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SXSW Sydneyにみたオーストラリアの「宇宙ビジネス」への本気度

2024.01.05 15:47

野々下裕子

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 オーストラリアが国をあげて宇宙ビジネスへ本格的に取り組み始めている。1967年に宇宙衛星の打ち上げを成功させ、アポロ計画で人類が初めて月に降り立った映像を中継したことで知られるオーストラリアだが、その後はしばらく宇宙開発からは遠ざかっていた。

 2018年7月にようやく「オーストラリア宇宙庁」が立ち上げられ、中長期戦略「Advancing Space Australian Civil Space Strategy 2019-2028」を策定している。NASAやJAXAといった海外の宇宙機関との協力関係も強めており、ビジネス面でも様々な取り組みが発表されている。

 たとえば、シドニーを州都にするニューサウスウェールズ州政府では、宇宙ビジネスに関連するスタートアップや研究機関を支援する「The National Space Industry Hub」を設置する計画を立てている。2023年10月にシドニーで開催された国際フェスティバル「SXSW Sydney」でも、オーストラリアの宇宙ビジネスに関する展示やセッションが複数設けられた。

SXSW SydneyはSXSWの公式スピンアウトとして初めて米国外で開催された

 SXSW Sydneyは、毎年米国テキサス州オースティンで開催される、世界最大級の国際イベントの1つとして知られる「SXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)」の初となる公式スピンアウトイベントとして、2023年10月5日から22日までシドニーで開催された。

 「TECH&INNOVATION」「MUSIC」「SCREEN」「GAMES」という異なる4つのジャンルを1つにした複合イベントで、シドニー国際会議場(ICC)を中心に、徒歩25分圏内にある公園やレストラン、ライブハウス、映画館、大学などを会場に、展示会やカンファレンス、ライブなど1100を超える様々なプログラムが繰り広げられた。

4つのジャンルをテーマにカンファレンスやライブなど様々なプログラムが行われた

 SXSWの参加者は、比較的最新テクノロジーやサイエンス分野に関心が高く、本家オースティンはヒューストンに近いこともあり、NASAが大々的にブースを出展していたこともある。SXSW Sydneyは全体的に本家と雰囲気やプログラムの傾向が似ていた。また、オーストラリア政府が宇宙ビジネスに力を入れていることもあり、宇宙関連の展示やプログラムも複数見られた。

 たとえば、展示エリア(EXPO)では、メルボルンのMonash大学が2017年から開発を続けている次世代惑星探査車「MONASH NOVA ROVER」の最新モデル「Waratah」が展示されていた。遠くから見ても目立つピンクの車体は、女性のSTEM参加を後押しするキャンペーンカラーでもあるという。

 チームはオーストラリアの工業大学を対象にした惑星探査ローバーの開発コンテスト「The Australian Rover Challenge(ARC)」で3年連続1位になっており、米国ユタ州で開催されている国際コンテスト「The University Rover Challenge(URC)」では2023年に2位を受賞している。

Monash大学チームが開発する5代目のローバーはピンクカラーが印象的

 オーストラリア連邦科学産業研究機構CSIROは、展示ブースと別途設けられたラウンジエリアで、宇宙技術など様々な科学技術を応用した商品開発やビジネス事例を紹介していた。また、会場の1つであるUTS(シドニー工科大学)では、学生たちが研究するロケットやロボット技術のデモが行われていた。

 宇宙関連のカンファレンスも複数あり、「Space for All Australians」ではオーストラリア宇宙庁の最高技術責任者と、Optus Satellite and Space Systems (OPTUS)の衛星政策産業マネージャー、そしてAWSでアジア太平洋エリアの航空宇宙と衛星ソリューションビジネスを担当するチームリーダーを務める3名の女性が登壇し、オーストラリアの宇宙開発とビジネスの可能性ついて語った。

 NASAと連携して月面探査車を打ち上げると発表しているアルテミス計画については、「NASA’s Artemis Program-Australia’s Role in the Moon to Mars Mission」と「How Exploring Space Benefits Earth」の2つのパネルセッションで取り上げ、いずれも多くの参加者が集まっていた。

 SXSWのカンファレンスはスピーカーの話を一方的に聞くのではなく、テーマについて議論することを目的としている。SXSW Sydneyでもそのスタイルが踏襲されており、参加者からはアルテミス計画がオーストラリアにどのような影響を与えるのかといった質問が寄せられ、活発な議論が行われていた。

宇宙をテーマにしたセッションはいずれもスピーカーと参加者が熱心に議論を交わしていた

 そのほかにも、宇宙で生活するようになる未来社会をテーマにしたユニークなセッションもあった。その1つ、「Redesigning Our Food Systems for Space and a Healthy Planet」では、地球の食糧危機を解決するフードテックが宇宙でも生かされるかといったことが話し合われた。また、天体物理学者とTVキャスター、YouTuberが一緒に語り合う「A Second Earth」は、イベントに参加するミュージシャンや映画監督、ゲーム開発者といったクリエイターたちに向けて、宇宙のリアルを知り創造性を高めてもらうきっかけにしていた。

 SXSW Sydneyでは、古い発電所を改装した博物館「POWER HOUSE」も会場になっており、そこではオーストラリアの宇宙開発を知るコーナーを見学することができた。世界の宇宙開発の歴史とあわせてオーストラリアの取り組みが紹介されており、宇宙教育や科学教育全般に力が入れられていることが感じられた。

博物館「Powerhouse Ultimo」の宇宙展示コーナーは資料が充実しており、たくさんの人たちが訪れていた

 シドニーでは2025年に宇宙業界最大の国際フォーラム「国際宇宙会議(IAC)」が開催されることも決まっており、それをきっかけに宇宙ビジネスへさらに力を入れようとしている。SXSW Sydneyも2024年の開催が決まっており、そこでもオーストラリアの宇宙ビジネスが取り上げられるのか注目したいところだ。

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