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兆円単位の資源が眠る「小惑星」に月イチ定期便–JAXA発ベンチャーAstromineが4月発足
2024.03.29 10:21
太陽系の小惑星には莫大な資源が眠るとされる。日本の探査機「はやぶさ2」が探査した小惑星「りゅうぐう」には、1000人が500年生きるために必要な水資源が存在するという。また、小惑星には水だけでなく、金属からアミノ酸まで多様な資源が存在し、小さくても8兆円、ものによっては1000兆円以上の価値があるとも言われる。
そんな中、小惑星の資源探査をビジネス化する企業が日本から登場する。JAXA発ベンチャーとして4月に発足するAstromine(アストロマイン)だ。
同社を立ち上げるのは、JAXA宇宙科学研究所 工学系 准教授を務める尾崎直哉氏、同研究所理学系 国際トップヤングリサーチフェロー(准教授相当)を務める兵頭龍樹氏の2名だ。いずれもJAXAで宇宙探査に携わっており、内閣府主催の宇宙ビジネスコンテスト「S-Booster 2023」で最優秀賞を獲得したことでも話題となった。
同社が目指すのは、「月に1度」という高頻度での小惑星資源探査だ。独自の「フライバイサイクラー」という軌道設計技術によって、小惑星の資源採掘の前段階において必要となる「事前調査」サービスの提供をめざす。
このフライバイサイクラーは、地球の重力を活用した「スイングバイ」と機械学習を組み合わせた軌道設計手法だ。1度小惑星に向かった探査機は、地球に戻ってくると、地球の重力で軌道を変えて、再び別の小惑星へと向かう。これによって、1年に1度は小惑星に到達できる軌道となる。これを12機組み合わせた「深宇宙コンステレーション」とすることで、1カ月に1度という探査の高頻度化をめざす。
資源調査に用いる衛星は、地球低軌道などで用いられる超小型衛星を流用可能で、1回あたりの探査コストは1〜5億円と、従来の数百億円から大幅に圧縮できる。日本はキューブサットの発祥の地でもあり、アークエッジスペースやアクセルスペースなど、超小型衛星を手掛けるベンチャーが存在する点も利点となる。
小惑星への接近時は、センサーを用いて水の有無や鉱物組成、大きさ、形状、重心などを調べる。小惑星資源探査には「望遠鏡による発見」「事前調査」「誘導・資源採取」の3ステップが必要だというが、このうち事前調査に特化した企業はグローバルでも存在しないとしている。
当初は官需の取り込みを狙う
なお、小惑星資源の採掘はまだまだ先の話だ。そこで、2026年〜27年ごろには衛星2機の体制を構築し、小惑星科学探査の官需を狙う。また、2030年ごろには地球に危害を与える恐れのある小惑星を詳細に調査する「プラネタリーディフェンス」分野での政府からの案件獲得をめざす。
日本政府は1兆円規模の「JAXA基金」や「SBIR3」制度で宇宙スタートアップを強力にバックアップしており、そうした予算の獲得も狙う。その後、2030年代以降には12機体制とし、本格的に立ち上がる資源探査市場での売り上げ獲得をめざす。
また、兵頭氏によると、将来的に月で経済活動が起こるにしても、月では自給自足するだけの資源を満たせないという。とはいえ重力の大きい地球から物資を輸送するにはコストがかかりすぎるため、小惑星は月にとっても大きな資源基地になるとしている。