、原子状酸素の衝突、銀河宇宙線(Galactic Cosmic Ray:GCR)や太陽エネルギー粒子(Solar Energetic Particle:SEP)の影響など地球上とは桁違いに過酷な環境下の宇宙空間に10カ月間晒された試験体は、それらの影響から何らかの浸食が生じることを想定していた。予想に反して外観上に極端な劣化は認められず、木材の利用拡大への可能性を再認識する結果と説明している。

 こうした試験の結果から1号機は、地上で実施した加工性の高さや寸法安定性、強度などの各種試験の結果も踏まえ、ホオノキで製造することが決まった

 ISSに運ばれた1号機のフライトモデルの構体は、住友林業の紋別社有林で伐採したホオノキ材を選定。構体の構造はネジや接着剤を一切使わず精緻かつ強固に組み上げる「留形隠し蟻組接ぎ(とめがたかくしありくみつぎ)」と呼ばれる日本古来の伝統的技法を採用した

 1号機の大きさは10cm×10cm×10cm(キューブサット規格で言う1U)。計画している2号機の大きさは10cm×10cm×20cmの2Uを考えている。

 LignoSat1号機をISSに運んだのはSpace Exploration Technologies(SpaceX)の無人補給機「Cargo Dragon」。Cargo Dragonは米フロリダ州ケネディ宇宙センターからロケット「Falcon 9」で日本時間11月5日午前11時29分に打ち上げられた。Cargo Dragonは同日午後11時53分頃にISSの「Harmony」モジュールにドッキングした。

 米航空宇宙局(NASA)はISSに物資の輸送を委託する「商業補給サービス(Commercial Resupply Services:CRS)」をSpaceXを含む民間企業と契約している。今回のミッション「NASA 31st Commercial Resupply Service mission」(SpX-31)はミッションを運用するSpaceXにとって31回目(CRSのフェーズ2「CRS-2」では11回目)。

 1号機は、ISSの日本実験棟(JEM)「きぼう」にある「小型衛星放出機構(JEM Small Satellite Orbital Deployer:J-SSOD)」から放出される予定。J-SSODは、キューブサット規格の衛星や50kg級の超小型衛星をきぼうのエアロックから搬出して宇宙に打ち出して軌道に乗せるための仕組み。

(出典:京大宇宙木材プロジェクトXアカウント)

関連情報
住友林業プレスリリース(2020年12月23日発表2024年5月28日発表
京大宇宙木材プロジェクトX(旧Twitter)アカウント

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