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次期太陽観測衛星「SOLAR-C」、プロジェクト発足–太陽の謎を解明、2028年度打ち上げ目指す
2024.03.04 13:24
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は3月1日、次期太陽観測衛星「SOLAR-C」プロジェクトチームを発足させたことを発表した。2028年度の打ち上げを目指して衛星や望遠鏡などの開発を進める。
地球を含めた太陽系は、太陽が生み出す高温の大気(プラズマ)で満たされている。この高温のプラズマはどのように作られ、太陽はどのように地球や惑星に影響を及ぼすのか? 重要となるのが、約6000度の太陽表面に対して、100万度以上に達する高温の太陽コロナや太陽風がどのように作られるのか、太陽フレアがどのように発生するのか、という問題だ。
これまでの観測で、太陽表面でのエネルギー注入や上空でのエネルギー解放の振る舞いが明らかになっている。だが、その振る舞いが起きる仕組みや背景にある物理過程はブラックボックスのままという。
SOLAR-Cは、エネルギーの注入と解放の間でエネルギーや物質がどのように輸送されるのか、エネルギーが開放される現場を捉えて何が起きているのかを診断することでブラックボックスの理解に迫るとしている。
SOLAR-Cは、3つの紫外線分光観測を実現させる。これは世界で初めてという。
温度が1万度という、太陽の表層である「彩層」、100万度のコロナ、1500万度のフレアまで3桁にわたる幅広い温度帯を同時に観測する。紫外線を集める能力を従来の10~30倍に高めることで0.4秒角という高空間、1秒という高時間という分解能で太陽の大気の要素構造を解像する。加えて、1秒あたり2kmの分光観測で速度や温度、密度、電離度などの分光情報を獲得する。
これらの観測で彩層からコロナまでの広い範囲で太陽の大気が運動する様子を獲得できるとしている。
SOLAR-Cに搭載される望遠鏡「EUVST」(EUV high throughput Spectroscopic Telescope)は、波長が10~121nmの極端紫外線(Extreme UltraViolet)から波長が10~200nmの遠紫外線を分光観測して温度や密度、速度といったプラズマの情報を撮像して取得して分光望遠鏡。自然科学研究機構(National Institutes of Natural Sciences:NINS)の国立天文台(NAOJ)とJAXAの宇宙科学研究所(ISAS)が共同でEUVSTと衛星を開発する。
SOLAR-Cは日本が主導し、米航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)が参加する国際協力衛星計画。イタリア宇宙機関(Agenzia Spaziale Italiana:ASI)やフランス国立宇宙研究センター(Centre National d’études spatiales:CNES)、ドイツ航空宇宙センター(Deutsches Zentrum für Luft- und Raumfahrt:DLR)も支援する。
衛星の運用は、ISASがNAOJや全国の大学研究所の協力を得ながら実施する予定。地上にダウンリンクされた観測データを較正し、データを解析する環境を全国の大学研究者に提供するサイエンスセンターは名古屋大学の宇宙地球環境研究所(Institute for Space-Earth Environmetal Research:ISEE)が運営する。
SOLAR-Cは2023年12月に衛星システムの妥当性を確認するシステム定義審査、2024年2月にプロジェクト全体の妥当性を経営審査するプロジェクト移行審査が完了した。
プロジェクトの正式名称は「高感度太陽紫外線分光観測衛星」。だが、これまでの太陽観測衛星、1991年に打ち上げられた「SOLAR-A」(ようこう)、2006年に打ち上げられた「SOLAR-B」(ひので)にちなんでSOLAR-Cを略称にしている。