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災害時に活躍する「スターリンク」に短所はあるのか–KDDIが通信復旧の説明会

2024.07.25 15:00

小口貴宏(編集部)

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 KDDIは7月23日、ネットワーク運用に関する説明会でを開催。Space Exploration Technologies(SpaceX)の低軌道衛星ブロードバンド「Starlink」を通信復旧に生かしたエピソードを説明した。

通信状況を常時モニタリングしているKDDIの多摩ネットワークセンター

 1月1日の「令和6年能登半島地震」では最大震度7を観測。能登地域を中心とした広い地域が強い揺れに見舞われた。KDDIは地震発生から3分後の16時13分に災害対策本部を設置し、通信復旧に乗り出したが、基地局や光ケーブルの破損によって生じたネットワークの被害は甚大だった。

 「基地局は耐震基準を満たして作られているが、局所的に壊れたり津波で破壊されたものも多かった。復旧に向かうにも道路が寸断されていたり、余震の回数も多く、雪崩が起きたりで、現場の環境の変化も激しかった」(KDDI コア技術統括本部 エンジニアリング推進本部 ネットワーク強靭化推進室長の大石忠央氏)

基地局の倒壊、道路の隆起、土砂崩れなども多かった

 そこでKDDIが応急復旧に用いたツールの1つが、車載型を含む可搬型基地局だ。同基地局は衛星通信機能を備えており、光ケーブルが破損しても衛星回線経由で付近の携帯ネットワークを復旧できる。

可搬型基地局は衛星回線を経由してエリアを復旧する

 この可搬型基地局にはこれまで、静止衛星を用いた衛星回線が利用されていた。一方、2023年にStarlinkアンテナを搭載した可搬型基地局を導入。今回の能登地震でも投入されたのだ。

KDDIが2023年に導入したStarlink搭載型の可搬型基地局
車両に取り付けた車載型も

 可搬型基地局にStarlinkを導入したメリットの1つは、高い通信品質だ。高度3万6000kmの静止衛星を使った通信は遅延が大きく通信スループットも低い。一方のStarlink衛星は高度550kmの低軌道を周回しており、低遅延で速度もブロードバンド並みだ。

 もう1つのメリットは圧倒的な可搬性だ。Starlinkの機材は、従来の静止衛星用機材と比べて大きさは5分の2、重量は5分の1。現場のスタッフから「既存の可搬型基地局はもう重たくて持てない」と言われるほど、可搬性の向上がみられたという。

静止衛星と通信するためのパラボラアンテナ。Starlinkのアンテナに比べると巨大で可搬性に劣る

スターリンクに短所はあるのか

 ここまで書くとStarlinkは災害復旧において無敵に思える。念のためKDDIの担当者に「Starlinkにも弱点はあるのか」と聞いてみたところ「ある」と即答で返ってきた。

 その弱点とは、Starlinkで通信を確保する場合には、北の空が広く開けていなければならないという点だ。日本でStarlink衛星は主に北の空に出現する。また、Starlink衛星は「ピストルの弾丸の10倍」という猛スピードで軌道を周回しており、すぐに視界から消えてしまう。そのため、常に複数の衛星をアンテナの視界に入れる必要があり、広い視界が必要になる。

 一方の静止衛星は、その名の通り地上からは静止した点に見える。そのため、南側の特定方向の視界さえ確保できれば、通信を確立できる利点があるという。

スマホ直接通信は「2024年の終わり頃にサービス開始」

 KDDIは、スマートフォンが直接Starlinkにつながる「Direct to Cell」の2024年内の導入を目指している。当初はSMSに対応し、後に音声通話やデータ通信にも対応する。

 Direct to Cellの導入時期についてKDDIは「2024年の終わりごろ」と説明。同サービスが実用化すれば、災害などで通信が寸断しても、空が開けていれば手持ちのスマートフォンで通信できるようになる。

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